イラン大統領選 国際融和への転換点に

朝日新聞 2013年06月17日

イラン大統領 孤立脱する改革の道を

改革を求める息吹は脈々と生き続けていた。

イランの大統領選挙は、最終候補の中で最も穏健な立場をとるロハニ師が当選した。

自由化のうねりが流血の弾圧に終わった前回選挙から4年。抑え込まれた民意が改めて結集し、劇的な勝利を導いた。

投票率は70%を超え、得票率も50%を上回る完勝である。国際通のロハニ師は自国の苦境を認識しているはずだ。イランを孤立から脱却させてほしい。

この国では宗教の指導者たちが実権をにぎる。事前の審査で「改革派」候補は失格とされ、イスラム体制を厳守する「保守派」だけが立候補できた。

それでも最終候補たちの主張は争点を描いた。アフマディネジャド現大統領の流れをくんで米欧との対決路線を続けるか、ハタミ前大統領らが唱えるように対外融和を探るか――。

近年、米欧との対立がこじれた一因は現大統領の強硬姿勢だった。イスラエルを「地図から抹消すべきだ」「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)は神話」と挑発し、対話の機運をそいだ。

ロハニ師は、ハタミ前政権下で核の交渉役だった。今回選挙の討論会で、「思慮に欠け、不勉強な言動」が国益を損ねてきたと現大統領を批判した。

ただし核開発については、民生利用の権利を譲らない構えを崩していない。米国との国交正常化に前向きではあるが、その道筋を明示したことはない。

世界4位の石油産出量を誇る国なのに経済難にあえぐ理由はひとえに核開発だ。4度の国連安保理決議で停止を求められてもウランの濃縮をやめない。

イスラエルはイランの核兵器保有まであと1年程度とみて、空爆も辞さない構えだ。原油の動脈である近隣海域が戦場と化せば世界経済に打撃となる。

その回避のため米欧は一気に制裁を強めてきた。イランの通貨リアルは暴落、原油輸出も減り、国民生活は困窮した。

一方で、流動化する中東情勢に乗じてイランは地域の影響力を伸ばした。米軍撤退後のイラクや、反体制派を弾圧するシリアと関係を深めている。「アラブの春」後の影の勝者は、イランとも言われるゆえんだ。

だが、国民の福祉を犠牲にして地域の覇権を争っても、持続的な勝者になれるはずもない。ロハニ師は、支持してくれた改革派の声に耳を澄ませ、国民の暮らしを優先し、対話に柔軟な指導者になってほしい。

核開発のよろいを脱ぐことは、イランにも世界にも、大きな利益をもたらすのである。

毎日新聞 2013年06月17日

イラン大統領選 国際融和への転換点に

イランの国際的孤立に有権者がノーを突きつけたのだろう。同国の大統領選で、欧米との緊張緩和に前向きな保守穏健派のロウハニ師が圧勝した。アフマディネジャド現大統領に近い強硬派の候補が軒並み伸び悩む中、同師は過半数の得票で、決選投票を待たずに当選を決めた。

多くの国民が現政権の強硬路線に危機感を抱き、軌道修正を求めた結果だろう。それは国際社会の期待でもある。イランは不透明な核開発によって国連安保理の経済制裁を招き、国民はインフレと高い失業率にあえぐ。だが、アフマディネジャド大統領は国際社会との融和どころか、「イスラエルは世界地図から消される」などの挑発的な言動を通じて欧米と険悪に対立してきた。

このためイランと良好な関係だった日本も、米国の強い要請でアザデガン油田の開発事業から撤退し、中国が代わりに主導権を握った経緯がある。産油国イランの情勢は日本にも有形無形の影響を与えてきたし、イスラエルが警告通りイランの核施設を空爆すれば、世界の政治経済は大混乱に陥る。そんな時期に、より穏健とされる人物がイランの大統領になるのは歓迎すべきことだ。

ロウハニ師はハタミ政権下の2003~05年、最高安全保障委員会事務局長として核交渉を担当し、ウラン濃縮の一時停止に応じるなど一定の柔軟姿勢を示したことで知られる。また女性の社会進出の遅れが目立つイスラム世界にあって、イスラム聖職者の同師は女性の地位向上に前向きだ。圧勝の背景には女性の幅広い支持があげられよう。

とはいえ過度の期待は禁物だ。イランは79年の革命以来、宗教権威者が政治をつかさどる政教一致の体制であり、最高指導者のハメネイ師が絶大な権力を持つ。ロウハニ師が柔軟で開明的といっても他候補に比べればの話であり、イランが今後、核問題などで従来の態度を一変させると考えるのは早計だろう。

だが、少しずつでも変わるべきだ。イランは80年代末からラフサンジャニ、ハタミ両政権下で対米関係改善を模索し、米国も「文明の対話」に意欲的だった。05年のアフマディネジャド大統領の就任により対米関係は一気に悪化したが、近年の「アラブの春」は中東の独裁体制を揺さぶり、イラン近隣のシリアやトルコでも反政府運動が続く。イランも民主化と国際融和へ動く時だ。

