企業トップが突然、解任される異例の展開である。社内抗争による混乱に市場の目は厳しい。
川崎重工業が13日の臨時取締役会で、三井造船との合併交渉を推進していた長谷川聡社長ら3人の取締役を解任した。交渉の打ち切りも決めた。
常務から昇格した村山滋新社長は記者会見で、「合併ありきの姿勢に強い不信感を覚えた。苦渋の決断だ」と述べた。
合併構想を阻止するために、村山氏らが結束した事実上の社内クーデターと言えよう。
造船・重機業界2位の川崎重工と5位の三井造船の合併交渉は、4月末の報道で明るみに出た。実現すれば、連結売上高2兆円弱の大型再編になるはずだった。
日本の造船業界はかつて世界を席巻したが、今では、中国や韓国メーカーに追い抜かれている。
リーマン・ショック後の世界的な造船市況の低迷と、超円高の打撃を受けたうえ、コスト競争力で劣っているのが主因だ。
川崎重工と三井造船の合併構想は、主力取引銀行のみずほコーポレート銀行が仲介役となった。激しい国際競争を生き残るための一つの選択肢だったのだろう。
1月にはJFE系とIHI系の造船子会社が統合した。提携関係を深めている三菱重工業と今治造船の動きも、川崎重工と三井造船の背中を押したとみられる。
しかし、川崎重工社内は合併の賛否で割れていた。経営実態への感度の差もあったのでないか。
売上高のうち、造船部門はわずか1割に過ぎない。むしろ主力事業は、鉄道車両、航空宇宙、オートバイなどである。
三井造船との合併で造船部門では相乗効果が期待できても、非造船部門はメリットが薄いとして、合併反対論も強かった。
川崎重工が重要な経営情報を市場に適時開示していなかった点には反省を促したい。当初、合併交渉を否定しておきながら、13日に一転して認めたからだ。
今後の焦点は、合併交渉の白紙を受け、両社がそれぞれ、どんな経営戦略を打ち出すかだ。
「合併・買収(M&A)や連携は引き続き検討する」と述べた村山新社長の具体策が問われる。取引銀行との再調整も課題だ。
一方、業績が低迷している三井造船の前途は多難である。
政府は、競争力強化策として産業再編を支援する方針を示した。だが、川崎重工と三井造船の交渉破談は、再編が決して容易ではないことを浮き彫りにしている。
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