米中首脳会談 東アジアの緊張緩和を

朝日新聞 2013年06月11日

米中と世界 大国の責任を果たせ

米カリフォルニア州で7、8両日、計8時間にわたって行われた米中首脳会談は「新しい米中関係」を強調して終わった。

既存の大国と、新たに勃興した大国の関係は往々にして不安定になり、周辺国を巻き込みかねない。歴史が教える愚かな道は歩まず、互いに尊重し合い、協力を重視する。

そうした基調を、オバマ大統領と習近平(シーチンピン)国家主席が共有したことは大きな意味がある。アジア太平洋地域の平和と安定のため、米中が協力する第一歩となることを期待したい。

一方で、両国を隔てる溝の深さもうかがえた。

経済規模で米国に次ぎ、軍事大国ともなりつつある中国が世界に及ぼす影響は大きい。ところが共産党一党支配のもと、政策決定過程が不透明で、周辺国との摩擦も絶えない。

日米を含む世界の国々が中国の動向に関心を払い、世界に扉を開くよう求めてきた理由がそこにある。

その点、今回の会談は中国への国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)するものとは言い難い。

例えば、オバマ氏が問題提起したサイバー攻撃問題だ。

米国の政府機関や企業の重要情報がネットで盗み取られる被害をめぐり、米側は中国の政府や軍がかかわっていると疑っている。

習氏はこれまで通り中国の関与を否定し、「中国も被害者だ」との主張を繰り返した。

サイバー問題のルール作りで合意したが、実効性を持つものになるか不安を残した。

西太平洋に進出を図る中国海軍の動向も不気味だ。中国軍は何をめざしているのか。そもそも軍がどこまで統制されているのか。尖閣問題を抱える日本にとって、ひとごとではない。

両首脳は軍事交流の強化で一致したものの、習氏は「主権と領土をしっかり守る」と妥協しない面も見せた。

習氏は、中国経済の見通しについて「前途を楽観しているが、リスクと試練があることも認識している」と語った。

全貌(ぜんぼう)が明らかになっていない地方政府債務の問題をはじめとして、先行きが海外から不安視されている。経済統計の信頼性にも疑問符がつき、経済大国と呼べる姿ではない。

中国の指導者はこれまで「世界最大の発展途上国」を自称し、温暖化対策などで先進国並みに義務を負わされるのを避けてきた。今回は、その言い回しは前面に出ていない。

大国にふさわしい、責任あるふるまいを望む。

毎日新聞 2013年06月12日

尖閣と日中関係 外交的解決に知恵絞れ

オバマ米大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談は、沖縄県・尖閣諸島や南シナ海、サイバー攻撃などで対立点を残しながらも、米中の新たな関係を模索した会談となった。

ひるがえって日中関係は行き詰まったままだ。尖閣諸島の国有化から9カ月たったが、首脳はおろか閣僚級の対話さえほとんどできない。対立をこのまま放置してはいけない。

中国の挑発行為は相変わらずだ。中国公船は尖閣領海に侵入を繰り返している。中国軍艦船は海上自衛隊の護衛艦に射撃用の火器管制レーダーを照射した。李克強首相は、尖閣を念頭に「日本が盗み取った」と演説。「人民日報」は、沖縄の日本帰属に疑問を呈する論文を掲載した。

尖閣諸島は、歴史的にも国際法的にも日本固有の領土だ。日本による実効支配の現状を力ずくで変更しようとする中国の態度は、長い目でみれば中国にとっても利益にならないだろう。オバマ大統領が習主席に自制を促したように、中国には挑発行為をやめるよう改めて求めたい。

その上で安倍政権にも注文したい。安倍晋三首相は「対話のドアは常にオープン」という。しかし、公明党の山口那津男代表が首相親書を携えて訪中して以降、対話模索の動きがあまり見えないのが気になる。

野中広務元官房長官は、中国共産党序列5位の劉雲山(りゅう・うんざん)政治局常務委員と会談し、1972年の日中国交正常化交渉で尖閣の領有権について「棚上げ合意があった」と発言した。

菅義偉官房長官は「領有権問題は存在しない。棚上げを合意した事実はない」とこれを否定した。だが、条約課長として交渉に関わった栗山尚一(たかかず)元外務事務次官は、棚上げについて「『暗黙の了解』が首脳レベルで成立したと理解している」と証言している。

