川重社長解任 企業統治さらに問われる

読売新聞 2013年06月16日

川重社長解任 合併で混乱招いた社内抗争劇

企業トップが突然、解任される異例の展開である。社内抗争による混乱に市場の目は厳しい。

川崎重工業が13日の臨時取締役会で、三井造船との合併交渉を推進していた長谷川聡社長ら3人の取締役を解任した。交渉の打ち切りも決めた。

常務から昇格した村山滋新社長は記者会見で、「合併ありきの姿勢に強い不信感を覚えた。苦渋の決断だ」と述べた。

合併構想を阻止するために、村山氏らが結束した事実上の社内クーデターと言えよう。

造船・重機業界2位の川崎重工と5位の三井造船の合併交渉は、4月末の報道で明るみに出た。実現すれば、連結売上高2兆円弱の大型再編になるはずだった。

日本の造船業界はかつて世界を席巻したが、今では、中国や韓国メーカーに追い抜かれている。

リーマン・ショック後の世界的な造船市況の低迷と、超円高の打撃を受けたうえ、コスト競争力で劣っているのが主因だ。

川崎重工と三井造船の合併構想は、主力取引銀行のみずほコーポレート銀行が仲介役となった。激しい国際競争を生き残るための一つの選択肢だったのだろう。

1月にはJFE系とIHI系の造船子会社が統合した。提携関係を深めている三菱重工業と今治造船の動きも、川崎重工と三井造船の背中を押したとみられる。

しかし、川崎重工社内は合併の賛否で割れていた。経営実態への感度の差もあったのでないか。

売上高のうち、造船部門はわずか1割に過ぎない。むしろ主力事業は、鉄道車両、航空宇宙、オートバイなどである。

三井造船との合併で造船部門では相乗効果が期待できても、非造船部門はメリットが薄いとして、合併反対論も強かった。

川崎重工が重要な経営情報を市場に適時開示していなかった点には反省を促したい。当初、合併交渉を否定しておきながら、13日に一転して認めたからだ。

今後の焦点は、合併交渉の白紙を受け、両社がそれぞれ、どんな経営戦略を打ち出すかだ。

「合併・買収(M&A)や連携は引き続き検討する」と述べた村山新社長の具体策が問われる。取引銀行との再調整も課題だ。

一方、業績が低迷している三井造船の前途は多難である。

政府は、競争力強化策として産業再編を支援する方針を示した。だが、川崎重工と三井造船の交渉破談は、再編が決して容易ではないことを浮き彫りにしている。

産経新聞 2013年06月16日

川重社長解任 企業統治さらに問われる

総合重機大手の川崎重工業で、三井造船との経営統合交渉を主導してきた社長が解任され、交渉も打ち切られた。統合をめぐる取締役会の対立が原因だ。株主総会を目前にした経営トップの解任は極めて異例である。

日本の産業界では、いかに成長を確保するかが大きな経営課題となっている。それにはM&A(企業の合併・買収)をどう活用するかも鍵を握る。だが、その場合、一部の役員だけで強引に交渉を進めようとするなら、企業統治(コーポレートガバナンス)の観点からも問題を生じかねない。

社長の指導力発揮は当然だが、独走を許さない企業統治が確立されなければ、肝心の企業の成長も見込めない。企業の経営陣はそのことを銘記すべきである。

川崎重工業では、社長だった長谷川聡氏ら3役員が解任され、村山滋常務が新社長に就いた。村山氏は会見で「統合ありきの姿勢と取締役会軽視に不信感を持った」とし、解任された役員を除く全役員が解任に賛成したと述べた。

問題は、重要な経営判断の対象となる統合交渉がどのような手順で進められたかである。

村山氏によれば、長谷川氏は統合を前提に三井造船の資産査定も行わせていた。

経営上の秘密保持はもちろん重要だが、統合交渉の開始は、まず取締役会で承認を得て、そのうえで具体的な交渉の手続きに入るのが本来の姿であろう。

長谷川氏らは、統合に反対する役員が多かった取締役会での討議を最初から避けていたのではないか。役員の意思疎通を図りつつトップが迅速に判断を下す当たり前のことが行われていなかった。

安倍晋三政権がまとめた成長戦略では、日本企業の国際競争力向上に向け、国内の過当競争を脱するための事業再編などを後押しする方針を打ち出している。

それにはM&Aが重要な手段となるが、活用には、企業としてしっかりと結束し、意思統一がはかられていることが前提だ。取締役会はそのためにある。

今回の統合交渉は4月下旬の報道で表面化したが、長谷川氏ら当時の経営陣は、交渉を否定してきた。長谷川氏らの解任で初めて交渉の事実を認めた形だが、投資家に誤解を与えるような情報を提供したことも問題である。情報開示のあり方も問われよう。

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