医療事故調査 医師らの本気が見たい

朝日新聞 2013年06月02日

医療事故調査 医師らの本気が見たい

医療での思いがけない事故について、真相をたしかめる仕組みの大枠がやっと固まった。

第三者の立場から原因を調べる民間の機関がもうけられる。飛行機事故などで知られた「事故調査委員会」にちなみ、「医療版事故調」と呼ばれる。

医師や、患者の遺族、弁護士らでつくる厚生労働省の検討部会が構想をまとめた。この秋に医療法をととのえ、早ければ15年度中の実現をめざす。

調べるのは死亡したケースに限るなど、まだ不十分さも目につく。だが、10年近い論議の末にたどりついた結論だ。

医療の信頼を高めるために、ここから制度を育てたい。

対象は、病院、歯科診療所、助産所など約18万ある国内すべての医療施設。

診療のなかで、医師も予期しない死亡がおきたときは、かならず外部の医師を入れた院内調査をするよう義務づける。

事故調への届け出もルール化し、遺族に開示した院内調査の結果も報告させる。

遺族が納得できないときは、事故調に直接調査を求めることもできる。

医療事故やその疑いがある例の原因究明について、これまで統一的な取りきめはなかった。

病院が真相を隠したり、警察の捜査で医師の刑事責任が問われたりするたび、遺族の怒りや医療不信がふくらんだ。

むずかしい診療行為では、事故か、そうでないかの判断が簡単でないことも多い。

医師の側にも責任追及をおそれるあまり、命にかかわる診療科をこころざす人が減るなど、マイナスの影響があった。

厚労省が08年に案をつくったときは、医療界の一部から猛反発が出た。ふつうの診療から大きく外れていたことが原因だった時などは、警察に知らせることになっていたからだ。

それが今回は、事故調の手前の院内調査に重点が移った。目的も、再発の防止と医療の質の向上と明記され、警察へ通知はしないことになった。

最大のカギは院内調査の中身になる。公正に、自らの弱みも含めて原因に切りこめるか。小さな施設では地元医師会などが力を貸すことになりそうだが、かばい合いは許されない。

診療のなかで死亡する事故は年に1300~2000件といわれるが、全体像さえあやふやだ。事故調への届け出でようやく解明のとびらが開く。

医療界をあげて本気で取りくんでほしい。厚労省は事故調を切望してきた遺族らの声もくみ、制度設計を急ぐべきだ。

産経新聞 2013年06月05日

医療事故調 患者の信頼取り戻したい

治療に訪れたのに思わぬ事故で命を落とす。そんな理不尽な事態の再発防止を目指す民間の第三者機関による医療事故調査制度の概要がやっと固まった。

医療事故をめぐる民事訴訟や医師個人の刑事責任が問われるケースも増え、医師に対する患者側の不信が拡大している。医療事故調査制度は、複雑化、専門化する事故原因を徹底解明するうえでも不可欠だ。厚生労働省の検討部会がまとめた概要をたたき台にして、実効性のある制度の確立に努めてほしい。

厚労省によると、診療行為に絡んだ予期せぬ死亡事故は年間1300~2000件起きている。過去には手術で患者を取り違えたり、器具を体内に置き忘れたりと信じがたい事故もあった。病院側の隠蔽(いんぺい)体質も否定できず、カルテ改竄(かいざん)の悪質例もみられた。

訴訟や刑事事件に発展する事態が増えたことで、医師がリスクの高い手術を避けたり、訴訟の多い産科の医師などが減ったりする事態も起きている。医療崩壊が大きな社会問題にもなってきた。

医療事故調査制度の最大の狙いは、医療への信頼回復にある。医療界は制度を機能させるために率先して協力すべきだ。

制度の特徴も、まず病院や診療所など医療機関自らの手で事故原因を調べるところにある。死亡事故は全国約18万の医療機関すべてが院内調査を実施し、再発防止策を講じるよう義務付ける。

調査結果は第三者機関への報告とともに患者側にも必ず説明するよう定める。それについて患者側が納得できない場合は、第三者機関に直接、再調査を求めることができるとした。

第三者機関は、調査結果について、警察や行政機関への通報などはしないが、その分、医療界の自浄能力が問われている。

第三者機関の調査の中立性や公正性、透明性を担保するため、権限や人選など、ほかにも解決すべき課題が少なくない。医療機関自らの調査でも、外部の医師の参加は欠かせない。

検討部会がまとめた概要でも「原則として外部の医療の専門家の支援を受ける」としている。法律で義務付けるべきだ。

第三者機関の調査費用の一部は、遺族や医療機関が負担する方向だが、これについても明確なガイドラインが必要だ。

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