安倍政権が近くまとめる成長戦略に、「原発の活用」が盛り込まれる見通しだという。再稼働を求める電力業界や産業界の声を受けてのことだ。
あまりに安直ではないか。原発回帰が前面に出れば、せっかく生まれつつある新ビジネスの芽をも摘みかねない。撤回すべきだ。
電力不足や火力発電の拡大に伴うコスト増が目先の経済に与える影響を無視していいわけではない。マイナス要因をできるだけ抑えることは、政治の大事な仕事である。
だが、成長戦略とは、中長期にわたる日本経済の「新しい方向性」を示すものだ。
実際、エネルギー政策としてはほかに「高効率火力発電の導入」「浮体式洋上風力発電の推進」「スマートコミュニティーの拡大」なども取り上げられるという。
福島の原発事故から2年あまりを経て、こうした分野に参入する企業も目につくようになってきた。採算性やインフラの不備といった課題を抱えつつ、思い切って挑戦する新興勢力を積極的に支援するのが、成長戦略の柱のはずだ。
ここで政府が原発回帰の姿勢を強めれば、古い電力体制が温存され、新規参入の余地をせばめることになる。それは、地域独占から自由化・競争促進への転換をめざす電力システム改革とも矛盾する。
何より、「原発への依存度をできる限り低減する」とした安倍政権の方針に反する。
福島の問題は解決にはほど遠い状況にある。日本がこの重い問題にどう道筋をつけるのか、世界が注目している。原発再稼働を急ぎたい人たちの声にばかり耳を傾けていては、大局を誤りかねない。
かつて米国市場で低評価に甘んじていたホンダは70年代、厳しい排ガス規制法が敷かれたことをテコに、低公害・低燃費のエンジン開発に成功し、今日の基盤を築いた。
大胆な発想や技術の飛躍が厳しい課題を克服するところから生まれることは、歴史が示すところだ。
むしろ「脱原発依存にこそ成長の道あり」と位置づけるほうが、日本の優秀な技術や人材を最大限に生かす場が見えてくるのではないか。
成長戦略を議論する産業競争力会議でも、民間議員の中に安易な原発復活に対する慎重論があるという。成案づくりの作業が本格化するのはこれからだ。未来を感じさせる中身にしてもらいたい。
この記事へのコメントはありません。