朝日新聞 2013年06月13日
飛ぶボール この隠し球はアウトだ
今季、本塁打が急増し、「ボールがよく飛ぶ」と話題になっていたプロ野球の統一球。日本プロ野球機構(NPB)が、飛びやすくなるよう、秘密裏にメーカーに改善を求めていたことが明らかになった。
各球団や選手会への説明は一切なく、メーカーに口止めまでしていたという。
プロ野球ファンや選手たちを、あまりにもないがしろにした行為だ。
開幕から2カ月半。NPBはなぜ公表せず、ウソを重ねたのか。加藤良三コミッショナーは「知らなかった」というが、それで済む話ではない。
「飛ばないボール」と陰口をたたかれてきた統一球は、2シーズン前から導入された。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などで戸惑わないよう、国際基準にあわせるのが目的だった。
使用球をミズノ社製に統一し、反発係数を基準の下限近くまで下げたところ、本塁打数が激減するという影響が出た。
シーズン総本塁打数は、導入前年の2010年の1605本から11年は939本に減った。
引き締まった投手戦は見応えがあるが、その実態が貧打戦ではつまらない。ホームランは野球の華でもある。
ファンに不評なことをNPBも意識したのだろう。昨シーズンのボール検査で反発係数の平均が基準の下限値を下回るものが出たため、メーカーに改善を指示したという。
基準を変えたのではない。正確さを求めただけだから、発表する必要はない。それがNPBの言い分かもしれない。
だとすれば、鈍感すぎる。公正なルールと透明な制度であってこそ、ファンは心からゲームを楽しめる。新しいボールになると分かれば、選手もプレーの仕方を工夫できる。
隠蔽(いんぺい)は、ファンと選手への裏切りと言われても仕方ない。
12球団が年間に使う試合球は約2万4千ダース。昨年、それを変えると決めたとき、「来季から改善しますのでお楽しみに」と発表していれば、誰もが納得しただろう。
統一球が加藤コミッショナーの肝煎りのアイデアだったことも、発表をためらわせた一因かもしれない。
元駐米大使で野球好きの国際通。だが、昨年、選手会がWBCを巡り、米国優位の不公平な利益配分に異を唱えたときは、大リーグ側との交渉に乗り出さずに傍観した。
加藤氏のリーダーシップにまた疑問符がついた。
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毎日新聞 2013年06月13日
統一球の変更 隠した本当の理由語れ
プロ野球で使われているボール(統一球)の仕様が今シーズンからひそかに変わり、加えて日本野球機構(NPB)が変更の事実を公表しないよう製造元に要請していたことが明らかになった。選手、ファンへの背信行為だ。国民的スポーツの普及と発展という責務を担う組織のすることなのか。最高責任者である加藤良三コミッショナーは隠蔽(いんぺい)の意図は否定したが、責任は極めて重い。
反発力が抑えられた、いわゆる「飛ばないボール」が導入されて3年目の今年、本塁打数などが増え、「ボールが変わったのでは」という声が選手の間などから上がっていた。だが、NPBも製造元のミズノ社も一貫して否定していた。
変更への対応にあたった加藤コミッショナーも12球団の実行委員会に報告していなかった。
NPBは11日に行われた日本プロ野球選手会との事務折衝でようやく変更を認めたが、選手会からの追及がなければ、公表するつもりはなかったという。「知らせることで混乱させてはいけないと考えた」と説明しているが、「我々が決めたことに選手は黙って従っていればよく、事前に理解や同意を得る必要はない」とも受け取れる姿勢で、時代錯誤もはなはだしい。
プロ野球の公式球は2010年までは12球団がそれぞれ別のメーカーと契約したボールを使っていて、バラツキがあった。飛距離を抑えるためと、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際試合に備えて、11年から反発係数の低い「飛ばないボール」を統一球として1軍の全試合で使うことにした。
昨年の定期的な抜き打ち検査で、反発係数の基準値を下回る「より飛ばないボール」が目立つようになり、NPBは昨夏、ミズノ社に「微調整」を指示した。「不良品」となった規格外のボールは、在庫をスムーズに消化するため、昨年の公式戦と今年のオープン戦などで使い切り、今年は開幕戦から調整した正規のボールを使っている。
わずかな違いだが、様式の変更は選手にとって「労働条件の変更」にも等しい。中日の球団代表によれば、規格外のボールによって成績不振に陥り、選手生命が終わったような選手もいるという。
ボールがより飛ばなかった昨年の成績を基準に出来高払い(インセンティブ)の契約を交わしている選手もいるだけに変更の影響は大きい。本来であれば、昨年オフの契約更改の前に変更を発表すべきだった。
ボールの仕様を基準値に合致するよう変更するのは当然だが、なぜ隠す必要があったのか。納得のいく説明を選手もファンも待っている。
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