米の情報監視 自由の原則を見失うな

朝日新聞 2013年06月13日

米の情報監視 自由の原則を見失うな

米国は自由を何よりも尊ぶ国だ。イラク戦争などの対テロ戦も、「自由を守る」との御旗の下で世界に結束を求めてきた。

そんな大国のリーダーシップの正当性が傷つきかねない疑惑が浮上した。テロ対策の名で、米政府当局が日々、世界中を行き交う膨大な個人情報を集め、分析しているというのだ。

01年の9・11事件後の米社会で人権が侵食されているとの批判にはオバマ大統領も同調していた。真相をできる限り、国内外に説明してもらいたい。

英米メディアに内部告発したのは、米国家安全保障局(NSA)に、外部契約社員として勤めていた29歳の男性だ。電話、電子メール、インターネット上の情報など、どんな個人や組織のものも収集できたという。

無制限に近い諜報(ちょうほう)を見過ごせば、個人のプライバシーや通信の秘密が日常的に侵される監視社会となる。彼は「良心が許さなかった」と語っている。

男性の関与の程度やリークした内容の信頼性は、即断できない。だが、インターネットの技術とインフラをほぼ独占している米国が、どこまで情報通信をめぐる人権を尊重しているかは世界の重大な関心事だ。

米政府による情報集めはブッシュ前政権下で本格化した。07年、大量の電子情報を瞬時に集め、振り分ける「PRISM」というプログラム技術が開発され、拍車をかけたとされる。

PRISMには、アップルやグーグルなどIT大手9社も加わった。それを前政権から引き継いだオバマ政権下で協力企業は3倍に膨らんだという。

オバマ氏は「何の不都合も生まずに、完全な安全と完全なプライバシーを両立させることはできない」と述べ、一定の範囲内での諜報活動はやむを得ないとの考えを示した。

テロや犯罪組織が国境を超えてネットワーク化される今、個人情報の保護と、安全を守る方策の均衡をどう図るかは確かに悩むべき問題だ。だとしても、「米国の外に住む外国人が対象だ」との弁明には、世界の国々が不安を抱いても仕方ない。

国際的なサイバー攻撃への対策が急務の時代に、その先頭に立つべき情報大国が利己的な行動に走れば、サイバースペースは国家エゴが横行する「不信の空間」となりかねない。

米政府は、この告発男性の行方を追うスパイ作戦さながらの展開になっているが、そうした機密漏出事件としての内向きな対応だけで済ませるべき問題ではない。自由主義の原則が問われる疑惑がそこにある。

毎日新聞 2013年06月18日

米の通信傍受 市民監視が強まる怖さ

驚くべき事件なのに、やっぱりそうかという印象がつきまとう。国家による情報収集が想像を超えるレベルに達していることを、私たちは薄々感じていたからだろう。報道によれば、米国家安全保障局(NSA)は通信会社の通話記録を収集し、NSAと連邦捜査局(FBI)はプリズムと呼ばれる極秘のシステムでネット上の個人情報を集めていた。

また、2009年にロンドンで開かれた主要20カ国・地域(G20)の会合で英当局が各国代表団の通信を傍受していたとの報道もある。いずれも、かつてNSAの拠点で働いていた29歳の男性の告発に基づく報道とされ、FBIはこの男性を機密情報の暴露で訴追する構えだ。

しかし、米国内にはオバマ政権の行為こそプライバシーの侵害であり米憲法に反するとの批判もある。また、内部告発者を自国の法で断罪するのはともかく、米国の通信傍受が日本や中国を含めて、広く外国にも及んでいた可能性があるのは、大きな問題と言わざるを得ない。

先の米中首脳会談ではサイバー攻撃に関するルール作りが議題になったが、事は米中にとどまらない。サイバー攻撃や不当な情報収集に歯止めをかける国際的な規範が必要だし、個人情報の流出を防ぐシステムも検討すべきである。とてつもない難問ではあるが、対策を真剣に考えるべき時代になったといえよう。

米国はエシュロンという大規模通信傍受システムを持つといわれてきた。その存在を米国自身が認めたことはないが、協力国は英国、カナダなど4カ国に及ぶとされ、欧州議会は01年の報告書でエシュロンによる電話、ファクス、電子メールの傍受や産業スパイに言及し、人権・プライバシーの侵害と批判した。

また、ブッシュ政権は01年の同時多発テロ直後から、裁判所の令状なしに米国民の電話やメールを傍受していた。これが05年に判明して国を二分する議論に発展し、07年に令状なしで海外のテロ容疑者の通信を傍受できる改正外国情報監視法が成立した。同じころFBIは市民団体の抗議によりカーニボー(肉食獣)というメール傍受システムを廃止したが、代わりに、より性能のいいシステム(プリズム)を導入したのだろう。

オバマ政権下でも監視網は強まっている模様で、今年5月には米司法省がAP通信記者の通話記録を入手した事件も明るみに出た。一連の出来事を通じてエシュロンの輪郭がおぼろげに見えてきた印象もある。だが、市民の権利を軽視した情報収集は自由の国・米国の原則に反しよう。正当な情報収集活動だというなら、米政府は他の国々の市民も納得のいく説明をすべきである。

産経新聞 2013年06月14日

米の個人情報収集 詳細を説明して不安除け

米国防総省の情報機関、国家安全保障局(NSA)などが個人の通話録や電子メールのデータを入手していた問題をめぐり、擁護論と批判が交錯している。

テロ防止が目的で違法行為もなかったという米政府の説明は理解するとして、ネット社会では多くの人々がプライバシー侵害に敏感になっている。米当局は可能な限り情報を提供して、詳細を明らかにすべきだ。国民の不安を和らげ、協力を得るためにも必要なことだろう。

米メディアなどによると、NSAは米の大手電話会社に、数百万件の通信履歴を提出するよう求めた。インターネット大手の中枢サーバーに入り込み、電子メールや動画、サイトの閲覧など個人情報を24時間体制で監視していたともいう。マイクロソフト、ヤフーなど大手が協力していた。

オバマ大統領は「テロの脅威から米国を守る必要な措置で、裁判所の監督、議会承認も得ている」と強調した。ネットの情報収集は海外を対象とし、通話記録収集も電話番号や通話時間に限り、通話内容は除外しているという。

第2の同時テロを防ぐために、法に則(のっと)った手続きで適正な手段をとることは容認されるべきだ。市民も一時的に、制限を甘受しなければならない場合もあろう。

今回は収集された情報が大量、多岐にわたっている。ネット社会の到来で個人情報が第三者の手に渡る危険が高まっている現在、データ乱用はなかったといっても国民は不信感を強めている。

標的にされた米国外でも警戒感が強く、ドイツ、欧州連合(EU)を中心に米国に説明を求める動きが広がっている。

自らの能力をさとられるのを防ぐため、情報機関の活動については公表、コメントしないのは各国共通の慣例になっている。

今回は論議が激しいだけに、事情が違う。支障のない範囲で詳細に状況を説明すべきだ。収集した情報の種類、量、それをどのように利用し、どう保存、管理、または処分しているのか。

テロ阻止につながったケースがあるのなら公表してほしい。情報収集が効果をあげたことを表沙汰にするのも手の内を明かすことになり、当局は嫌うだろう。

しかし、成果を示すことが、理解と支持を得る早道だ。工夫して最良の方法を探ってほしい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1436/