また、中国側は最近「棚上げ」による解決というシグナルを盛んに送ってきている。中国人民解放軍の戚建国(せき・けんこく)副総参謀長は、78年の日中平和友好条約交渉に際し、中国副首相だったトウ小平氏が主張した「棚上げ」論を評価し、「棚上げ状態に戻るべきだ」と呼びかけた。

研究者が過去を検証することは必要だが、日本の政府や政治家の間で「棚上げ」合意があったかどうかで、内輪もめをしている場合だろうか。中国も、領土問題や「棚上げ」合意の存在を、日本側に認めさせることを対話の前提条件にするのをやめるべきだ。重要なのは、尖閣をめぐり軍事的な衝突が起きかねない緊張状態を一日も早く解消することだ。

互いに公式見解を繰り返すだけでは、現状は打開できない。日中双方が、ともに納得できる外交的解決に知恵を絞るときではないか。

読売新聞 2013年06月11日

米中首脳会談 力に依存しては共存できない

超大国の米国と世界第2位の軍事・経済大国である中国が信頼醸成を図ることは、アジア太平洋の安定に欠かせない。

中国の習近平国家主席が米国を訪問し、オバマ大統領とカリフォルニア州の保養施設で会談した。中国の国家主席が就任後わずか3か月で訪米し、米大統領と会談したのは異例だ。

2日間計約8時間にわたる会談を通じ、両首脳は米中両国の新たな協力関係を巡って協議した。北朝鮮の核問題での圧力強化や地球温暖化対策推進で一致したが、思惑の違いも目立った。

習氏が目指す「新型の大国関係」とは、相互の社会制度や「核心的利益」を尊重する、米国と対等の関係である。会談で習氏が「広大な太平洋には両大国を受け入れる十分な空間がある」と語ったことには注意を払わねばならない。

これに対し、オバマ氏は国際ルールの順守を前提にした「平和的な台頭」を中国に求めた。

習氏は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関する情報提供も要請した。対中包囲網への警戒感があるのだろう。

焦点のサイバー攻撃による情報不正入手問題で、オバマ氏は、中国政府が関与しているとの米側の疑念を背景に、「この問題の解決は米中経済関係の将来のカギを握る」と懸念を示した。

習氏が「中国は被害者だ」と強調する以上、不正入手阻止の対策を米国と進めてもらいたい。

沖縄県・尖閣諸島を巡る日中対立について、オバマ氏は「東シナ海での行動ではなく、外交ルートを通じた対話」を求めた。海洋監視船などを尖閣周辺の日本領海に侵入させる示威行動をやめない中国に自制を迫ったものだ。

だが、習氏が逆に日本などを念頭に、「挑発を停止し、対話を通じ適切に問題を解決する軌道へ早期に戻るよう望む」と語ったのは身勝手に過ぎる。中国こそ、過激な挑発行動を控えるべきだ。

中国が「核心的利益」とみなして、東シナ海や南シナ海で一方的に海洋権益拡大を図っているのは、自らが標榜(ひょうぼう)する「平和発展」に矛盾する行動ではないか。

米国と対等の共存関係を主張するなら、それに見合った責任ある態度が求められる。国際ルールの順守は最低限の義務である。

日米両政府は、主要8か国首脳会議(G8サミット)に合わせて首脳会談を開く方向だ。日本は、力に依存した大国意識を高める中国への警戒を緩めず、日米同盟の重要性を再確認する必要がある。

産経新聞 2013年06月12日

北の対話攻勢 核開発の放棄が大前提だ

軍事挑発を繰り返していた北朝鮮が周辺国への対話攻勢に出ている。だが予定された12日の韓国との当局者会談は、首席代表のレベルをめぐる対立で中止された。

南北対話が実現するかどうかは流動的だが、相手をじらして成果を得ようとする北のペースに乗せられてはならない。

今年2月の北の核実験を受けた国連安保理決議は、核・ミサイル開発の放棄を求め、関連物資の禁輸などの制裁を科している。北が対話に転じるなら、まず、核開発の放棄が大前提となるはずだ。

北は、日本の飯島勲内閣官房参与の訪朝を受け入れた。金正恩第1書記の特使として崔竜海(チェ・リョンへ)軍総政治局長を中国に派遣し、米国、ロシアを含む6カ国協議に前向きな姿勢を表明した。

