オスプレイ訓練 負担軽減を考える契機に

朝日新聞 2013年06月07日

オスプレイ訓練 橋下氏も政府も本気か

日本維新の会共同代表の橋下徹・大阪市長と幹事長の松井一郎・大阪府知事が安倍晋三首相らと面会し、普天間飛行場に配備された米軍のオスプレイ訓練の一部を、地元・大阪の八尾空港で受け入れる考えを伝えた。

もし自分の家の近くでオスプレイの訓練が行われたら。まずはそれを考えることが、沖縄の負担をわかちあう第一歩になる。今回の提案は改めてそのことを私たちに問いかけている。

沖縄には米軍基地の74%が集中する。住民は日米安保条約のもと、危険や騒音と隣り合わせの暮らしを押しつけられてきた。住宅地に隣接する普天間飛行場の移転も進まない。

「本土は沖縄を差別している」。そんな不信の声が高まるなかでの提案で、基地負担の分かち合いは不可欠である。ただ、やぶから棒に八尾空港が持ち出され、唐突感が強い。

沖縄の反応も複雑だ。橋下氏は沖縄の米軍司令官に「風俗業活用」を進言し、地元でも米側からも批判を浴びた。今回の提案も参議院選をにらんだ失地回復ねらいとの冷めた目もある。

橋下氏は沖縄の負担を皆で考えるべきで、自分のところだけの安全性を言ってはダメだと強調する。その通りだが、普天間飛行場の移転先に関西空港をと言って立ち消えになるなど、基地問題への対応で一貫性を欠いてきたのは橋下氏自身である。

橋下氏は実現可能性の検討を政府に求め、菅官房長官は「検討する」と応じた。だが維新は地元に相談せず構想を掲げ、八尾市長は反発している。

オスプレイの訓練に沖縄が反対しているのは、海外で相次いで墜落するなど事故への懸念が残るからだ。八尾空港も住宅密集地にあり、どう受け入れを進めていくか。八尾空港を使うことがどこまで沖縄の負担軽減になるのかも、定かではない。いかにも準備不足の案だ。

昨年10月の配備に際し、沖縄県知事は「米軍が何でも持ち込めるというのは信じがたい」と抗議した。人口密集地や学校の上は避けるという日米間合意も、きちんと守られていない。

この実態を変えないままでは、八尾に限らず、訓練地域の住民を説得するのは困難だろう。政党の共同代表である橋下氏が本気ならば、与野党を説得し米国との交渉に持ち込むくらいの覚悟が必要だ。

検討を表明した政府も、沖縄の基地の県外移設と訓練の安全性の問題の両方を詰めていく責任がある。

そうでなければ言葉だけの提案、検討に過ぎない。

毎日新聞 2013年06月08日

オスプレイ訓練 乱暴で無責任な提案だ

日本維新の会共同代表の橋下徹・大阪市長と幹事長の松井一郎・大阪府知事が、沖縄県の米軍普天間飛行場に配備されているオスプレイの訓練の一部を大阪府の八尾空港で受け入れることを、安倍晋三首相と菅義偉官房長官に提案した。

沖縄の過重な基地負担は日本全国で分かち合うべきで、橋下氏らの問題意識は理解できる。しかし今回のやり方からは、本気で実現しようとする迫力も責任感も伝わってこない。旧日本軍の慰安婦をめぐる発言や、米軍に風俗業活用を求めた発言が批判を浴びたため、参院選向けに失地回復のパフォーマンスをしているのではないかと疑いたくなる。

二つの問題点を指摘したい。

一つは地元の八尾市の頭越しで行われたことだ。田中誠太市長は「市との調整や市民への事前説明がないのは遺憾」と反対を表明した。橋下氏は「これから政府がしっかり検討して説明が出てくる」と反論した。

この乱暴な手法は、日米両政府が沖縄の頭越しに普天間の移設先を沖縄県名護市辺野古と決め、受け入れを迫るのと同じ構図ではないか。難しい基地問題を進めるのに必要なのは、丁寧な対話と説得だ。

名護市の稲嶺進市長は「肝心の地元(八尾市)が反対しており、(市民の)頭の上で無責任な発言をしている」と批判している。

もう一つは、実現可能性を真剣に検討したのか疑問が残ることだ。

オスプレイの本土での低空飛行訓練は今年3月、山口県の岩国基地を拠点に始まり、今後は、静岡県のキャンプ富士も拠点として使用される方向だ。「オスプレイは航続距離が長い。米軍にとって岩国に加えて八尾空港を使う必要性は低いのではないか」との指摘もある。

またオスプレイの飛行訓練をめぐっては、人口密集地や学校の上空を避けるという運用ルールが日米間で合意されたが、きちんと守られていない。八尾空港は、住宅密集地にあり、過去に軽飛行機やヘリコプターの墜落事故も起きている。

鳩山由紀夫元首相はかつて、普天間飛行場について「最低でも県外(移設)」と訴えながら、結局は辺野古への移設に回帰し、沖縄の人たちを失望させた。橋下氏は大阪府知事時代、普天間の移設先を関西空港で受け入れる案を示したことがあったが、立ち消えになった。今回の提案がそうした結果に終わるようなら、沖縄や米軍の不信感はますます募ることになりかねない。

