トルコのデモ 首相の強権姿勢が反発招いた

朝日新聞 2013年06月14日

トルコの混乱 中近東の民主政治示せ

トルコはいまや、自他ともに認める中近東の大国である。西洋と東洋が出合う世界の要衝に位置する伝統国が、勢いを取り戻しつつある。

だが、この2週間にわたる市民デモをめぐる混乱は、近年の安定した発展国のイメージとはかけ離れた姿を見せている。

当局が警官隊の投入など強硬姿勢に出たことで事態はこじれた。トルコ政府は市民との冷静で実のある対話にのぞみ、収束の道筋を探ってほしい。

トルコは政治と宗教を切り離した国だ。99%の国民がイスラム教徒だが、90年前に王制から共和制へ移った際に近代民主主義の原則を採り入れた。

女性のスカーフの着用を公共の場で禁じるなど、長らく西欧型をめざす道をたどった。だが90年代から地方や労働層が支えるイスラム主義が台頭した。

この10年間、首相の座にあるエルドアン氏はとりわけ宗教色の強い政治家として知られる。かねて軍など世俗派と摩擦を起こしたが、経済などの実績を強みに支持基盤を固めてきた。

在任の間に国内総生産(GDP)は倍増以上に伸びた。北大西洋条約機構(NATO)の一員として米欧との関係も深め、先進国と新興国が集う「G20」にも名を連ねている。

いまの混乱の発端は、イスタンブールにある公園の再開発計画だ。反対する若者や知識層などの集会に、催涙弾が撃たれて対立が悪化。各都市にデモが広がった。さらに、抗議した弁護士らも大勢拘束された。

それ以前にも、政府が夜間の酒類の販売を禁じたり、スカーフの着用の規制を緩めたりした動きに、世俗派は不安を募らせていた。今回のデモには、強権的ともいわれる首相の政治全般への反発がこもっている。

それでも首相を支える穏健イスラム主義の公正発展党の支持は厚い。首相が強気で振るまうのも、多数派は自身の側につくとの自信があるからだろう。

だが、このままでは、ほかの中東各地で繰り返された少数派の排除にもなりかねない。それは、トルコ自身が育ててきた民主主義と宗教の共存の原則を否定することにもなる。

民主化革命で親米独裁型の指導者が退場するなか、トルコは米欧とアラブを結ぶ希少な仲介役にもなっている。内戦状態のシリアや核問題を抱えるイランとも国境を接し、中東安定のカギを握っている。

新たな秩序を模索する「アラブの春」後の中東全体にとって範となるべく、異論も包含する穏当な民主政治を望みたい。

読売新聞 2013年06月12日

トルコのデモ 首相の強権姿勢が反発招いた

1か月前に安倍首相が訪れたトルコで、エルドアン首相の退陣を求めるデモが10日以上も続き、警察が催涙弾と放水で強制排除に乗り出した。

デモの混乱で死者も出ており、深刻な事態が続いている。一日も早い収拾が望まれる。

地域大国のトルコは、内戦が続くシリアや再建途上のイラクと国境を接する要衝だ。政情不安が長引けば、好調だった自国経済への打撃になるばかりか、中東地域の安定化にも影響が出かねない。

デモのきっかけは、最大都市イスタンブールの公園の再開発計画に反対する集会を、警察が催涙弾で鎮圧しようとしたことだ。

怒った若者らがインターネットで呼びかけ、数万人規模にふくれあがった。首都アンカラなど他の都市にも広がっている。

ただ、エルドアン首相は経済再建で実績を上げている。就任以来の10年で、トルコの国内総生産(GDP)は2倍以上になり、主要20か国・地域(G20)の一員として、国際的地位も向上した。

首相が率いる穏健イスラム政党の公正発展党が2007年と11年の総選挙で大勝したのも、高い評価の表れである。首相が政権維持に自信を持つのは理解できる。

だが、イスラム色が強い政策と強権的な政治手法に、特に、世俗派の国民が不満を強めているのは明らかだ。

トルコは、1920年代の建国以来、政治と宗教を分離する世俗主義を国是としてきた。

最近、酒類販売を午後10時から午前6時まで禁じる法律が成立したことに、世俗派は、イスラム的な価値観に基づく立法だと、一層危機感を募らせている。

政府に批判的なジャーナリストが逮捕されるなど、言論の自由にも疑問符がつく。デモ参加者は国内メディアを「政府のご用聞き」とも批判した。

在任3期目の首相は、党規則によれば今期限りで退くことになるが、憲法改正で大統領権限を強化した上で、大統領に転身するのでは、との疑念がつきまとう。

首相自身、デモ参加者を「ならず者」と非難し、反政府デモに対抗する集会をアンカラとイスタンブールで開くとして、与党支持者に参加を呼びかける強硬な姿勢を崩していない。

世俗派と与党支持層の対決色が強まることが憂慮される。

デモに表れた世俗派の不満に耳を傾け、社会の分裂を回避することはできるのか。首相の(かじ)取りが問われよう。

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