朝日新聞 2013年06月22日
自民党の公約 有権者を甘くみるな
自民党が発表した参院選の公約の冒頭に、安倍首相はこうつづっている。
日本を覆っていた暗く重い空気は一変しました――。
本当にそうだろうか。
出足こそ好調だったアベノミクスだが、このところの市場乱調で先行きには不安が漂う。首相の認識は楽観的すぎる。
個別の政策目標でも、政府の成長戦略そのままの威勢のいい数字が並ぶ。
▽今後3年間で設備投資を年間70兆円に回復
▽17年度末までに約40万人の保育の受け皿を新たに確保
▽20年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円に
しかし、これまでにも指摘してきたようにいずれもハードルは高く、実現の道筋は描けていない。
一方で、来年4月の消費税率引き上げに一切触れていないのはどうしたことか。社会保障改革も「国民会議の結果を踏まえて必要な見直しをする」とするにとどめた。
ともに国民に負担を強いるテーマだ。選挙に不利になるから盛り込まなかったとすれば、これほど有権者をばかにした話はない。
09年の総選挙で、民主党は実現不能なバラ色のマニフェストを掲げ、破綻(はたん)につながった。野党としてそれを批判してきた自民党が、いままた同じ轍(てつ)を踏もうというのか。
看過できないのが、原発をめぐる政策転換だ。
先の総選挙で自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立をめざす」と公約していた。たった半年前のことである。
それが今回は「地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をする」と、休止中の原発の再稼働推進に踏み込んだ。
3・11から2年が過ぎ、安全より経済優先で理解が得られると思っているのか。首相は衆院選公約との整合性をきちんと説明する責任がある。
この参院選を機に、与党は衆参両院で過半数を得て「政治の安定」を実現しようとしている。そうなれば、今後の政策を進めるうえで与党の力は格段に強まる。
私たちが、自民党の公約に注目するのはそのためだ。
公約では、憲法改正や集団的自衛権行使など、いわゆる「安倍カラー」を強く打ち出してはいない。だが、参院選が終わったら「白紙委任」を得たとばかり走り出すようでは困る。
この公約には、そんな危うさがつきまとう。
|
毎日新聞 2013年06月21日
自民参院選公約 「選挙後」の針路がみえぬ
参院選公約を自民党が発表した。投資減税など経済政策を強調する一方で、安倍晋三首相が積極的だった改憲手続きを定める憲法96条改正の先行には踏み込まなかった。
衆参ねじれを解消し、安倍内閣が本格政権になるかを決する選挙だ。自民党が何を具体的に目指していくのかが問われるが、公約が判断材料を十分に示したとは言いがたい。
「さあ、経済を取り戻そう」「さあ、安心を取り戻そう」。参院選公約の基調は民主党から政権を奪還したさきの衆院選同様「日本を、取り戻す」路線の継続である。各種世論調査で自民党支持率は他党を大きく上回る。秋の内閣改造に言及する気の早い閣僚すらいる。際だった争点を打ち出さずとも政権半年が評価されるという自信なのかもしれない。
だが「取り戻す」というスローガンそれ自体が政策の方向を示しているわけではない。
たとえば経済政策。公約はいわゆるアベノミクスの「三本の矢」と並べて財政健全化を記した。政府は今夏に中期財政計画をまとめるが、機動的な財政政策を終息させ、財政再建主軸にかじを切るのだろうか。
財政健全化が「国土強靱(きょうじん)化」による公共事業重視と整合するかは疑問である。「法人税の大胆な引き下げ」を記したが時期や規模をどうするのか。秋に判断を迫られる来春の消費増税実施についてもより明確な方向を示すべきだ。
憲法は党改正草案の主な内容を10項目並べ、国会提出を目指す原則を示した。あくまで一括改正を目指すというのなら別だが、どんな優先順位で議論を進める方針なのかがわからないと、有権者は判断できない。
96条改正は改正草案の考えにふれつつ、先行処理は言及しなかった。各種世論調査で反対意見が多いうえ、積極派の日本維新の会が失速してきたことの影響だろう。
国民投票に向けて国会が提案する要件を大幅緩和する自民案は立憲主義の観点から問題があり、私たちは反対だ。だが、政治状況で優先度が動くようではどんな認識で改憲論を提起しているかが逆に問われよう。
エネルギー政策は原発について「地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力」をしつつ再稼働する方針を示し、「原子力技術等のインフラ輸出の支援体制強化」も打ち出した。前政権の脱原発依存路線のなし崩し的な修正を危ぶむ。
