政権公約に掲げられた高校授業料の実質無償化を、鳩山政権は来年度からどう実施するのか。財源が限られるなか、予算編成の焦点の一つである。
検討されている案はこんな内容だ。
国公立高の生徒の世帯に授業料の基準額の年11万8800円を支援する。所得制限はつけず、一律に出す。授業料が高い私立高の生徒の世帯にも国公立と同額分を出し、年収500万円以下の場合は倍額とする。実際の給付は都道府県教委など学校設置者にまとめて渡す形をとる。対象は約360万人。来年度は4501億円が必要だ。
日本の高校進学率はいまや98%。若者が自ら生き方の選択肢を考える、義務教育に続く大事な時期である。
ところが、親のリストラなどで中退を余儀なくされる人が増えている。家計を助けるためアルバイトに追われ、勉強どころでない生徒もいる。社会に出る前に、将来にわたって取り返せない格差がついては不公平だろう。
世界をみれば、高校までは授業料がいらない国がほとんどだ。国際人権規約で、高校・大学の学費の段階的無償化を定めた条項を留保しているのは、日本とマダガスカルだけという。
この年代のすべての若者に教育の機会を保障し、費用は社会全体で責任を持つ。それは日本の人づくりの基礎投資といえる。そんな理念に立つ高校授業料の無償化を、ぜひ実現させたい。
16~22歳の子を持つ世帯を対象に減税をしている特定扶養控除のうち、高校生がいる世帯の減税分を大きく削り、無償化の財源の一部にあてることも論議されている。
特定扶養控除は、課税所得を1人あたり63万円少なくする制度で、高校生世帯分で計2千億円余りの減税になっている。税率が高い高所得世帯ほど、減税の恩恵は大きい。
このうちかなりの額を圧縮し、代わりに一律に授業料の援助をすれば、結果として所得が少ないほど支援が厚くなる。親の収入にかかわらず教育の機会均等を実現する理にかなうといえる。高所得者の多少の負担増も、場合によってはしかたない。
民主党はマニフェストで特定扶養控除の存続をうたったが、この財政難のなかでは圧縮もやむを得まい。
一定の所得以下の人に限って授業料を無償化する案も浮上している。だがこれでは、社会で責任を持つという「無償化」の理念からは遠くなる。
高校に通うと、授業料以外にも入学金や教材費、修学旅行代など、多くのお金がかかる。さらに配慮が必要な家庭は少なくない。
低所得世帯には、これまで都道府県が授業料の減免をしてきた。無償化で浮く地方財源は、困っている家庭への支援拡充に振り向けるべきだ。文部科学省と自治体で知恵を絞ってほしい。
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