骨太の方針 改革の覚悟が見えない

毎日新聞 2013年06月14日

骨太の方針 改革の覚悟が見えない

政府の経済財政運営の基本方針、「骨太の方針」がまとまった。安倍政権の経済政策アベノミクスの第三の矢である「成長戦略」とともに14日に閣議決定される。経済再生に向け「財政健全化への取り組みが極めて重要だ」と明記した。しかし、予算を抑えたり減らしたりする具体策は示されていない。

骨太の方針は小泉政権のもと2001年に始まった。国債発行に枠をはめ、道路特定財源見直しや歳出削減の数値も示すなど、財政再建や規制緩和を重視する構造改革路線の具体策が盛り込まれた。民主党政権でとりやめとなり、4年ぶりの復活だ。ところが、踏み込み不足の「骨抜きの方針」になってしまった。

財政再建に向け、国と地方が政策に必要な費用を税金でまかなえているかどうかを示す基礎的財政収支を20年度までに黒字化する健全化目標を盛り込んだ。これは民主党政権で決めた目標の維持に過ぎない。

歳出のうち社会保障について「聖域とせず見直す」と明記し、地方財政、公共事業も抑制や重点化を掲げたものの具体策は示されなかった。膨張する財政赤字に歯止めをかけないと経済は再生どころか破綻する。とくに社会保障の効率化は不可欠で給付削減や負担増から目を背け続けるわけにはいかない。国民に痛みを求めることも必要だ。だが、「経済再生と財政健全化を両立させる」という聞こえのいい文句が並ぶ。

日経平均株価が13日、843円下落し、日銀が「異次元の金融緩和」を実施する前の水準に戻ってしまった。政府は1月、日銀と政策連携の共同声明を発表し、日銀は2%のインフレ目標と金融緩和を、政府は大胆な規制改革や持続可能な財政の確立を約束した。日銀は思いきった金融緩和を実施したが、セットであるはずの政府の約束が果たされないことが市場に悪影響を及ぼしている。

成長戦略では医薬品のネット販売が目玉とされた。安倍晋三首相は「1人あたり国民総所得を10年で150万円増やす。もっとも重要な目標はこれだ」と説明した。産業競争力会議の民間委員や、官僚の主張をうのみにしているように見える。

骨太の方針や成長戦略が具体策に乏しいとの批判を受け、安倍首相は新たな成長戦略を今秋に打ち出す方針を急きょ表明した。企業に設備投資を促す減税策など、足りないと指摘された税制の見直しにも着手するという。

だが、株価下落に催促されて成長戦略を追加しても、大胆な規制改革や、財政健全化の道筋をより鮮明に示さなければ成果はおぼつかない。それに取り組む安倍首相の決意と覚悟が伝わってこないことが一番の問題なのである。

読売新聞 2013年06月15日

骨太方針 「再生の10年」への険しい道

◆成長と財政再建の両立目指せ

「強い日本」の実現には、成長戦略と財政再建を両輪に経済を再生することが欠かせない。

先進国最悪の財政赤字を抱える日本にとって険しい道だが、肝心なのは実行力である。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の真価が問われる。

政府は14日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)を閣議決定した。安倍首相が1月に復活させた経済財政諮問会議がまとめた。骨太方針の作成は、麻生内閣以来、4年ぶりだ。

首相は、「日本経済を停滞の20年から再生の10年へと転換する」と強調している。

堅持した黒字化の目標

最大のポイントは、「国と地方の基礎的財政収支を2020年度までに黒字化する」という政府の財政再建目標の堅持を明記したことだ。現在、約34兆円に上る赤字を7年で解消するのは、極めて高いハードルである。

さらに、21年度以降についても長期債務残高の「安定的な引き下げを目指す」という新たな目標を掲げた。

日本銀行は、大胆な金融緩和策で巨額の国債を買い入れている。市場に財政赤字の穴埋めと受け止められて、財政への信認が揺らげば、国債価格が急落して長期金利が一段と上昇しかねない。

骨太方針が「持続的成長と財政健全化の双方の実現に取り組む」と強調し、財政規律を重視する姿勢を明確にしたのは妥当だ。

ただ、財政再建の具体的な道筋を描いておらず、踏み込みの甘さは否めない。7月の参院選を控えて、地方や業界団体などへの配慮を優先したためだろう。

特に歳出削減は歯切れが悪い。最大の歳出項目である社会保障分野について「聖域なき見直しで歳出の効率化を進める」としたが、高齢者医療費の自己負担の見直しや後発医薬品の使用促進といった課題の列挙にとどまった。

削減規模などに言及しなかったのは物足りない。

一方で、道路や橋などインフラ(社会資本)の老朽化対策や、防災などの「国土強靱(きょうじん)化」には積極的に取り組む考えを示した。

目的は理解できるが、公共事業には巨額の支出が伴う。骨太方針では、財政規律をどう維持するかといった点は曖昧なままだ。

消費税率の引き上げも、「経済状況を総合的に勘案して、判断を行う」としただけだった。

政策の優先度見極めよ

当面の焦点は、政府が今夏に策定する中期財政計画で、財政健全化を着実に進める姿勢を明確に打ち出せるかどうかだ。

財政再建を成功させるには、国民に痛みを強いる歳出抑制や規制改革を避けてはなるまい。

財政計画には、市場に評価される歳出削減の数値目標なども盛り込む必要があるだろう。

夏には、14年度予算編成の概算要求基準(シーリング)も決定する。限られた予算にしっかり優先順位を付け、効率的に政策を実施する工夫が求められる。

財政再建のためにも、景気を着実に回復させる必要がある。

1~3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率4・1%と高い伸びとなった。政府は6月の月例経済報告で、景気の基調判断を「着実に持ち直している」へ上方修正した。

