アフリカ開発会議 互恵関係を築きたい

朝日新聞 2013年05月31日

アフリカ開発 資源頼みから脱却を

かつてアフリカが「暗黒大陸」と呼ばれた時代があったことを知る人はどれほどいるだろう。それほどまでに、近年のアフリカの成長には目を見張る。

だが、順調に見える成長にもゆがみが見える。一番の課題は、成長が天然資源頼みになりがちなことだ。すそ野の広い、持続的な発展への脱皮を後押ししなければならない。

日本が音頭をとって20年前に始めたアフリカ開発会議(TICAD)が、1日から横浜市で開かれる。5回目となる会議には、地域の50余国の首脳たちや国際機関の代表が集まる。

原油や希少金属といった資源の開発、輸出が本格化したのは世紀が変わった頃だ。過去10年の地域の平均成長率は約6%に達するが、この豊かさが全体の人々に行き渡っていない。

例えば、アフリカ中西部の赤道ギニアという国では石油生産が始まってから一人あたり所得が先進国並みになった。ところが5歳までに乳幼児の1割以上が亡くなっている。貧富の格差が広がり、衛生状況の改善が遅れているからだ。

食糧の生産性も低い。農村の貧困が解消されず、海外からの穀物輸入が増え続けている。

サハラ砂漠周辺では、地球温暖化による干ばつや地域紛争に住民が苦しんでいる。

日本はこの5年間に、アフリカ向けの政府の途上国援助(ODA)を倍増させ、コメ増産や教育、保健支援に取り組んできた。製品の品質や生産性を向上させるカイゼン運動も各国に広がっている。

こうした日本の得意技を生かしつつ、工業化や農業強化への支援を拡充する。草の根の人々の生活や福祉に目を配る「人間の安全保障」の理念を支えにしたい。

アフリカの巨大な消費市場や資源開発への経済界の関心は高い。投資リスクを減らすためにも、各国は腐敗を一掃し、政治安定に努めてもらいたい。

近年はインド、ブラジルなどの新興国や韓国も、アフリカとの経済交流を深めている。中国は、日本を大きく上回る援助や貿易投資をしている。

今回の会議では、11年前に発足し、地域統合を目標に掲げるアフリカ連合(AU)が共催者に加わる。アフリカ側が実力と自信をつけてきた表れだろう。

大陸の人口は10億人。2050年には世界の5人に1人がアフリカ人になる見込みだ。

雄大な自然や独自の文化。アフリカの魅力は多様だ。

この会議を日本とアフリカとの信頼構築につなげたい。

毎日新聞 2013年05月31日

アフリカ開発会議 互恵関係を築きたい

日本が主導し、アフリカの40カ国以上の首脳が集まって開発について話し合うアフリカ開発会議(TICAD)が6月1日から横浜市で開かれる。5年に1回開催されてきた会議は5回目を迎えるが、ここ10年、めざましい経済成長を遂げるアフリカの開発環境は、様変わりしている。かつての「貧困と紛争の大陸」への援助という視点だけでなく、貿易・投資のパートナーとしてどう関わり、日本の経済再生にもつなげることができるかが問われている。

世界の15%にあたる約10億人の人口を有するアフリカの強みは、石油・天然ガスや鉱物など天然資源に恵まれていることだ。2000年代半ば以降、新興国の需要拡大を背景に資源価格が高騰し、投資が急増したことで、アフリカは急成長した。サハラ砂漠より南のサブサハラ地域でみると、02年からの10年間で年平均5.8%の経済成長をしている。

とりわけアフリカの経済成長を支えているのが、資源獲得のため中国がつぎ込む巨額投資だ。中国の対アフリカ投資額は日本の約3倍、貿易総額は5倍以上にのぼる。中国首脳によるトップ外交も活発だ。

一方、日本は、冷戦終結で欧米各国のアフリカへの関心が低下したことから、1993年にアフリカ開発会議を発足させた。先見の明があったのだ。だが、90年代後半から財政事情の悪化で政府開発援助(ODA)を減らし、日本国内政治の混乱もあって、アフリカ外交で十分な取り組みができなかった。歴代首相でサブサハラ地域を訪れたのは、01年の森喜朗首相、06年の小泉純一郎首相(いずれも当時)の2人だけだ。

アフリカの経済成長は著しいが、資源頼みなど課題も多い。貧困は深刻で、貧富の格差が広がっている。紛争は90年代に比べると収束したが、依然として続いており、政治が不安定な地域が残る。アルジェリアで起きた人質事件などで明らかなように、テロ対策の強化も急務だ。

中国による開発には「本国の労働者や機材をごっそり持って来るため、雇用や技術移転につながらない」「新しい植民地主義」などの批判も聞かれるようになった。

日本の対アフリカ投資は、中国や欧米に比べて出遅れている。しかし日本による開発には「現地で雇用や人材育成をしっかりやってくれる」「約束を守る」などの評価もある。

今回の会議で政府は、日本企業のアフリカ投資を促進するため、インフラ整備、人材育成など、ビジネス環境整備を官民連携で支援することを打ち出す。会議を弾みにアフリカ外交を強化し、日本のよさを生かしながら、互いにとって利益になる互恵関係の構築を目指していきたい。