南北対話も北が希望したものだ。だが、北が最近まで恫喝(どうかつ)を重ね、国際社会を振り回していたことを忘れてはならない。

朝鮮戦争休戦協定の白紙化を宣言して新型ミサイル発射の構えを見せ、米国や韓国を「火の海にする」と脅した。対話に臨むならまず、こうした発言を撤回し、謝罪すべきだ。

南北当局者会談が実現すれば、開城工業団地の操業再開が議題の一つになるという。操業停止はそもそも北の労働者が引き揚げたせいだ。再開合意となっても北への見返りがあってはおかしい。

身勝手な振る舞いを取引材料に代価を得れば、それを目当てに同じことを繰り返す。北の「恫喝外交」「瀬戸際戦術」をこれ以上、許してはならない。

中国が国境貿易の制限や国有銀行の対北貿易決済停止などの措置に踏み切り、北の経済は大きなダメージを受けたとされる。先の米中首脳会談では、北を核保有国として認めず、非核化実現に向けて北への圧力を継続する重要性が強調された。当然のことだ。

北は当局者会談の議題に、2000年の南北共同宣言、1972年の南北共同声明の記念行事の南北共催を含めるよう主張した。

いずれも南北融和を象徴する文書で、とくに72年の声明は、朴槿恵(パク・クネ)大統領の父親である朴正煕(チョンヒ)大統領時代のものだ。融和ムードを演出したい北の思惑は明らかだ。

対話はあくまで、非核化への第一歩となるべきものだ。朴政権は当局者会談の実現をあせらないでほしい。

朝日新聞 2013年06月07日

米中首脳会談 争いより共存の思考を

19世紀末の「眠れる獅子」が近代化に目ざめて約100年。「巨大な竜」に成長した中国の首脳が、20世紀を制した米国とひざ詰めで世界を語りあう。

7、8日に米カリフォルニアである米中会談は、両国の綱引きがアジア太平洋の行方を左右する時代を告げている。

異例ずくめの設定だ。習近平(シーチンピン)国家主席は就任から3カ月。多国間会合は別にして、初訪米までに3、4年をかけた江沢民、胡錦濤両氏にはなかった積極的な対米アプローチである。

前任者らの形式ばった外交と違い、オバマ大統領とノータイ半袖で保養地に1泊する。国際的な地位に自信をたくわえ、米国と屈託なく渡りあう指導者像を印象づけたいのだろう。

オバマ氏は08年の就任当初から対中外交を重んじ、「21世紀を形作る関係」と位置づけた。安保経済すべてを話し合う対話の枠組みを通じて、意思疎通のパイプを広げようとした。だが、やがて期待はしぼんだ。

中国は近隣との領土問題で強引なふるまいを続けたほか、北朝鮮寄りの姿勢をとってきたからだ。シリアなど人権問題でも米欧との対立の構図が続く。中国政府や軍の関与が疑われる対米サイバー攻撃も、いま深刻な不信の種となっている。

だが、ことし、オバマ政権は2期目に入り、中国指導部は世代交代した。今回の会談は、仕切り直しの好機をとらえたものだ。個別的な合意よりも、2人の個人的な信頼関係づくりに主眼が置かれている。

中国は米国と「新しい大国関係」をめざすという。両国は政治体制を支える思想がまるで違う。だから対立点はあるが、総合的な協力関係は見失うまい。冷戦期の米ソのような対立は避けられるとの考えだという。

グローバルな相互経済依存の時代、世界を二分できるはずもない。中国も運命をともにする地球号の一員として、責任ある大国になるかどうかに世界の目は注がれている。

新大国というならば、冷戦期のような米国との覇権争いではなく、周りのすべての国との平和的な共存発展を真摯(しんし)に約束する姿をみせるべきだ。海の航行の自由や貿易、紛争の解決などで国際ルールを守る意思と行動を示さねばならない。

