FRB出口戦略 市場の混乱防ぐ舵取りが要る

朝日新聞 2013年06月21日

米金融政策 緩和依存からの出口に

景気や雇用の回復が順調なら、来年半ばごろに量的緩和を終わらせることができる――。

米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、「QE3」と呼ばれる金融緩和策の「出口」について、踏み込んだ見通しを示した。

事前には、市場の失望を恐れてうやむやに済ませるのではないかとの臆測も強かった。このため直後のニューヨーク市場では株式も米国債も売られた。

だが、議長はむしろ具体的に語ることで、行き過ぎた市場の思惑を鎮めようとした。妥当な判断だ。

最近の米国市場は異常だった。先月、議会証言で議長がQE3終了の可能性にさらりと触れただけで世界の市場に動揺が走り、東京の株価も急落した。以後、景気の良しあしより、QE3が終了する時期をめぐる推測で株価が騰落する「あべこべ相場」が続いた。

異様な市場の動きは、超金融緩和の矛盾が来るところまで来たことを示している。問題を先送りしても、後々の反動が大きくなるだけだ。市場が中央銀行に際限なく緩和をねだる「依存症」を徐々に矯正するのは必要なことでもある。

この1年ほど、日米欧の先進国で経済運営での中央銀行頼みが急速に深まった。これは何より政治の機能不全の裏返しだ。議会のねじれや選挙、ユーロ圏では加盟国の足並みの乱れと、事情は様々である。

しかし、根底にあるのは、経済を強化するには不可欠ながら有権者には不人気な構造改革などの政策に、時の政権が尻込みする民主主義の弱点だ。

勢い、本来は時間稼ぎでしかない金融緩和を万能薬のように過大評価し、中央銀行に圧力をかける。緩和で一服すると必要な改革を怠る。

こうした緩和依存症が広がれば、企業間の健全な競争も阻害し、活力を弱める。議長が景気回復を強調しつつ出口を明確に語った背景には、産業界に奮起を促す狙いもあるはずだ。

日本も学ぶべきことは多いだろう。

アベノミクスでは、大胆な成長戦略を打ち出す条件つきで極端な金融緩和を先行させた。

だが、財政出動を含む「3本の矢」のバランスが崩れれば、緩和のおねだりが強まる危険は常にある。

日銀は量的緩和の副作用や限界、そして出口についても率直に語り、政治にも市場や企業にも自立を促す努力を怠ってはならない。

毎日新聞 2013年06月22日

米の量的緩和 正常化の試練いよいよ

米国の中央銀行が、前例のない大規模な金融緩和からの脱却に向け、ようやく踏み出す姿勢を示した。バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長が会見で明らかにしたもので、年内に量的緩和の規模を段階的に縮小し始め、来年半ばまでに終了する見通しという。

政策が極端であっただけに、手じまう過程でさまざまな波紋が国内外に及ぶだろう。市場とのコミュニケーションに努め、早期の正常化に成功してもらいたい。

FRBは2008年のリーマン・ショック後、未到の政策領域に足を踏み入れた。ゼロ金利の導入と、国債などの金融資産を大量に購入して市場に資金を供給する量的緩和だ。 金融市場のパニックを鎮静した初期の対応には評価もあるが、危機が収まった後もFRBは第2弾、第3弾と緩和を追加。毎月の資産買い入れ規模は約8.5兆円に及ぶ。

経済が安定を取り戻し、株式や債券市場でバブルの懸念が強まっていたことを考えると、平時モードに戻すのは当然だ。ただ移行の道のりは平たんではなく、FRBの試練はまさにこれからといってよい。

まず、開始の時期や縮小のペースがある。来年1月末に2期目の任期満了でバーナンキ議長が退任となれば、後任人事もからみ、市場は不安定な相場展開となるだろう。

量的緩和の収束が国内外の長期金利や為替相場に与える影響も予見し難い。長期金利の上昇(国債価格の下落)は、量的緩和により膨張しきったFRBの資産を目減りさせることになるが、その影響も不透明だ。

それでも、異常な政策からの脱却を先延ばしにはできない。バーナンキ議長の会見を受け、世界的に株価が急落したが、緩和による過剰マネーが相場をかさ上げしていた証しともいえる。正常化への着手が遅れるほど、ゆがみが増幅し、将来より大きな反動を招くことになるだろう。FRBの利上げが遅れたことが、リーマン・ショックに至る不動産・証券バブルの大きな要因となったことを忘れてはならない。

量的緩和を順調に終了できても、利上げが始まるのは相当先になりそうだ。極めて緩い金融政策が長期化するリスクを軽視すべきでない。

極端な金融緩和に一度手を出すと、やめるのがいかに難しいかということだ。日銀にも降りかかってくる試練である。加えて日本には財政という巨大な重しがある。国の利払いが耐えられないとの理由から、量的緩和の解除ができなくなるようなことがあっては大変だ。

