◆成長と財政再建の両立目指せ
「強い日本」の実現には、成長戦略と財政再建を両輪に経済を再生することが欠かせない。
先進国最悪の財政赤字を抱える日本にとって険しい道だが、肝心なのは実行力である。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の真価が問われる。
政府は14日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)を閣議決定した。安倍首相が1月に復活させた経済財政諮問会議がまとめた。骨太方針の作成は、麻生内閣以来、4年ぶりだ。
首相は、「日本経済を停滞の20年から再生の10年へと転換する」と強調している。
堅持した黒字化の目標
最大のポイントは、「国と地方の基礎的財政収支を2020年度までに黒字化する」という政府の財政再建目標の堅持を明記したことだ。現在、約34兆円に上る赤字を7年で解消するのは、極めて高いハードルである。
さらに、21年度以降についても長期債務残高の「安定的な引き下げを目指す」という新たな目標を掲げた。
日本銀行は、大胆な金融緩和策で巨額の国債を買い入れている。市場に財政赤字の穴埋めと受け止められて、財政への信認が揺らげば、国債価格が急落して長期金利が一段と上昇しかねない。
骨太方針が「持続的成長と財政健全化の双方の実現に取り組む」と強調し、財政規律を重視する姿勢を明確にしたのは妥当だ。
ただ、財政再建の具体的な道筋を描いておらず、踏み込みの甘さは否めない。7月の参院選を控えて、地方や業界団体などへの配慮を優先したためだろう。
特に歳出削減は歯切れが悪い。最大の歳出項目である社会保障分野について「聖域なき見直しで歳出の効率化を進める」としたが、高齢者医療費の自己負担の見直しや後発医薬品の使用促進といった課題の列挙にとどまった。
削減規模などに言及しなかったのは物足りない。
一方で、道路や橋などインフラ(社会資本)の老朽化対策や、防災などの「国土強靱化」には積極的に取り組む考えを示した。
目的は理解できるが、公共事業には巨額の支出が伴う。骨太方針では、財政規律をどう維持するかといった点は曖昧なままだ。
消費税率の引き上げも、「経済状況を総合的に勘案して、判断を行う」としただけだった。
政策の優先度見極めよ
当面の焦点は、政府が今夏に策定する中期財政計画で、財政健全化を着実に進める姿勢を明確に打ち出せるかどうかだ。
財政再建を成功させるには、国民に痛みを強いる歳出抑制や規制改革を避けてはなるまい。
財政計画には、市場に評価される歳出削減の数値目標なども盛り込む必要があるだろう。
夏には、14年度予算編成の概算要求基準(シーリング)も決定する。限られた予算にしっかり優先順位を付け、効率的に政策を実施する工夫が求められる。
財政再建のためにも、景気を着実に回復させる必要がある。
1~3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率4・1%と高い伸びとなった。政府は6月の月例経済報告で、景気の基調判断を「着実に持ち直している」へ上方修正した。
足元の景気は明るさを増してきたが、油断は禁物である。
首相の指示で、企業の設備投資減税など税制改正の議論を例年より前倒しで始めることにしたのは適切な判断だろう。
首相は「秋の臨時国会を成長戦略国会と位置づけ、必要な法案を提出する」と意欲を見せた。
成長戦略で民間主導の回復を図り、景気拡大をさらに確実なものにする。成長率を高めることで税収を増やし、財政が健全化する。将来不安が和らぎ、個人消費や投資の意欲も増大する――。そうした好循環を実現したい。
原発再稼働は不可欠だ
安定成長の実現は、安価な電力の安定供給が前提となる。
ほとんどの原子力発電所が運転を停止しているため、火力発電の燃料費がかさみ、電気料金の値上げも相次いでいる。骨太方針が原発について「原子力規制委員会の判断を尊重し、再稼働を進める」と明記したのは当然である。
原子力規制委の新たな規制基準は7月に施行される。電力会社による再稼働申請について、遅滞なく審査することが求められる。
規制委が安全を確認した原発の再稼働が円滑に進むよう、政府は率先して立地自治体の説得などにあたるべきだ。
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