一方、新たな思考が求められるのは日本も同じだ。安倍政権の「価値観外交」が「中国包囲網」をめざしているとすれば、構図はそれほど単純ではない。

米中が新秩序を探りあう21世紀の日本の立ち位置はどこか、創造的な外交戦略が必要だ。

毎日新聞 2013年06月11日

米中と南北対話 核の協議につなげたい

米国で行われたオバマ米大統領と中国の習近平国家主席の会談が終わり、今度は韓国と北朝鮮による南北高位級の会談が12日からソウルで行われることになった。

昨年末以来、事実上の長距離弾道ミサイル発射、核実験強行、日米韓への核攻撃示唆など、常軌を逸した北朝鮮の言動がようやく収まり、対話局面に入ったわけだ。

協議の展開は予断を許さないが、韓国政府はぜひこの機会を核問題の論議につなげてほしい。

米中会談と南北の動きには密接な関連がある。

「北朝鮮の非核化は両国の共通目標であり、北朝鮮を核保有国と認めない。非核化に向けた協力を強化する。非核化実現に向け、北朝鮮への圧力を継続する」

こうした方針で米側と合意した習主席の意向は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記が北京に特使を送った際に伝わっているはずだ。

その特使は「中国側の提案を受け入れ、関係各国と対話したい」と語ったとされ、6カ国協議への復帰に前向きの姿勢を示したとも報じられたが、具体的な動きはなかった。

ソウルで2日間開かれる予定の南北会談は開始前から双方の思惑が食い違い、議題が統一されていない。韓国側は核問題の論議を優先したい模様だが、北朝鮮は経済的な利益獲得に主眼があるようにも見える。

南北共通の協議予定が明示されているのは3項目程度だ。

まず、北朝鮮側の開城(ケソン)地域に韓国企業を誘致し2004年から操業してきたものの、4月末に北朝鮮当局が労働者を撤収させ、ストップしている開城工業団地の再開問題。

1998年にスタートしたが2008年、北朝鮮の警備兵が韓国人女性観光客を射殺し、北朝鮮側が真相解明のための共同調査にも謝罪にも応じないため中断した金剛山(クムガンサン)観光事業の再開問題。

そして朝鮮戦争などで広く発生した南北離散家族の再会問題である。 このうち開城工業団地は、安価な労働力確保という点で韓国企業に利益があり、北朝鮮の暴発を抑止する「安全装置」としての役割もあるため操業を再開しやすいだろう。

しかし金剛山観光事業は北朝鮮にドルを渡しすぎ、核開発などの資金になったという批判もある。

北朝鮮はこの種の批判を回避するため離散家族問題を利用しようとしている、との見方もある。

核問題については北朝鮮が「米国と話すことであって、南側は相手ではない」と拒むのは目に見えているが、その壁を何とか崩したい。そういう流れになってこそ、6カ国協議再開の展望が開けてくるだろう。

読売新聞 2013年06月08日

日仏首脳会談 互いに有益な原発・安保協力

安倍首相が、来日中のオランド仏大統領と会談した。両首脳は、原子力や安全保障分野など幅広い協力をうたった共同声明を発表した。

原子力発電については、原発の安全確立や放射性廃棄物の最終処分など包括的な協力に言及している。核燃料サイクル推進と、次世代の原子炉である「高速炉」の共同開発も盛り込んだ。

日仏が技術や経験の蓄積を生かして協力する意義は大きい。

東京電力福島第一原子力発電所事故の処理も、官民で連携を一層拡大する。フランスは、汚染水や土壌の処理などで高い技術を持つ。両国の連携強化は、原発事故処理を国際的に進める一つのモデルにもなろう。

原発輸出に関しては、第三国への輸出に向けて、日仏が官民連携で取り組むことを明記した。

三菱重工業と仏原子力大手アレバの企業連合は先月、トルコからの受注に初めて成功した。こうした国際戦略の展開は、双方の経済にとっても有益だ。

共同声明のもう一つの大きな柱である安保では、「新たな大国の台頭で生じる課題に対応する」として、強硬姿勢を強める中国に対する連携強化を打ち出した。

特に、「海洋法の原則の尊重」といった海洋関連の項目には、太平洋に自国領の島々を持つフランスと、対中国で協調できるとの日本側の期待がある。

ただ、仏防衛企業は先般、悪天候でもヘリコプターが着艦できる装置の輸出契約を中国と結んだ。日本側は、尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返しており、中国の船の能力増強は好ましくないと仏側に懸念を伝えてきた。