足元の景気は明るさを増してきたが、油断は禁物である。

首相の指示で、企業の設備投資減税など税制改正の議論を例年より前倒しで始めることにしたのは適切な判断だろう。

首相は「秋の臨時国会を成長戦略国会と位置づけ、必要な法案を提出する」と意欲を見せた。

成長戦略で民間主導の回復を図り、景気拡大をさらに確実なものにする。成長率を高めることで税収を増やし、財政が健全化する。将来不安が和らぎ、個人消費や投資の意欲も増大する――。そうした好循環を実現したい。

原発再稼働は不可欠だ

安定成長の実現は、安価な電力の安定供給が前提となる。

ほとんどの原子力発電所が運転を停止しているため、火力発電の燃料費がかさみ、電気料金の値上げも相次いでいる。骨太方針が原発について「原子力規制委員会の判断を尊重し、再稼働を進める」と明記したのは当然である。

原子力規制委の新たな規制基準は7月に施行される。電力会社による再稼働申請について、遅滞なく審査することが求められる。

規制委が安全を確認した原発の再稼働が円滑に進むよう、政府は率先して立地自治体の説得などにあたるべきだ。

産経新聞 2013年06月15日

「骨太の方針」決定 逃げるな社会保障圧縮 財政再建に達成指標設けよ

安倍晋三政権の経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。国と地方の借金残高が国内総生産(GDP)の約2倍という危機的な財政状況の克服が主眼だ。

経済社会構造の変化に対応した財政構造の構築をうたい、「財政の質を歳出・歳入両面で徹底して高める」との姿勢を鮮明にしたことは評価できる。中でも社会保障支出を「聖域としない」と明記したことの意味は大きい。

日本にとって最大の「経済社会構造の変化」は、少子高齢化が進み、人口減少に突入したことである。10年後には総人口の3割が65歳以上という社会が到来する。社会保障費は毎年1兆円規模で膨らむ。行政改革や経済成長だけでカバーできる水準ではない。

≪高齢者の理解求めたい≫

高齢者も含め、全ての世代が支払い能力に応じて負担してもらう仕組みに改めなければ、社会保障制度は維持できなくなる。

これまで、政治は選挙での高齢者の反発を恐れ、社会保障費削減を真正面から訴えて理解を得る努力を避けてきた。今回、社会保障切り込みの具体策まで踏み込まなかったのも、都議選や参院選を意識したからだろう。

しかし、政府・与党はもはや急速な高齢化で伸び続ける年金、医療・介護費用の抑制から逃げることは許されない。痛みを伴う改革に国民の理解を求めることこそ、政権与党の責任ではないか。

まず取り組むべきは、特例措置として1割に据え置かれている70~74歳の医療費窓口負担を、法律通り2割にすることだ。高齢者の医療費は、本人の負担以外に勤労世代の保険料や税金が支えている。そのことを説明すべきだ。

年金支給額を物価・賃金の変動に合わせて自動調整する「マクロ経済スライド」は、デフレで物価が下がり、賃金が下降している間、まったく適用されていない。直ちに改善すべきである。

高齢者への「過度の配慮」は、その分、若い世代にしわ寄せされることを忘れてはならない。一方で、勤労世代に対しては、現在65歳へと移行中の年金支給開始年齢を、さらに引き上げることを求めざるを得ない。高齢者の雇用確保とあわせ、急ぎ具体策の検討に入る必要がある。

骨太の方針では、社会保障以外にも公共事業、地方財政を重点化・効率化の対象としている。東日本大震災からの復興や地方の疲弊対策といった必要性があるとはいえ、いずれも選挙向けのバラマキとなる可能性がある分野だけに、規律維持の重要性を強調した意味は大きい。

もっとも、これらは社会保障費と同様に、与党も含め、政治の側から歳出抑制には強い抵抗が予想される分野でもある。

≪市場安定にも不可欠だ≫

小泉純一郎政権下での、かつての骨太の方針は「社会保障費の自然増を5年間で1・1兆円抑制」「公共事業費の1~3%削減」など個別に明確な数値目標を示し、抵抗を抑える根拠とした。その後リーマン・ショックによる景気後退などもあり、完全実施はできなかったが、政権の姿勢を鮮明にする上でも目標設定は必要だ。

8月にまとまる予定の社会保障制度改革国民会議の結論や中期財政計画で、毎年度の達成度を測る指標として、個別の項目とその削減目標額まで踏み込めるかどうか。これは今回積み残された最大の「宿題」である。

財政健全化の進展は、国民の政府への信頼を回復し、将来不安を和らげて個人消費などを活性化する。株や債券、円などの相場が動揺している今、金融市場を安定させる役割も果たす。骨太の方針の実行はアベノミクスの効果を持続し、脱デフレの歩みを確かなものにできるかどうかの鍵となる。

安倍首相は、17、18の両日、英・北アイルランドで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議で骨太の方針を成長戦略となる「日本再興戦略」とともに説明する予定だ。国内や市場だけでなく、日本のデフレ脱却、経済再生への期待は世界的に高まっており、行方が注視されている。

率直に言って、平成27年度の基礎的財政収支赤字半減、32年度の黒字化達成、その後の借金残高の安定的削減といった目標だけでは期待に応えるには不十分だ。8月に向け「宿題」を果たす安倍政権の覚悟と実行力が問われる。

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