原発新基準 効率的で柔軟な審査が必要だ

朝日新聞 2013年06月22日

大飯原発 関電は規制委に従え

国内でいま運転している原発は、関西電力の大飯原発3、4号機だけである。その暫定的な稼働について、原子力規制委員会は、9月の定期検査まで続行を認める方向を固めた。

原発の新規制基準が7月8日に施行されると決まったばかりだ。本来はその前に止めるのが筋ともいえるが、規制委は「新基準におおむね適合している」との評価を下す見通しだ。

夏の電力ピークを前に、「あえて止めるほどの問題があるかどうか」を吟味した現実的な対応であろうし、新基準との整合性をチェックした努力のあとも認められる。

それでも、「重要施設の真下に活断層があるのではないか」という専門家からの指摘について、結論を先送りしたままの継続容認は納得できない。

もし活断層であるとの結論になるなど重大な問題が出れば、たとえ定検直前であっても直ちに運転を止めねばならない。

それは規制委の田中俊一委員長自身がかねて明言してきたことでもある。もちろん、大飯だけでなく、どの原発でも、新基準による正式審査ではこうした先送りは許されない。

規制委以上に問題なのは、関電の不誠実な対応だ。

規制委の評価書案では「対策を小出しに提案して新基準を満たす最低線を探ろうとするかのような姿勢」と批判された。

活断層かどうかを判断しようにも、関電による地質調査が遅々として進まず、データが出てこなかった。

耐震性を評価する上で周辺の三つの活断層が一緒に動く場合を考えるようにと規制委が求めても、関電は強く難色を示し、1カ月以上応じなかった。

「しょせん規制委に大飯を止めることはできないだろう」とたかをくくっているようにも見えた。安全を最優先に考えている企業とは思えない。こんな対応しかできないのならば、関電に原発を動かす資格はない。

これまで原子力の安全については、技術面で詳しい電力会社が規制当局を都合よく操った面があった。福島原発に関する国会事故調査委の黒川清委員長が「規制のとりこ」と呼んだ現象で、日本では原発の監督機能が崩壊していたと指摘した。

規制委は曲がりなりにも、そうした反省を生かそうとしている。電力会社は古い考えを捨てて、規制委に完全協力し、できる限り高度な安全を確保する姿勢に転じねばならない。

国民が電力会社を見る目は今も厳しい。その現実をよく考え、猛省すべきだ。

毎日新聞 2013年06月20日

原発新規制基準 厳正な審査を徹底せよ

原子力規制委員会が原発の新規制基準を決定した。東京電力福島第1原発事故のような過酷事故対策や地震津波対策の強化などを電力会社に義務付け、既設原発に対しても最新の安全対策を課す「バックフィット制度」も盛り込んだ。閣議決定を経て、7月8日に施行される。

施行後は、原発再稼働を急ぐ電力各社から規制委に対し、新基準への適合審査の申請が相次ぐだろう。規制委の田中俊一委員長は「国際的に見てもきちんとした体系ができた」と言うが、審査が厳正に行われることが大前提となる。規制委の真価が問われるのはこれからだ。

田中委員長は「(電力会社の)経営的な問題は、考慮しない」とも述べている。これは当然のことだ。透明性を確保するため、審査過程は全面的に公開してほしい。

電力会社も、新基準は最低限の対策であり、原発の安全性向上に向けて自主的な取り組みの継続が求められることを忘れてもらっては困る。

新基準の施行にあたり、規制委とその事務局の原子力規制庁は、安全審査チームを三つ作ることにした。総勢では80人規模となる。規制庁は一つの原発の審査に少なくとも半年程度はかかるとみている。

これに対し、茂木敏充経済産業相からは、原発再稼働が「(早ければ)今年の秋になる」との発言が飛び出した。安倍政権が閣議決定した成長戦略には、新基準に基づき安全性が確認された原発の再稼働を進めることが明記された。電力会社も審査の効率化を要望している。安倍政権も電力会社も、一日でも早く再稼働にこぎつけたいのが本音だろう。

そうした中、規制委の田中委員長は、審査チームの運用を「全体として効率よくできるよう工夫する」との考えを示した。だが、効率化を図るあまり審査に見落としが出るようなことがあっては、本末転倒だ。

新基準は従来の安全規制を抜本的に見直すものだ。規制委は新基準の施行に先立ち、運転中の関西電力大飯原発3、4号機の適合状況を事前確認中だが、新設原発の過去の安全審査は複数年かかっていた。既存原発の審査といえど、過酷事故対策など従来になかった項目も多い。審査にあたっては、効率よりも安全性の確保を優先してもらいたい。

地元の同意や地域防災計画が策定されていることが再稼働の前提条件となるのは、言うまでもない。

新基準の施行は、原発を安全性というふるいにかけて、適合できない場合は退場してもらう時代の幕開けを告げるものでもある。廃炉がスムーズに進む枠組み作りに本腰を入れて取り組むことこそが、安倍政権には求められている。