両首脳が、武器転用が可能な装備品の輸出を協議する政府間対話の開始で合意したのは一歩前進だ。今後も対中輸出に、厳しく抑制を求めていく必要がある。

大統領は会談後、国会で演説し、日本と中韓両国との関係が歴史認識を巡って緊張していることを念頭に「過去に対しては一線を引かねばならない」と述べた。長年戦争を続けた仏独両国が関係を改善したことを例に挙げた。

歴史認識の問題については、日本の立場を仏側にも丁寧に説明していかねばなるまい。

今回のオランド氏の訪問は、仏大統領としては、シラク氏以来17年ぶりの国賓訪問だ。サルコジ前大統領は、中国との経済関係を重視し、とかく日本に冷ややかだった。オランド氏の来日を日仏関係再出発の機会としたい。

産経新聞 2013年06月11日

尖閣で米中応酬 「挑発」するのはどちらだ

米中首脳会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる応酬があった。オバマ米大統領が「行動でなく、話し合いを」と中国側に自制を求めたのに対し、中国の習近平国家主席は「(日本は)挑発をやめるべきだ」と主張した。

中国は尖閣が「盗取」されたと詭弁(きべん)を弄し、尖閣周辺で公船による領海侵犯を繰り返している。日中のどちらが挑発しているかは明らかだろう。

オバマ氏が尖閣問題を「長時間」(米側)取り上げたことは、日本の立場も踏まえたもので歓迎したい。しかし、米国は尖閣が日本防衛義務を定めた日米安全保障条約の適用対象であるとの姿勢をとっているにもかかわらず、オバマ氏が明確に言及しなかったとすれば残念だ。

習氏は「主権と領土を断固守る」と言明した。南シナ海の島嶼(とうしょ)の問題を含め「関係各国が責任ある態度で挑発ともめ事を起こすことをやめ、対話を通じて問題を解決することを望む」と語った。

尖閣についての中国の領有権主張は石油資源埋蔵の可能性が浮上した1970年ごろからだ。対話で解決というが、そもそも解決すべき領有権問題が存在しない。

尖閣北方海域で今年1月、海自の護衛艦やヘリが、中国海軍艦艇からレーダー照射を受け、小野寺五典防衛相が「国連憲章上、武力の威嚇に当たる」と抗議した。中国側にこそ、こうしたもめ事を起こさないよう求めたい。

オバマ氏は習氏に対し、第三国の主権問題には立ち入らない米国の原則を示し、外交解決を目指すべきだと主張した。だが、ケリー国務長官らが「尖閣は日本の施政下にあり、現状を変更しようとするいかなる一方的な行為にも反対する」などと指摘しているのに比べれば抑制的だ。

米中首脳会談は2日間計8時間に及び、非核化に向けた北朝鮮への圧力強化などでも合意した。両首脳が率直な意見交換の場を持つことは歓迎できる。

安倍晋三首相は「世界の平和と安定にとってはいいことだ」と両首脳の対話について指摘する一方、「日米は同盟関係でこれは米中とは決定的な差だ」と述べた。17、18両日の英国での主要国首脳会議(サミット)の場などを利用して、今回の会談について米側に詳しい説明を求め、対中国での連携を確認してほしい。

毎日新聞 2013年06月09日

米中首脳会談 責任ある「大国関係」に

米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談で、米中の「新たな大国関係」が話し合われた。

経済力でも軍事力でも世界一の超大国・米国と、その地位を脅かす勢いの新興大国・中国がどのような関係を構築していくのか。対抗か協力か、21世紀のアジアと世界の構造を決めるかもしれない重大なテーマである。会談が米国西海岸の保養地を選びノーネクタイで行われたのも逆にテーマの重さを暗示する。

「新たな大国関係」とは、単に初顔合わせの首脳の関係という意味ではない。習主席の主張は「新しい形」の「大国関係」である。それが具体的になにを意味するのか。軍事強国同士の「米ソ冷戦」のような関係ではない。日米が経済で1、2位だった時代の「日米同盟関係」とも違う。

今回の会談で浮かび上がったのが、軍事と経済という二つの分野で摩擦の高まる両国の、対立回避の模索だ。オバマ大統領は「中国の平和的台頭を歓迎する」「未来の発展の方向を作りたい」と述べた。端的に言えば、アジア太平洋で中国の軍事台頭を許さないということだ。

