NSCと情報保全 「知る権利」制約の懸念

朝日新聞 2013年06月09日

日本版NSC 器をまねるだけでは

日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議をつくる法案が、国会に提出された。

首相のもとに情報を一元化して、外交・安全保障政策の司令塔とする試みだ。

北東アジアの安全保障環境は厳しい。NSCの新設によって内閣の機能強化をはかること自体に異存はない。

これまでは、各省庁がバラバラに首相に情報を伝えていた。それぞれが矛盾したり、必要な情報があがらなかったりすることもあった。

これでは重要な決断はできない、ということだろう。

モデルとなった米国では、大統領のもとで、NSCが外交・安全保障の中心的な存在として機能してきた。

日本版NSCは、首相、官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」を設置。日ごろから情報を共有して戦略を練り、政策に反映させる。担当の首相補佐官を置くほか、内閣官房に数十人のスタッフからなる「国家安全保障局」を新設し、各省庁に情報提供を求める。

気がかりな点は多い。

そもそも外務省や防衛省、警察庁などとNSCとの役割分担がはっきりしない。その結果、混乱するようなことになっては元も子もない。

米国のNSCを仕切る大統領補佐官の交渉相手も定まらない。国家安全保障局長か首相補佐官か、あるいは官房長官なのか。軸を定めなければ混乱に拍車がかかるだろう。

また、機密性の高い事柄を扱うため、国会などのチェックが働かない心配がある。

米国には、秘密指定を一定期間後に解除し、公開する厳正な制度がある。国の針路にかかわる議論なのだから、きちんと議事録を残し、後年の検証に付すのは当然だ。

どれほど情報を集めても正しい判断ができるとは限らない。なぜ間違えたのか。どのように結論を導いたのか。重要な決定についてはその都度、説明責任が求められる。

見過ごせないのは、NSCにあわせて政府が準備している秘密保全法案の取り扱いだ。

詳細は明らかでないが、テロ対策などで各国と情報を共有するため、秘密を漏らした国家公務員や「共犯者」への罰則を強めるという。

秋の臨時国会に提出を検討している。国民の知る権利や取材の自由に抵触しないよう、徹底した議論が必要だ。

どんな組織も国民の理解がなければ成り立たない。そのことを念頭に議論を深めてほしい。

毎日新聞 2013年06月08日

NSCと情報保全 「知る権利」制約の懸念

政府は、外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を設置するための関連法案を閣議決定し、国会提出した。

首相、官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」が中核となり、情報共有と分析、外交・安保戦略の企画などを行う。事務局として国家安全保障局を新設する。本格的審議は秋の臨時国会になる見込みだ。

政治主導が求められる外交・安保政策について、最高責任者の首相を中心にした組織を設けるのは合理的だろう。少ない情報を基に限られた時間で決定を迫られる危機管理型課題では、政治家の洞察力や判断能力が重要だ。その前提は、情報収集・分析のための要員養成、外務、防衛両省の縦割り行政是正である。

情報が重要な要素となるNSCの設置に関連して懸念されるのは、情報の保全について政府が検討している「秘密保全法案」の内容だ。安倍晋三首相は早期の取りまとめと国会提出に言及しており、臨時国会に提案される可能性がある。

政府情報には国の安全に直接かかわるものもあり、政府が情報管理に万全を期すのは当然である。しかし、新法制定には国民の「知る権利」が絡み、慎重な検討が必要だ。

秘密保全法案は、尖閣諸島沖における海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件のビデオ映像流出を機に、一昨年から昨年にかけて、野田政権下で検討されたことがある。

当時、検討された法案は、政府が設けた有識者会議の報告書を下敷きにしていた。「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序の維持」の3分野に関する重要情報を、担当閣僚らが「特別秘密」に指定し、これらを漏らした公務員らに現行法より重い罰則を科す内容だった。

これに対し、特別秘密の範囲は明確でなく、行政機関の恣意(しい)的判断によって都合の悪い情報を隠す制度になる、と指摘された。また、厳罰化が公務員を萎縮させ、隠すべきでない情報の公開にも消極的になる可能性があるほか、報道機関の取材が処罰対象である情報漏えいの「教唆」などに問われる、との懸念もあった。結局、法曹関係者やメディア界などの強い反対に遭い、法案の国会提出が見送られた。

今回の法案の検討内容は明らかでないが、野田政権のものと大きな違いはない、との見方が強い。もしそうなら、前回と同様の問題点が再び浮上することになる。

安倍首相は「知る権利や取材の自由を尊重する」と述べるが、そうした言葉だけでは懸念を拭い去ることはできない。情報公開が不十分な現状のまま、秘密保全法を制定することにも違和感がある。政府は同法の必要性を含めて再検討すべきだ。

産経新聞 2013年06月09日

日本版NSC 国守る司令塔作りを急げ

安倍晋三政権が関連法案を国会に提出した「国家安全保障会議(日本版NSC)」は、現在の安全保障会議を衣替えし、外交・安保政策を中心とした国家戦略を政府内で一元的かつ継続的に構築する機関にしようというものだ。

国家として欠落していた機能を果たす組織を、早急に創設してもらいたい。

関連法案の柱は、首相と官房長官、外相、防衛相の4人を会議の司令塔とし、会議の専従スタッフを置く国家安全保障局を内閣官房に新設することなどにある。

だが、首相を補佐する安全保障担当の首相補佐官の位置づけが曖昧になっているなどの疑問点も残る。新機関が有効に機能するためには、組織運営や権限が明確になっていなければならない。

首相ら4人による「4大臣会合」は、定期的に重ねる会合を通じて国家戦略の策定にあたる会議の中核となる。現在の安保会議メンバーである総務相、財務相らを加えた「9大臣会合」は残すが、緊急事態の内容に応じて出席者を変える「緊急事態大臣会合」を新設する。

たとえば「領海侵入事案」では、「4大臣」に警察、海上保安庁を所管する国家公安委員長、国土交通相らが加わる。事態に応じて実質的なメンバーに絞って対応するのは、出席者が多くて会議が形式的にならないようにするためにも有効だろう。

懸念されるのは、常設される安全保障担当の首相補佐官が「会議に出席し、意見を述べることができる」という程度の権限にとどめられていることだ。自らの権限で関係省庁に情報提供を求めることも困難だ。これで首相を十分に補佐できるだろうか。

会議の骨格づくりをめぐり、警察庁や外務省など省庁間の主導権争いもあるという。国益を守るための新組織なのに、発足後も官僚機構の縄張り争いが続いて機能を果たせないなら本末転倒だ。

100人規模の専従スタッフを擁する国家安全保障局長は、内閣官房全体を統括する官房長官の指揮を受ける。情報集約などの面で官房長官が強い権限を持つことは重要だろう。だが、内政外交にわたり内閣の要となる官房長官が、会議にかかりきりになれるかという問題もある。国家安全保障局長、首相補佐官などの役割分担もさらに検討すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1432/