読売新聞 2013年06月20日

原発新基準 効率的で柔軟な審査が必要だ

原子力規制委員会が原子力発電所の新たな規制基準を決めた。長期間停止している原発の再稼働へ向け、安全性を効率的に確認すべきだ。

新基準は、閣議決定を経て7月8日に施行される。関西電力など5社が、計14基の原発の審査を申請する意向を示している。

東京電力福島第一原発事故では想定外の大津波が襲来し、原子炉の冷却ができなくなった。その結果、大量の放射能が漏出した。新基準は、これを教訓とした。

津波や地震、火山噴火などの自然災害を従来より幅広く考慮するよう求めた。重大事故時に、原子炉の冷却に欠かせない注水・電源設備を強化することも定めた。

事故で顕在化した安全対策の綻びを繕うことは必要だ。

しかし、新基準には問題点もある。例えば、原発の敷地内外の活断層調査だ。最大で40万年前まで遡って有無を評価させる。旧基準では12万~13万年前だった。

太古の断層であっても、原発の重要施設の真下にあり、活断層と判断されれば再稼働は困難だ。

ただ、その判断は難しい。誤認も起き得る。ゼロリスクを求めるより、活断層による重大事故を防ぐため、工学的な対策を検討する方が現実的なのではないか。

重大事故対策の設備を考えられる限り列挙したことにも、ハード偏重との指摘がある。

電力会社から、原発を動かさないための過剰規制という声が出ているのも、うなずける。

今後の審査で規制委に求められるのは、各原発の実情に応じ、対策の実効性を評価することだ。基準に挙げた設備と違っても、十分な性能が確保できるなら認めるなど、柔軟な対応が必要だろう。

既に規制委は、一部の安全設備について、他の機器で当面の安全は確保できるとして、設置を5年間猶予する方針を決めている。

国内で唯一稼働している関電大飯原発3、4号機では、現地調査などで新基準との適合性を確認する作業を進め、運転継続を認める可能性が高まっている。

規制委には、こうした合理的な対応に徹してもらいたい。

新基準への対応には巨費を要する。電力業界の試算では、1兆円を大きく上回る。特に建設から30年以上が過ぎた古い原子炉では、改修・補強してもコスト回収は容易でない。電力会社が廃炉を選択するケースも出るだろう。

廃炉の費用負担や、廃棄物対策なども、電力会社と政府の今後の重要な検討課題である。

産経新聞 2013年06月20日

原発新基準 再稼働へ柔軟な運用を 迅速審査で電力不足解消せよ

国内の全原発に対して新たな安全対策を義務づける新規制基準が正式に決まった。

東日本大震災の巨大津波で炉心溶融と水素爆発を起こした東京電力・福島第1原子力発電所の事故を踏まえて新設された原子力規制委員会の手になるものだ。

これまでの安全体系の抜本改革をうたっているが、対策はハード面に偏り、しかも規制の大幅な拡充と強化によって実現しようとする危うさをはらむ内容だ。

原子力発電の真の安全性向上とエネルギー安全保障にどこまで資するか、大いに疑問である。

新基準の運用には規制委と原子力規制庁の良識が不可欠だ。それを欠くと、国の生命線であるエネルギー政策が破綻する。

≪40年規制の枠はめるな≫

地震に強い免震棟を用意することや電源喪失に備えての電源車配備などは重要だが、全体として厳しすぎる規制色が軽減されることなく了承された。

新基準には、民主党時代の反原発色が温存されている。原発の運転を40年で打ち切ることもその一例だ。一度に限って最大20年間の延長を認める措置も設けているが、認可の見通しは不透明だ。

原発では大部分の設備が新品に置き換えられていくので、全体の経年劣化は起きにくい。それを考えると、一律に40年規制の枠をはめることに意味はない。40年超の運転を目指す原発の方が、堅牢(けんろう)性で優れているのは自明だ。

また、規制委の思惑次第で、40万年前まで遡(さかのぼ)り得る活断層の認定も問題だ。それに加えて「可能性が否定できない」という論理の横車が押されると、既存の原発の多くで重要施設が活断層の上に建っていることになりかねない。

これらの2大難点に挟撃されているのが、日本原子力発電の敦賀発電所(福井県敦賀市)だ。1号機は40年規制、2号機は活断層認定で窮地に立たされている。

規制委は強い独立性が保障された組織なので、一部の委員に原発潰しの意図があれば、原発を廃炉や長期停止に追い込んだり、巨額の費用が必要な対策工事を求めたりすることも可能である。

新規制基準に照らして行われる原発の安全審査には、弾力性と迅速性が求められる。

新基準は、7月8日に施行される。原発再稼働のための審査の早期申請を目指す電力会社は、四国電力や九州電力など、少なくとも4社を数える見通しだ。

電力会社が急ぐのは、原発の停止分をカバーする火力発電の燃料代が肥大しているためだ。家庭や工場に電気は滞りなく届いているが、各社の内情は火の車だ。

現状で再稼働しやすい加圧水型のタイプの6発電所・12基から申請が予想されている。

≪現実に即した見直しを≫

それに対して、原発審査の実務に当たる規制庁のチーム編成が貧弱だ。審査には半年程度かかるとされているが、それでは年内に再稼働する原発は、ごく少数しか望めない。今夏と冬の電力ピークを乗り切ることができるのか。

審査にこれだけ長期を要するということは、基準自体が現実離れした法外な代物であることを自ら物語っていないか。審査の遅滞は許されない。

世論の一部には、米国からのシェールガス輸入で原発を不要とする声もあるが、浅慮にすぎよう。輸入は4年先のことであり、量にも限りがある。今後も波乱含みの中東からの輸入に頼らざるを得ないのだ。国富が流出し、記録的な貿易赤字が一段と膨らむ。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーの実力では、二酸化炭素の排出も減らせない。エネルギー資源に乏しい日本では、好むと好まざるとにかかわらず、原発の利用が必要だ。ならば、前向きに安全活用に努めようではないか。

7月から原発の審査にあたる規制庁のチームに対して、注文しておきたいことがある。上から目線にはならないことだ。

原発の安全は、規制する側とされる側の二人三脚で高みを目指していくものである。

新基準を実際に適用すると、現実にそぐわない部分も頻出するだろう。その際には、世界に誇れる改善を目指しての改定が必要だ。電力会社も遠慮なく改善への提案を行うべきである。

強権的な規制基準の硬直化と横行を放置すると、安全文化を蝕(むしば)む新たな危険の根がはびこる。

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