一方、習主席は「太平洋は両国にとって十分広い」と語り、中国海、空軍が米第7艦隊の展開する西太平洋方面へ今後進出するという、海洋強国戦略をあらわにした。

だが、大統領も主席も「どちらも協力を希望している」「未来の関係の青写真を描こう」と付け加えるのを忘れなかった。

「新しい形」の大国関係の柱として、対立回避と協力を追求する対話メカニズムを想定しているのだろう。これで、軍事分野で国際協調に消極的だった中国の姿勢が変わると期待したい。責任ある大国の自覚を前提にした米中協力が進むことは、海洋主権問題や北朝鮮の核問題などアジアの不安定要因の解決を促すだろう。

今回、サイバーセキュリティーの共通ルール作りについて合意したことは重要な意味がある。7月に再開される米中戦略・経済対話で取り上げるサイバーセキュリティーは、経済と軍事の両分野にまたがり、軍事のなかでもオバマ大統領が熱心な「核セキュリティー」の問題にかかわる課題だからである。

これまで米国は中国軍がサイバー攻撃の犯人だと非難し、中国は自分こそ被害者だと米国非難を繰り返してきた。その両者が協力して国際ルール作りに動き出すことは、従来の米中関係から見れば画期的といえるだろう。

ただし中国の国内政局はまだ不安定といわれる。今後、習主席が対米協調路線で党、軍内をまとめられるかどうか、留意が必要だろう。

産経新聞 2013年06月09日

米中首脳会談 太平洋は2大国の空間か

オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が初の首脳会談に臨み、「新たな形」の協力関係を築くことで一致した。

冷戦後、唯一の超大国となった米国と急速に台頭した中国は良好な関係を維持することが望ましいが、それが2国の世界支配に向かうことがあってはならない。

特に気になったのは、「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」との習氏の発言だ。中国の海洋進出の野心が露骨に表れており、日本を含む太平洋の国々にとっては警戒すべきことだ。

中国は外需依存の経済成長で大国にのぼりつめた。軍事力を背景とした海洋権益の拡大やサイバー攻撃、貿易不均衡など、世界でさまざまな軋轢(あつれき)を生じさせている。米国との新たな冷戦との見方もある。「新たな形」の関係は、こうした対立や不安を解消させるものであるべきだ。

習氏は就任後わずか3カ月での訪米となった。会談はカリフォルニア州の保養地で行われ、2日間に及ぶ。異例の舞台設定は、首脳同士の信頼関係の醸成が不可欠だとの双方の認識を示している。

両首脳がサイバー空間の安全に向け、共通のルールづくりを目指すことで一致したのは、協力関係の第一歩として評価したい。

企業の知的財産に関する情報が盗まれ、膨大な損失が出ているとして米国では大きな問題になっている。中国政府・軍の関与が指摘されるが、中国側は自らも被害者だと主張している。ただ、サイバー空間に国境はない。日本を含めた多国間の協力が必要だろう。

会談の冒頭、オバマ氏は北朝鮮の核・ミサイル開発への対応で協力の必要性も強調した。北は対話の姿勢に転じている。米中に日本、韓国、ロシアを加えた従来の枠組みに引き戻すべきときだ。

オバマ氏は中国の人権問題の重要性を強調し、さらには、気候変動や経済摩擦など幅広い問題を列挙した。

これに対し、習氏の発言は「中米関係の将来の青写真」「新たな大国関係」など具体性に欠け、大国意識ばかりが鼻についた。

「太平洋には」の発言が、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海が中国の空間だという意味なら、日本として看過できない。

オバマ氏はそのことをしっかり認識し、中国にモノを言ってもらいたい。

毎日新聞 2013年06月07日

米中首脳会談 東アジアの緊張緩和を

新たな米中関係の幕開けになるのかどうか。中米訪問中の習近平・中国国家主席は7、8の両日、米カリフォルニア州の保養地を訪れ、オバマ大統領と会談する。お互いノーネクタイの気楽なスタイルで週末を過ごし、率直な意見交換によって信頼を醸成しようというのだ。

こうした米中会談は胡錦濤・前主席時代は考えにくかった。前例を探せば、02年に当時の江沢民主席がブッシュ大統領の私邸兼牧場(テキサス州)を訪れたが、宿泊はしていない。米中首脳が泊まり込みで議論する形の会談は極めて異例だ。