仮に与党がねじれ状態を解消しても有権者は安倍内閣に政策を白紙委任するわけではない。自民党は政策の指針を有権者にできる限り具体的に示し、理解を得る責任がある。抽象的な「取り戻す」からそろそろ卒業すべきだ。
|
読売新聞 2013年06月21日
自民参院選公約 政権党としては物足りない
政権復帰から半年を経た安倍政権は、山積する内外の課題にどう立ち向かうのか。
自民党が参院選公約を発表した。経済政策「アベノミクス」の実現を前面に押し出し、投資減税や法人税の大胆な引き下げを言明した。積極的な姿勢はうかがえるが、踏み込み不足も目立つ。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉については、「守るべきは守り、攻めるべきは攻めることで、国益にかなう最善の道を追求する」とうたった。
日本は7月末から交渉に加わる予定だ。本格交渉はこれからにせよ、農業分野での競争力強化策など、自由化に備えた具体策を明確にしていないのは物足りない。
TPP交渉参加への反発が農産地で根強いからだろう。北海道ではJAグループの政治団体が自主投票を決めるなど、参院選に向けた牽制の動きが表れている。
党執行部は結局、公約を補足する総合政策集「J―ファイル2013」にTPP反対派の主張を反映させた。コメや麦といった農産品重要5項目などの「聖域」が確保できなければ、交渉からの「脱退も辞さない」と明記した。
J―ファイルは中長期的な政策目標を示すものだ。苦肉の対応といえよう。
エネルギー政策では、「地元自治体の理解を得られるよう最大限の努力をする」として、政府の原子力規制委員会が安全性を確認した原発の再稼働を推進する方針を盛り込んでいる。
経済成長の実現に欠かせない原発再稼働の方針を明記したのは妥当だ。ただ、中長期的なエネルギー戦略として原発や核燃サイクルをどう位置づけるのか、あいまいな点が多く、わかりにくい。
憲法について、「時代の要請と新たな課題に対応できる」よう改正を訴えたのは当然である。
改正手続きを定めた96条については、「主権者である国民が『国民投票』を通じて、憲法判断に参加する機会を得やすくする」と、発議要件を緩和する必要性を強調した。国民の理解を得るため、より丁寧に説明していくべきだ。
「96条の先行改正」は、公明党が慎重姿勢を示したこともあって、見送られた。
憲法改正を巡る立場の違いなどから、自民党は今回、公明党との共通公約の策定を見送らざるを得なかった。公明党は参院選後、憲法改正問題のカギを握る可能性がある。自公両党は、粘り強く協議を続けることが肝要だ。
|
産経新聞 2013年06月22日
自民党公約 国家の再生へ具体像語れ
自民党が発表した参院選公約は、アベノミクス推進を軸に与党として取り組むべき内外の喫緊の課題を列挙している。
ただ、それらをどう実現するのか。具体的な手法を伴い、国民との約束として説得力あるものになっているかといえば、はなはだ疑問である。国家再生へのメニューとして物足りなさは否めない。
その要因は、安倍晋三首相の安全運転ぶりが公約に強く表れたためではないか。「ねじれを解消してこそ、政治の安定が実現できる」とし、参院選勝利が政権の最重要課題となっているのは分かるが、その上で何を実現しようというのか、明確にすべきだ。
首相は今後も論戦を通じて、日本の国家像を語ってほしい。
安全運転ぶりを物語るのは、憲法改正の発議要件を衆参各院の総議員の「3分の2以上」から過半数に緩和する96条の先行改正の方針を明記しなかったことだ。
「自民党はまず96条から始める」と首相が唱えてきたのは、今の憲法では日本の平和と安全を守り抜けないという危機感からだろう。自らの生存と安全を他国に委ねている前文が象徴する。
憲法改正を求める民意を反映させるため、国会の発議要件の高いハードルを引き下げるのは極めて妥当だ。参院選の争点とすることで国民の理解を深めるべきだ。
金融緩和と財政出動、民間投資を喚起する成長戦略というアベノミクスの「三本の矢」を一体的に推進すると訴えた。持続的な成長を図るためには、アベノミクスへのさらなる信認を得る必要があり、それには成長戦略の追加策が欠かせない。
公約には「大胆な法人税の引き下げ」も盛り込まれたが、先の衆院選公約を踏襲したにすぎない。先進国の中で高い法人税の実効税率について、具体的な引き下げ目標を示すなど、企業の国内投資を促す政策の提示が求められる。
選挙公約と「総合政策集」の使い分けも気になる。政策集では、TPPで「聖域」を確保できなければ「脱退も辞さない」とした。反対派への配慮だろう。
米軍普天間飛行場の移設問題では、名護市辺野古への移設推進を公約に明記した。だが、沖縄県連が地域版公約で「県外移設」を主張していることを事実上黙認している。自民党として課題実現への本気度が問われかねない。
|
この記事へのコメントはありません。