◆「3本目の矢」を的中させよ
企業の競争力を高め、世界に勝てる日本経済へ再生できるか。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が、いよいよ真価を問われる。
政府の産業競争力会議が5日、アベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略の素案をまとめた。これで具体的な政策メニューは、ほぼ出そろった。
安倍首相は成長戦略について講演し、規制緩和を改革の「一丁目一番地」と位置付けた。「民間活力の爆発」をキーワードに日本経済を立て直す決意を示した。
1人当たりの国民総所得を10年後に150万円増やすなど、中長期的な目標も掲げている。
◆メニューは出そろった
政府の成長戦略は「産業再興」「戦略市場創造」「国際展開」が3本柱である。5日の東京株式市場では、内容に新味がないとの見方などから株価が急落したが、戦略の方向性は妥当だ。
産業再興は、今後5年間を緊急構造改革期間と定め、女性の人材活用や、民間投資促進などの施策を重点的に実施する。
首相が打ち出した「国家戦略特区」はその目玉といえる。大胆な規制緩和を断行し、世界から企業や人材が集まる国際都市をつくる構想だ。
日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」とするため、具体化を急ぐ必要がある。
戦略市場創造は、少子高齢化やインフラの老朽化など日本が抱える課題を逆手に取り、新たなビジネス育成を目指す。海外に後れを取っている医療産業や、生産性が低く、国際競争力の強化が急務の農業などがターゲットだ。
規制改革では、市販薬のインターネット販売解禁や、保険診療と保険外診療を併用できる範囲の拡大が打ち出された。一定の前進として評価できる。
政策支援を追い風に、さらに官民の知恵や工夫を結集し、ピンチをチャンスに変えたい。
国際展開では、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が、その第一歩となる。出遅れた通商政策を挽回しなければならない。
人口減で国内市場が縮小している日本が成長を維持するには、原子力発電所や新幹線などインフラの輸出を加速し、海外の需要を取り込むことも不可欠だ。
◆司令塔の強化が必要だ
「民間投資70兆円」「インフラ輸出30兆円」「対日直接投資35兆円」――。首相が次々に挙げた政策別の数値目標は、どれも野心的な高い目標である。
意気込みは頼もしいが、「空手形」では意味がない。着実に実行し、成果を出すことが大切だ。
菅内閣が2010年6月に決めた「新成長戦略」は、2年後に成果を出せた施策が1割に満たなかった。達成時期などを示した綿密な工程表も見かけ倒しだった。
同じ轍を踏んではならない。官邸の司令塔機能を強化し、規制緩和に対する各府省の抵抗や縄張り争いを監視すべきだ。
安倍内閣は毎年、政策の達成度を新たな指標で検証するという。進行が遅れた場合は目標を安易に下げず、達成への追加策を講じる仕組みとする。事業を不断に見直し、改善してもらいたい。
気がかりなのは、経済界が要望したのに盛り込まれなかった政策が目立つことである。
例えば、他の主要国より高い法人税率の引き下げや、企業による農地所有の解禁などの抜本的な農政改革は見送られた。
参院選や来年4月の消費税率引き上げを控え、有権者の反発を招きかねない政策を避けたかったという事情もあろう。
だが、日本経済の閉塞状況を打破するには、既得権益の壁に果敢に挑む決意が要る。先送りした懸案の議論を加速してほしい。
成長戦略の実効性を上げるには、個々の政策の充実はもとより、民間の経済活動を妨げる障害を除去することが重要となる。
◆電力安定は経済の礎
安倍内閣の発足後、日本経済を苦しめてきた超円高は是正されたが、課題は山積している。
特に電力不足は深刻だ。停止している原発を代替する火力発電所の燃料費が膨らみ、国富流出と電気料金の値上げが止まらない。
電気は経済の血液である。安価な電力の安定供給を回復しない限り、安定成長は難しい。
安全を確認できた原発の再稼働に「政府一丸となって最大限取り組む」との方針を、成長戦略に明記したのは当然である。
政府は率先して立地自治体の説得にあたり、電力安定供給の実現に全力を挙げるべきだ。
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