オバマ政権の狙いは、建前をぶつけ合うより腹蔵のない対話で問題解決を探ることだろう。米レーガン政権はゴルバチョフ・ソ連共産党書記長と、クリントン政権はロシアのエリツィン、プーチンの両大統領と信頼関係を築き、冷戦から米露協調時代につなげた。同じことを、中国相手に試みているようにも見える。

冷戦後、米国の一極支配が続いた世界は、中国の台頭に伴い、あちこちできしんでいる。アジア地域では「アジア回帰」のオバマ政権と「中国の夢」を追う習政権の摩擦が強まることも予想され、特に尖閣問題では米軍を巻き込んだ日中の衝突さえ懸念される。この時期に米中首脳が話し合うのは意義があろう。

ソ連崩壊で生まれたロシアと違って中国では共産党の一党支配が続いており、対外姿勢はそう簡単には変わるまい。だが、中国の攻撃的な海洋進出に歯止めをかけるのは、日本を含む域内諸国の重要課題になっている。中国は尖閣周辺の東シナ海で領海侵犯を繰り返し、海上自衛隊の護衛艦にレーダーを照射し、南シナ海ではフィリピンやベトナムなどと軍事的に対立している。これではアジアの平和も安定も保てない。

また李克強首相ら中国要人が日本は尖閣を「盗んだ」と公言し、人民日報は沖縄の日本帰属を疑問視する論文を載せた。中国がサンフランシスコ講和条約(52年発効)による戦後秩序に挑戦しているように見えるのは米国としても見過ごせまい。中国の盟友・北朝鮮が核兵器開発を進め、傍若無人な態度を取っていることも含めて、東アジアは危険な状況である。情勢改善に向けて日米の連携強化と米国による中国説得が欠かせまい。

会談ではサイバー攻撃や核軍縮、シリア問題も討議されるという。2国だけで決められては困る問題もあり、中国が「大国同士の新たな関係」に過剰な自信を持てば、東アジア情勢は逆に悪化しかねない。その意味ではもろ刃の剣の側面もあるが、せっかくの会談である。両首脳の初顔合わせが、特に東アジアの緊張緩和につながるよう期待する。

産経新聞 2013年06月08日

日仏首脳会談 対中「脅威」認識の共有を

安倍晋三首相とオランド仏大統領との会談で、外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)を創設することが決まった。

安全保障分野での日仏の協力強化を歓迎したい。仏企業がさきに、軍事利用の恐れのあるヘリコプター着艦装置の中国への売却を決めたが、こうした事態を避けるよう新たな枠組みをしっかり機能させてほしい。

荒天時の着艦を可能とするこの装置の売却について、日本は再三、懸念を伝えてきた。仏側は、欧州連合(EU)が中国への輸出を禁じた「武器」にはあたらないと主張、オランド大統領も「軍事利用ではない」と述べている。

だが、この特殊な装置は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で領海侵犯を繰り返す中国公船に装備される恐れがあり、日本としては看過できない。

軍事関連物資である防衛装備品の共同開発もこの枠組みでの協議のテーマとなる。すでに米国と実施しているほか、武器輸出三原則の緩和を受け、英国とも検討に入っている。

2プラス2は、米国、オーストラリアに加え、ロシアとも4月の安倍首相訪問時に創設で合意しており、これで4カ国となった。

日本はさきに、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長が来日した際、中国の脅威に対する認識を共有している。欧州と日本との協力、対話の拡大自体が、中国への牽制(けんせい)となる。

双方は共同声明で「新たな大国の台頭で生じる課題に対応する」とし、海洋権益拡大を図る中国を念頭に「海洋法の原則尊重、航行の自由の維持」を強調した。今後の安保協力の原則とすべきだ。

両首脳はまた、日仏の企業連合による原発の輸出支援でも合意した。中東、アジアなどで民間企業の受注活動を後押しする政府間連携として評価したい。

いま、中国とEUの貿易摩擦が過熱している。EUが中国製太陽光パネルに反ダンピング(不当廉売)関税を課し、中国はEU産ワインを標的に報復を検討している。仏産ワインは、中国の欧州からの輸入量の6割を占める。フランスが課税に賛成したための狙い撃ちとの見方もある。

フランスはこの際、中国がいかに地域の平和と安全を脅かす存在であるかを認識し、それを日本と共有する機会にしてほしい。

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