オバマ軍縮 北朝鮮の核こそ脅威だ

朝日新聞 2013年06月21日

オバマ核削減 真の軍縮へ向かうには

「核のない世界」をめざすオバマ大統領が新軍縮構想を打ち出した。ノーベル平和賞を受けた大統領が2期目に入ってようやく、核世界の転換へ本格的に動き出したと受けとめたい。

大統領は、戦略核の配備数を現行条約から3分の1減らして1千発程度に落とす交渉をロシアと始める意向を表明した。

米国防総省は、長期目標として核の役割を「核攻撃を抑止する」ことに限定する考えなどを盛り込んだ指針を公表した。

核廃絶をめざしつつも、核の存在する間は抑止を維持する。それが、オバマ政権の基本方針だ。今回の方針もその枠内ではあるが、核の保有量、役割を減らすことに踏み出したのは重要な前進である。

ただ、「核のない世界」をめざすと熱弁をふるった、あのプラハ演説から4年余りたつのに、核廃絶への歩みはあまりにゆっくりでしかない。

大幅な核軍縮をもっと早く進めるには、核の均衡で世界は安定するといった冷戦型の思考から脱却することが大切だ。

米ロの安全保障環境は異なる。なのに両国が同時に同程度まで減らす核軍縮は、冷戦思考そのものである。ともに核システムが老朽化してきているのだから、せめて、それぞれが最低限必要と思う程度の数にまで、すすんで減らしていくべきだ。

米ロとも常時、核ミサイルを発射できる警戒態勢を今なお続けている。先制攻撃も可能なこの態勢維持には多くの核ミサイルが必要で、軍縮を阻んでいる。誤発射による世界破滅の危険もあり、この冷戦型配備を一刻も早くやめることだ。

核ミサイルとミサイル防衛(MD)は矛と盾の関係にある。ロシアが戦略核削減交渉に慎重なのも、米国のMDで自分の抑止力が弱まらないかと懸念しているからだ。

MDが軍縮の邪魔をしてはならない。米国や同盟国のMDの対象は北朝鮮やイランに限定し、戦略核を迎撃する機能は抑制する。そうした形で、米ロ、さらには中国も含めた大国間の矛と盾の軍拡競争を避ける工夫が不可欠である。

大統領は、戦略核より射程が短く、欧州に配備された戦術核の削減も提案した。だが、通常戦力で劣るロシアの方が大量に戦術核を保有する。通常戦力も含む包括的な軍備管理抜きに、交渉は進まないだろう。

ハードルは多いし、時間もかかる。だが、ここは、「核兵器がある限り、真に安全とは言えない」と強調した大統領の信念と指導力に期待したい。

毎日新聞 2013年06月21日

オバマ軍縮 北朝鮮の核こそ脅威だ

「核兵器がある限り私たちは真に安全を得られない」。オバマ米大統領は、東西冷戦の象徴だったベルリンのブランデンブルク門を背に、新たな核軍縮構想を打ち出した。米国は2年前、ロシアと新戦略兵器削減条約を結び、2018年までに配備済み戦略核弾頭数の上限を各1550発にすることで合意したが、さらに3分の1減らし1000~1100発程度にしようというのだ。

戦略核弾頭は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など射程の長いミサイルに搭載される。配備削減は世界の緊張緩和に役立つだろう。オバマ大統領が提唱した「核なき世界」への一歩として歓迎したい。

さらに大統領は、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州諸国に配備した150~200発の戦術核兵器(射程500キロ以下)を大幅に減らす用意があることも表明した。ロシアは数千発の戦術核を欧州に向けているとされ、米露が削減に合意すれば歴史的な快挙になる。米主導の欧州ミサイル防衛(MD)構想などに反発するロシアが米提案に応じる可能性は低いが、核軍縮の好機をみすみす逃さないでほしい。

と同時に、オバマ大統領の提案が単なるパフォーマンスに終わらないよう望みたい。半世紀前、米国のケネディ大統領は分断されたベルリンで、西側を勇気づけるべく「私はベルリン市民だ」と演説した。レーガン大統領も1980年代の西ベルリンで旧ソ連の指導者に「壁を壊せ」と呼びかけた。2期目のオバマ大統領にもこうしたレガシー(政治的功績)を残したい気持ちはあろう。

米露の核軍縮はもちろん功績になりうる。だが、核拡散防止条約(NPT)を空洞化から救うこと、具体的には北朝鮮やイランの核兵器保有を認めないことも大事である。大統領のベルリン演説に合わせて公表された米国防総省の新指針が「イランの核兵器入手を阻み、北朝鮮の核兵器開発の正当性を認めない」と明記したのは当然だ。

NPTで核兵器保有を公認された5カ国(米英仏露中)は、軍縮交渉などに誠実に応じる義務を負う。厄介なのは、NPTに参加していないインドとパキスタン、イスラエルが大量の核弾頭を、北朝鮮も数発の核爆弾を持つとされることで、独裁政治が続く北朝鮮の動きが特に懸念されるのは言うまでもない。