もう一つの問題国家・北朝鮮もイランの身の振り方を注視していよう。イランが不透明な核開発をやめて融和へ踏み出すことは、北朝鮮をめぐる諸問題の解決のためにも、世界の核管理のためにも必要だ。ロウハニ師の英断に期待したい。

読売新聞 2013年06月18日

イラン大統領選 対外強硬路線は修正されるか

選挙に表れた民意にどう応えるのか。政権交代を機に、まずは対外関係の修復を期待したい。

核開発で国際的孤立を深めているイランで大統領選挙が行われ、米欧との関係改善を掲げた保守穏健派のロハニ師が当選した。

50%を超える得票率で、有力と目された保守強硬派の候補に大差をつけての勝利である。

ロハニ師は「過激主義に対する知恵の勝利だ」と宣言した。現政権とは一線を画す立場だ。

イスラエルを「地図から消し去るべきだ」など挑発的言動が目立ったアフマディネジャド大統領の強硬な外交路線を転換するなら、国際社会にとっても望ましい。

ロハニ師大勝の背景には、イラン社会に広がる閉塞感がある。

現大統領の2期8年の在任中、改革派の政治家や言論は封じ込められた。核開発継続を理由に米欧から科せられた制裁で、原油輸出が落ち込み、物価も高騰して、国民生活は困窮している。

有権者は、事態打開をロハニ師に託したと言える。

焦点は、核問題での対応だ。

イランは、国連安全保障理事会の決議を無視してウラン濃縮活動を続けている。濃縮度も原子力発電所の核燃料に使われる3・5%を上回る20%にまで高めた。核兵器開発を狙っているのでは、と疑われても仕方あるまい。

安保理常任理事国とドイツの6か国は、濃縮度20%ウランの生産停止を最優先で求めている。

選挙後、米欧諸国が核問題の迅速な外交的解決を改めてイランに呼びかけたのは、当然だ。

ロハニ師は、改革派のハタミ前政権下で英仏独との核交渉の責任者を務め、柔軟姿勢を示した経歴があるが、楽観はできない。

イランでは、外交決定権を含め実権は最高指導者ハメネイ師にある。政教一致体制の下、ハメネイ師の同意抜きに核政策の変更はあり得ない。カギを握るハメネイ師が政策転換できるのかどうか。

イスラエルは、イランの核兵器保有を阻止するために、攻撃も辞さない構えだ。イランの核開発が続けば、軍事的緊張は高まる。

菅官房長官は、イランの大統領交代が、核問題の解決に向けて「具体的な進展」をもたらすことに期待感を表明した。日本としても、「伝統的な友好関係」をテコに働きかける考えだ。

原油の輸入を中東地域に依存する日本にとって、地域の安定は死活的に重要だ。イラン情勢から目を離すわけにはいかない。

産経新聞 2013年06月17日

ロウハニ師勝利 対話路線へ転換の好機だ

イラン大統領選で、欧米との関係改善を掲げた聖職者で穏健保守派のロウハニ元最高安全保障委員会事務局長が、強硬保守派の候補らを抑えて勝利した。

ロウハニ師は「過激主義に対する勝利だ」と宣言した。核兵器開発疑惑をめぐる協議での歩み寄りなど緊張緩和の可能性に期待したい。

だが、選挙戦ではロウハニ師を含む全候補が核開発の推進を唱えていた。国政全般の決定権は、最高指導者のハメネイ師が握っていることも忘れてはならない。

大統領の力の及ぶ範囲は限られる。新政権が欧米との対話路線に転換するかどうか、なお測りかねる部分もあり、今後の動向を慎重に見極める必要がある。

アフマディネジャド現政権は対外強硬路線を取り、国内でも改革派を弾圧してきた。ロウハニ師の勝利の背景には、イラン社会の閉塞(へいそく)感が挙げられる。

今回の選挙結果は、イラン国民による強硬路線への明確な否定とみることもできる。ロウハニ師が有効投票の過半数を得て2位以下に大差をつけた事実は、ハメネイ師も重く受け止めるべきだ。

核開発についてイランは「平和利用目的だ」と主張しているが、核兵器への疑念を強める欧米は昨年、イラン産原油の禁輸や金融機関に対する制裁強化を実施した。イラン経済は物価の上昇、通貨の下落にあえいでいる。

ロウハニ師は、イランが2003年、欧州諸国とウラン濃縮の関連活動停止に合意した際の交渉責任者として知られる。そうした手腕を内外で発揮し、関係改善の公約を果たしてもらいたい。

核開発をやめないイランに対してイスラエルは単独攻撃も辞さない構えを見せている。中東地域を戦略的に不安定化させる恐れもある。核開発は阻止されねばならない。国際社会はロウハニ師勝利を契機に核協議を決着させるよう、イランに圧力をかけるべきだ。

英国・北アイルランドで開催される主要8カ国(G8)首脳会議(ロックアーン・サミット)では、イランの核開発問題も議題となる見通しだ。シリアの内戦問題も話し合われるが、イランはアサド政権を支援している。

日本も欧米と共同歩調を取りつつ、イランとの独自の友好関係を生かして事態打開に向け全力を挙げるべきだ。

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