「1本目の矢」(大胆な金融緩和)を放った責任を負う安倍政権は、今から心しておいてほしい。

読売新聞 2013年06月21日

FRB出口戦略 市場の混乱防ぐ舵取りが要る

米連邦準備制度理事会(FRB)が、米国景気を下支えしてきた異例の規模の量的緩和策第3弾(QE3)を、年内に縮小し始める見通しだ。

バーナンキFRB議長は19日、連邦公開市場委員会(FOMC)後に記者会見し、金融政策を正常に戻す「出口戦略」を初めて明らかにした。

景気回復が順調に進めば、米国債などを毎月850億ドル(約8・2兆円)買い入れているQE3について、「年後半にペースを縮小し、来年半ばに購入を終了するのが適切」と述べた。

条件付きながら、焦点だったQE3の縮小と終了時期を表明した影響は大きい。

2008年のリーマン・ショック後、FRBは、金融危機を収束させるとともに、景気テコ入れのため、量的緩和策を3回にわたって実施してきた。いよいよ出口戦略に動き出すことは、非常時に対応した政策の転換を意味する。

議長の踏み込んだ発言には、最近の米国の景気回復基調に自信を深めていることがうかがえる。金融政策の先行き不透明感を払拭したい狙いもあるのだろう。

しかし、19日のニューヨーク株式市場の株価は、前日比200ドル以上も値下がりし、20日の東京市場の株価も大幅に下落した。

株式市場への資金流入が減少するとの懸念から、日米とも売りが膨らんだのが主因だ。

今後も、世界の株価や為替相場の乱高下を招く恐れがある。市場の混乱防止へ、FRBは難しい(かじ)取りを迫られる。

FRBは昨年末、異例策の一環として08年12月から続けるゼロ金利政策の解除については、インフレ率を見ながら、「失業率が6・5%に下がるまで続ける」という方針を示している。

ただし、現在7・6%の失業率が6・5%に低下するのは早くても14年とみられる。雇用情勢の改善は緩慢で、本格的な景気回復は不透明だ。オバマ政権の財政引き締めの悪影響も軽視できない。

混乱なくQE3を終了させ、それに続いて、ゼロ金利政策解除にいつ踏み切るか。FRBは、「市場との対話」をさらに工夫することが求められよう。

異次元の量的緩和策を続ける日本銀行にとっても、FRBの課題は「他山の石」と言える。

当面は、デフレ脱却や日本経済再生を最優先し、緩和効果の最大化を図るべきだが、将来の出口戦略に向け、いずれ本格的に検討を進める必要がある。

産経新聞 2013年06月23日

米金融政策 異常な市場に終止符打て

米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、2008年のリーマン・ショックを受けて始まった「有事の金融緩和策」を平時に戻す「出口戦略」のシナリオを示した。

米国債などを買い入れて市場に大量の資金を供給する量的緩和策の年内縮小を明言、来年半ばの終了に言及したのだ。

スケジュールも含めた、出口戦略の明確化は、最近の株式市場や外国為替市場を乱高下させた最大の不安定要因を取り除くことになり、歓迎したい。

米国の景気回復傾向が強まるにつれ、市場ではFRBの出口戦略をめぐって、「緩和縮小が近づいた」「遠のいた」など正反対の思惑が交錯する、異常な展開が続いていたからだ。

量的緩和の縮小・終了に伴う資金量の抑制は金利上昇を招き、株価にはマイナス、外国為替市場ではドル高の材料だ。市場関係者が日銀の量的・質的金融緩和を含め、「異例」「異次元」の政策に慣れてしまい、正常な金融政策への復帰に神経質になっている。

これらが相まって、議長発言後に日米欧、アジア、新興国の株価が軒並み下落し、通貨もドルに対してほぼ全面安となるという大荒れの展開を招いたのである。

米国経済が力強さを取り戻していることは好材料に違いない。市場関係者の目が、成長力や企業業績といった実体経済に向かうことを期待したい。

その際、重要なのが通貨当局と市場との対話だ。FRBは量的緩和とともに、失業率の6・5%への低下を目指してゼロ金利政策を行っている。これについて、議長は量的緩和終了後も失業率の目標達成まで続けるとも語った。

景気の腰折れを引き起こさぬよう、慎重な舵(かじ)取りが必要なのは当然として、今後も各種の経済指標は毎月のように上下することが予想される。FRBの景気全体の分析や見立てを市場に十分浸透させなければならない。

付け加えると、FRBの動きと、日銀の出口戦略を直ちに結びつける拙速な議論は慎みたい。

日本はようやくデフレ脱却の兆しが見えてきた段階だ。景気回復の足取りが確かになっている米国とは違いすぎる。株価や金利、為替が動揺している今、日銀の出口戦略が市場の思惑の材料にされることは避けねばならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1444/