本来ならば、米軍のニーズや地元環境など実現可能性を水面下で慎重に検討し、可能性があると判断して初めて提案を公にし、対話と説得に努めるのが筋ではないだろうか。

読売新聞 2013年06月11日

オスプレイ訓練 沖縄の負担を軽減する一石に

沖縄県の過重な負担を日本全体で分かち合うことは大切だが、実現性には疑問符が付く。

日本維新の会の橋下共同代表(大阪市長)と松井幹事長(大阪府知事)が安倍首相と会談し、沖縄県に配備中の米軍新型輸送機MV22オスプレイの一部訓練を大阪・八尾空港に移転することを提案した。

首相は、移転の可否について小野寺防衛相に検討を指示した。

オスプレイは昨秋、米軍普天間飛行場に12機が配備された。今夏に12機が追加配備される予定だ。事故の恐れが高いという誤解や偏見が多いためか、沖縄では今も、配備への反対論が強い。

オスプレイは既に、山口県の米軍岩国基地を拠点に日本本土で5回、飛行訓練を実施している。航続距離が長いだけに、さらに訓練移転を増やすこともできよう。

沖縄の負担軽減に本土が積極的に協力したいという橋下氏らの問題意識自体は、評価できる。

一方で、今回の提案が、実現可能性や軍事的な合理性を十分検討したものでないのは明らかだ。

沖合滑走路のある岩国基地と違って、八尾空港は内陸の住宅密集地に位置する。周辺住民の騒音・安全対策が課題となり、地元市長も反対している。格納庫や給油施設などの整備も必要とされ、費用対効果も芳しくない。

キャンプ富士、三沢基地など、既存の米軍施設の方が、はるかに現実的な選択肢だろう。

橋下氏の慰安婦発言で、参院比例選投票先で維新の会が落ち込む中、今回の提案は失地回復を目指す政治的パフォーマンスにすぎない、との見方が出るゆえんだ。

橋下氏は大阪府知事時代、普天間飛行場の移設先として関西空港を挙げたことがあるが、これも軍事的合理性に疑いがあった。

首相が橋下氏の提案を前向きに受け止めたのも、参院選後の維新の会との連携を視野に入れているため、と見られている。

だが、だからと言って、今回の提案を一過性のもので終わらせてはならない。政府と全国の自治体は、沖縄の米軍基地負担の軽減にきちんと取り組む必要がある。

北朝鮮の核ミサイル開発や中国の急速な軍備増強を踏まえれば、日本の平和と安全を確保するために米軍の駐留を安定的に継続する必要性は一段と増している。

これまでも、在沖縄海兵隊の実弾砲撃訓練や嘉手納基地所属のF15の飛行訓練は全国に分散移転されてきた。オスプレイについても着実に分散移転を進めたい。

産経新聞 2013年06月07日

オスプレイ訓練 負担軽減を考える契機に

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の新型輸送機MV22オスプレイの訓練受け入れをめぐり、自治体が自ら協力を申し出た大阪発の提案に注目したい。

日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が安倍晋三首相らに大阪府の八尾空港で一部訓練を受け入れる構想を提案した。政府側は「沖縄に集中する基地負担を日本全国で分かち合っていくことは極めて大事だ」と歓迎し、検討すると回答した。

在日米軍の抑止力を維持しつつ沖縄の基地負担の軽減を図ることは、国民の平和と安全を守る政府の役割だ。だが、現実には本土の自治体は基地や訓練の受け入れに消極的だ。他の自治体も、この提案を負担軽減を共に考える契機としてほしい。

米軍のオスプレイは速度や搭載量、行動半径など性能面で優れ、尖閣諸島の有事に即応し、朝鮮半島もカバーできる。尖閣奪取を狙う中国や核・ミサイル開発をやめない北朝鮮に対処する上で重要かつ必要な抑止力となっている。

すでに12機が普天間に配備され、さらに12機が追加される予定だ。今年3月から本土での低空飛行訓練が始まっており、訓練の円滑な実施は抑止力の維持に不可欠なものだ。そのためにも、安倍首相は負担軽減の観点から「訓練をなるべく県外ですることに努力したい」との考えを仲井真弘多沖縄県知事に伝えていた。

八尾空港は八尾市の住宅密集地にあり、訓練受け入れには地元の反発が避けられない。米軍は飛行訓練に伴い岩国、キャンプ富士などの米軍基地を中継地点に使用する考えで、近畿地区に拠点を置くことに同意するかは不明だ。

流動的要素は多いが、沖縄の負担軽減の具体化は日米当局間での重要課題であり、「まず八尾空港を検討のテーブルに上げてほしい」という提起をどう生かすかを政府は真剣に検討すべきだ。

会談に同席した松井一郎維新の会幹事長(大阪府知事)は、受け入れの可能性があれば、地元の説得にあたると説明した。提言だけで実現できなければ、負担軽減への期待を裏切る。橋下氏らは実現に大きな責任を負っている。

他の自治体から「負担の分担という意味では尊い意見だ」(大村秀章愛知県知事)との指摘も出ている。国を守ることを念頭に置いた地方の声をさらに聞きたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1430/