オバマ氏がノーベル平和賞を受ける陰で、皮肉なことにNPTは大きく揺れている。米露の核軍縮が進んでも、北朝鮮が核ミサイルで武装し、イランも核兵器を入手すれば、世界はもっと危険になる。そんな事態を防げるのは米国だけだろう。オバマ大統領の努力に期待する。

読売新聞 2013年06月22日

米核軍縮提案 中国の核増強にも目を向けよ

核軍縮の機運の高まりを生かし、アジアの安全保障環境の改善へつなげることが重要である。

オバマ米大統領がドイツの首都ベルリンで演説し、ロシアに新たな核軍縮交渉を提案した。

戦略核弾頭の配備数の上限を、現在の米露の新戦略兵器削減条約(新START)が規定する1550個から3分の1減らして、1000個程度にしたいという。

比較的威力が小さい戦術核兵器も、削減対象に加える方針だ。

オバマ氏は、任期1期目で達成した新STARTに続く核軍縮の成果を、2期目でも引き続き追求する意欲を表明したと言える。

ロシア側は、ロゴジン副首相が「真剣に受け止めることはできない」と述べるなど、提案の受け入れには否定的だ。米国が欧州で進めるミサイル防衛(MD)計画によって自らの核抑止力が弱まることを強く警戒しているためだ。

軍縮交渉の行方は不透明だ。それでも核大国の米露両国には、世界の安定に特別の責任がある。

世界には1万を超す核兵器がある。その95%を保有する両国が、自らの核を削減せずに、いくら他国に核を持つな、核を減らせ、と言っても、説得力は持つまい。その点を自覚して、核軍縮に真摯(しんし)に取り組んでもらいたい。

今回の核軍縮提案に際し、オバマ氏は、戦術核の削減へ向け、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国とも協力すると述べた。

「核兵器のない世界」の理念を掲げてノーベル平和賞を受賞したオバマ氏の真価が問われているのは、核を巡る環境が悪化しているアジアでの取り組みだ。

中国の核弾頭は250個に達している。その中国やインド、パキスタンは核兵器を増強し、北朝鮮は核実験を3度強行して核ミサイル武装化にひた走っている。

米国の“核の傘”に抑止力を頼っている日本としては、こうした状況で米国が核軍縮を進めれば、かえって地域の安定が損われはしまいか、とも懸念される。

オバマ氏が、今回提案の核削減を実行しても、「米国と同盟国の安全は確保でき、抑止力を維持できる」と述べたことは心強い。

中国には、米露に協調して核削減を進めるよう、強く求めたい。中国の習近平国家主席はオバマ氏と、北朝鮮の非核化で一致した。北朝鮮に核放棄を迫るためにも自らの核軍縮が求められよう。

核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効へ、条約批准を急ぐ点でも米中は協調すべきである。

産経新聞 2013年06月22日

オバマ核軍縮 同盟国の抑止力損なうな

オバマ米大統領が、戦略核兵器の大幅削減を打ち出し、ロシアに提案することを表明した。合意できるのかという悲観論はあるが、実現に向けて交渉を進めてほしい。

「核なき世界」という大統領のノーベル平和賞受賞理念の体現には敬意を表したいが、一方で、核削減は抑止力の低下を招き、日本はじめ同盟国の安全保障を脅かす恐れがあることも忘れてはなるまい。

警戒すべきは、米露の間隙(かんげき)を縫って、中国が核戦力を拡大することだ。米国には、そうした事態を避けるための備えと周到な心配りを強く求めたい。大統領は同盟国の安全を守ると表明したが、言行一致こそ何よりも重要だ。

オバマ提案によると、戦略核弾頭を新戦略兵器削減条約(新START、2011年発効)が定めた上限より3分の1削減する。これによって両国の戦略核は、それぞれ1千発程度まで減少する。射程が短く、条約対象外の戦術核兵器の削減も目指す。

米国とロシアとの交渉の行方は予断を許さないが、核保有国は米露2国だけではないことを認識しなければならない。

戦略核の実態が明確ではない中国は最近、核攻撃力を著しく充実させているといわれる。車載型の移動式発射装置を導入し、報復への防御を高めている。尖閣諸島への領海侵犯など挑発を繰り返す中国が核戦力を充実させれば、日本の安全にとっていかに危険か。

中国だけではない。北朝鮮も核と射程の長いミサイルを開発しているのは周知の通りだ。

日本は、核交渉を米露間の問題として静観するのではなく、積極的に行動を起こすべきだ。

日米の外相、防衛相による安全保障協議委員会(2プラス2)で、中国の核が、どの程度論議を尽くされてきたか。防衛白書でも核抑止力は言及されたが、おしなべて、総論あって具体論なしという状況が続いている。

現在行われている防衛計画大綱の見直しの中での議論も含めて、“お題目”だけに終わらせるのではなく、中国の核問題の議論を深め、本格的な対策を講じなければならない。

核軍縮は他の保有国が加わって初めて効果を発揮する。オバマ氏は、ロシアとの妥結だけに関心を奪われることなく、幅広い交渉枠組みを検討してもらいたい。

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