1か月前に安倍首相が訪れたトルコで、エルドアン首相の退陣を求めるデモが10日以上も続き、警察が催涙弾と放水で強制排除に乗り出した。
デモの混乱で死者も出ており、深刻な事態が続いている。一日も早い収拾が望まれる。
地域大国のトルコは、内戦が続くシリアや再建途上のイラクと国境を接する要衝だ。政情不安が長引けば、好調だった自国経済への打撃になるばかりか、中東地域の安定化にも影響が出かねない。
デモのきっかけは、最大都市イスタンブールの公園の再開発計画に反対する集会を、警察が催涙弾で鎮圧しようとしたことだ。
怒った若者らがインターネットで呼びかけ、数万人規模にふくれあがった。首都アンカラなど他の都市にも広がっている。
ただ、エルドアン首相は経済再建で実績を上げている。就任以来の10年で、トルコの国内総生産(GDP)は2倍以上になり、主要20か国・地域(G20)の一員として、国際的地位も向上した。
首相が率いる穏健イスラム政党の公正発展党が2007年と11年の総選挙で大勝したのも、高い評価の表れである。首相が政権維持に自信を持つのは理解できる。
だが、イスラム色が強い政策と強権的な政治手法に、特に、世俗派の国民が不満を強めているのは明らかだ。
トルコは、1920年代の建国以来、政治と宗教を分離する世俗主義を国是としてきた。
最近、酒類販売を午後10時から午前6時まで禁じる法律が成立したことに、世俗派は、イスラム的な価値観に基づく立法だと、一層危機感を募らせている。
政府に批判的なジャーナリストが逮捕されるなど、言論の自由にも疑問符がつく。デモ参加者は国内メディアを「政府のご用聞き」とも批判した。
在任3期目の首相は、党規則によれば今期限りで退くことになるが、憲法改正で大統領権限を強化した上で、大統領に転身するのでは、との疑念がつきまとう。
首相自身、デモ参加者を「ならず者」と非難し、反政府デモに対抗する集会をアンカラとイスタンブールで開くとして、与党支持者に参加を呼びかける強硬な姿勢を崩していない。
世俗派と与党支持層の対決色が強まることが憂慮される。
デモに表れた世俗派の不満に耳を傾け、社会の分裂を回避することはできるのか。首相の舵取りが問われよう。
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