読売新聞 2013年06月02日

アフリカ会議 日本の顔見える支援拡大せよ

日本とアフリカの首脳級会合である「第5回アフリカ開発会議(TICAD5)」が1日、横浜市で開幕した。“成長大陸”アフリカと連携を強化する絶好の機会だ。

5年に1度の会合で、今回はアフリカ51か国が出席した。

安倍首相は、「互いに成長し合う仲間になった」と述べ、官民連携により、今後5年間で最大3・2兆円をアフリカに支援すると表明した。1・4兆円は政府開発援助(ODA)を充てる。

アフリカは天然資源が豊富で、5%台の高成長が続く。人口は10億人と多く、中間所得層が増加する有望市場である。

一方、電力不足は深刻だ。道路、港湾、鉄道などインフラ整備の遅れも課題と言える。

アフリカの日本への期待は大きい。商社、メーカーなど民間企業と足並みをそろえ、アフリカへの支援や投資を拡大しようとする政府の狙いは妥当だ。

日本に不可欠な天然ガスなどの資源開発を促進したり、インフラ輸出を加速したりできれば、経済政策「アベノミクス」の成長戦略にも弾みをつけよう。

警戒しなければならないのは、アフリカでの存在感を増大させている中国の動きである。

中国は、首脳らが相次いでアフリカを訪問し、アフリカ向けの融資や投資を急拡大している。

昨年、「3年間で200億ドル融資」という新たな方針を表明したが、実態は不透明だ。資源囲い込みや自国の利益を最優先する姿勢が目立つ点も看過できない。

安倍首相は、できるだけ早期にアフリカを訪問する意向も表明した。中国に対抗し、首相が先頭に立つことは適切だろう。

重要なのは、「日本の顔が見える支援」を通じてアフリカの自立を促し、互いに利益になる良好な関係を築くことである。

アフリカは貧困や、エイズなど疾病の問題を抱える。コメ作り支援で農業の生産性を高め、貧困を減らす方策を強化すべきだ。

3万人の就業支援による人材育成や、技術移転を後押しするなど、ODAを有効に活用する日本ならではの戦略が求められる。

1月にアルジェリアで人質事件が起きた。一部では依然、治安が悪化している。政府の主導で、日本企業が投資しやすい環境を整備することが急務だ。

国連安全保障理事会の改革を目指す日本にとって、アフリカとの関係強化で外交基盤を拡大する意義も忘れてはなるまい。

産経新聞 2013年06月01日

アフリカ開発会議 日本らしさで関係強化を

日本政府が主導する第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が横浜市で開催される。

アフリカは2000年代に入って豊富な天然資源を背景に急成長し、サハラ砂漠以南の実質経済成長率は5・8%に拡大した。人口は50年には現在から倍増し、20億人を超える見通しだ。

アフリカ諸国首脳らの来日で関係強化を図り、企業進出やインフラ受注の拡大などのビジネスにつなげてアフリカの成長力を国内に取り込みたい。

TICADは1993年、冷戦終結で国際社会の関心が低下したアフリカ諸国を支援するため、日本が発足させた。国際舞台でアフリカ諸国の支持を得て、日本の外交力を高める狙いがあった。

5年に1度、首脳会議が国連など国際機関との共催で日本で開かれ、20年を迎える。回を重ねて訪日する首脳も増えた。日本主導の支援の枠組みが高い評価を受けているからだといえる。

今回初めて、共催に地域機構のアフリカ連合(AU)が名を連ねた。会議が日本とアフリカ諸国との連携の場であるとの性格が強まった証しとして歓迎したい。

2000年以降、中国、韓国、インドなどが同種の会議を設立した。中国・アフリカ協力フォーラムなどは最初から、資源獲得や企業進出を意識している。

中国とアフリカの貿易総額は1662億ドルに上るが、日本とは300億ドルだ。投資は中国の31億7000万ドルに対し、日本は4億6400万ドルにとどまる。

日本のアフリカ向け政府開発援助(ODA)が年間18億ドルであるのに対し、中国は3年間で200億ドルだ。中国は開発のためのヒトもカネも自国から持ち込み、地元に何も残さないことが多く、「新植民地主義」の批判もある。

日本は、アジアの経済成長を引っ張った経験とノウハウをアピールするとともに、人材育成や技術移転など「日本らしい」質の高い援助を続けることで競争力も高めたい。人権状況の改善など、注文すべきは注文してほしい。

TICADはメーンの会合が5年に1度で、そのときどきの盛り上がりはあっても定着せず、国際会議としての認知度が低い。日本とアフリカで交互に、より頻繁に開催してはどうか。アフリカに目を向けた先駆者として、TICADをもっと有効に活用したい。

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