限定正社員 制度導入への課題はなお多い

毎日新聞 2013年06月06日

正社員改革 多様な働き方への課題

雇用には問題が多い。給料が低く生活が不安定な非正規雇用が増え、若い世代が結婚や子育てできない原因になっている。その一方で長時間労働を強いられ疲弊している正社員は多い。経営側にとっては解雇規制が厳しいため非正規雇用を増やさざるを得ず、その分正社員がしわ寄せを受けているという構図だ。

正社員か非正規かという硬直した現状を変えるため、政府の規制改革会議が打ち出したのが「限定正社員(ジョブ型正社員)」だ。何を「限定」するのかと言うと、勤務地や労働時間や職務の内容だ。日本の雇用制度は一般的に人事権の裁量が広く認められ、いったん正社員として採用すると勤務地も仕事の内容も量も会社側が決められる。合理的な理由があれば賃金や退職金の変更もできる。その代わり労働者は安易に解雇されないよう守られている。

「限定正社員」は会社側の人事権の裁量を小さくする一方で解雇規制を一部緩めるもので、諸外国の雇用制度はむしろこちらに近い。国内でも流通業などでは既に導入しているが明確なルールはない。職務を限定し、その職務がなくなれば解雇できることにして非正規雇用から正社員への転換を企業に促すねらいがある。正社員の中にも自分に合った仕事を決められた勤務時間だけ行うことを望む人は多いかもしれない。子育てが必要な期間は勤務時間を限定したり、親の介護が必要な場合には勤務先を選べたりすることで離職せずにすむ人も大勢出てくるだろう。

限られた職務に専念できることで自らの専門性を高め、それを客観的に評価する仕組みを労働市場に作ることができれば、雇用の流動性を高めることにもつながる。より付加価値の高い商品やサービスを開発するためには、なんでも広く薄くできる社員がたくさんいるよりも、職務や分野ごとに専門性の高い社員がいることを求める企業は増えていくのではないか。

もちろん、懸念がないわけではない。安易な解雇や賃金カットに利用され、職場での差別がはびこることを心配する声は多い。職務に着目した雇用制度を整備することが目的であり、現に職務があるのに解雇するようなことは許してはならない。

生活を大事にしながら多様で柔軟な働き方を実現するためには、労働者側の意向を尊重した仕組みが必要だ。子育てや介護をしている期間は限定正社員となり、それが一段落したら正社員に戻れるような柔軟な運用も可能にすべきだ。職務の内容や能力に応じた人事・処遇制度は経営者にも労働者にも恩恵をもたらすものでなくてはならない。緻密な制度設計と労使の信頼が必要だ。

読売新聞 2013年06月04日

限定正社員 制度導入への課題はなお多い

雇用を拡大し、成長分野に人材を振り向ける一助になるだろうか。

政府の規制改革会議は成長戦略の一環として、「限定正社員」の制度化を答申する方針だ。

限定正社員は、職務や勤務地、労働時間が限定されている。正社員と同様、福利厚生が受けられ、雇用期間にも定めがない。「ジョブ型正社員」とも言われ、欧米では一般的である。

正社員より賃金は低いが、非正規社員に比べると、身分は安定していると言える。子育てや介護を抱える人は、自分の希望にあった働き方を選択できる。

こうした雇用形態を採用している企業は多いが、必ずしも雇用ルールは確立されていない。

限定正社員を制度化することで期待されるのは、雇用者全体の35%に膨らんだ非正規雇用が正規雇用に近づく一歩となることだ。給料が低く、リストラの対象にされやすい非正規雇用の増大は、消費低迷の要因とされている。

職務が限定されれば、従業員の仕事の専門性が明確になる。人によってはキャリアを積むことができ、転職の際に強みになろう。

一方、限定正社員制度が定着した場合、企業側にもメリットがある。役割を終えた事業所の閉鎖や職種の廃止に踏み切る際に、配置転換などで雇用が保護される正社員とは違って解雇しやすい。

不採算部門に余剰人員を抱え込む現状の改善につながる。

だが、制度化への課題は多い。連合は、限定正社員が解雇規制の緩和という側面で検討されたことを問題視し、「工場や事業所の閉鎖に伴い、企業が勝手に社員を解雇できる」「首切りへの自由化策だ」と反発している。

企業にとっては、解雇を巡る訴訟リスクの増加も懸念材料だ。

規制改革会議は、どのような場合に解雇できるか、といったルール作りについて、政府に結論を出すことを求めている。

安易なリストラを助長し、かえって雇用の不安定化を招くような事態は避けるべきである。

失業を増やさずに、構造不況業種から成長産業へ、いかに労働力の移動を図るか。流動性の高い労働市場を形成することが、日本経済の再生には欠かせない。

従業員が解雇された際の再就職を支援するため、政府や企業は就職先のあっせんや職業訓練にも力を入れる必要があろう。

雇用だけでなく、経済成長や産業の国際競争力など幅広い観点から議論を深めてもらいたい。

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