民間の設備投資を3年で10%増やし70兆円に回復▼インフラ輸出は20年に3倍の30兆円▼外国企業の対日投資残高は2倍の35兆円▼農林水産物・食品の輸出も2倍強の年1兆円に……。
安倍政権は成長戦略で高い目標を掲げ、「日本はまだまだ成長できる」「再び世界の真ん中で活躍できる」と鼓舞する。
たしかに、デフレの克服と成長の実現は、日本が直面する最大の課題だ。
ただ、国と経済界がシナリオを描いて国民を引っ張るような訴えに、時代とのズレを感じる人が多いのではないか。
首相が「国民総所得」という聞き慣れない指標を持ち出し、「10年後には1人あたりで現状から150万円、約4割増える」と言われても、それが年収とは直結しない指標だと知るにつけ、「まゆつば」と思うのがオチだろう。
3回にわたる首相の成長戦略演説は、株式市場には「新味に乏しい」と評判が悪いが、初回の「女性の活躍」「保育施設の整備加速」は話題になった。
ここに、少子高齢化と低成長に向きあう経済大国にとってのヒントがある。
国民の間に大きなニーズがありながら満たされていない分野を分析し、国民全体の力をフルに生かしつつ、新たな雇用と所得を生んでいく。そのために規制と予算・税制の改革を集中する。そんな「成熟国戦略」をこそ打ち出すべきだろう。
たとえば介護分野。ヘルパー不足を解消するため、低賃金・長時間労働をどう改善していくか。政府は予算確保へ少しずつ動き出したが、制度全体を見渡した検討が必要だ。
電力分野は、規制緩和で新たなビジネスが生まれる余地が大きい。自治体によるメガソーラー(大規模太陽光発電)の誘致合戦が活発だが、地域での発電を雇用に結びつけるような取り組みを後押ししたい。
起業を目指す人たち、とりわけ行政が解決できていない課題に取り組む「社会的起業」について、挑戦する若者への支援を徹底していけば、停滞感が漂うベンチャー支援策に新たな展望が開けるのではないか。
元気な高齢者の知恵と技能を生かすため、雇用延長やシルバー人材センターへの登録にとどまらず、社会全体で「人材バンク」を作れないか。
日々の生活の視点から戦略を立ててこそ、首相が言う「全員参加」「一人ひとりがそれぞれの持ち場で挑戦する」という機運が盛り上がり、成長にも寄与するだろう。
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