運動部の指導 指針に魂を入れるには

朝日新聞 2013年05月29日

運動部の指導 指針に魂を入れるには

学校の運動部活動で、指導者による生徒への体罰(暴力)と、本来の指導の違いはどこにあるのか――。

文部科学省の有識者会議がそのガイドラインをまとめた。

昨年12月、大阪市立桜宮高で体罰を受けた生徒が自殺した問題をきっかけに、議論してきた。6月中に全国の中学、高校に配られる。

「体罰は許されない」ことを前提に、具体的な指導の仕方まで例示したガイドラインは初めて。体罰を根絶する試みの一つとして、その意味合いは小さくない。

ガイドラインは、教育上必要な指導例や、厳しい指導として認められる例を示した。

一方で、体罰や暴力に当たるとして許されないケースも例示している。殴る、けるなどのほか、パワハラやセクハラ、人格を否定する発言などだ。

さらに、長時間にわたって無意味な正座をさせる、熱中症が予想される状況で水を飲ませずに長時間、ランニングをさせる。これらも許されない事例に挙げられた。

おおむね妥当な内容だろう。

ただし、実際には「厳しい指導」と体罰や暴力の線引きはそれほど簡単ではない。有識者会議でも、細かく例示することの是非をめぐって議論が揺れた。

その意味で、ガイドラインはあくまで目安に過ぎない。

これを機に、それぞれの学校で、指導者や教師、保護者をまじえ、部活動のあるべき姿や指導方法を議論してはどうか。

ガイドラインは、科学的な指導方法を学ぶ研修など、指導力の向上を促している。

しかし、顧問の教員だけにさらに負担を強いるのは現実的ではないだろう。

朝日新聞社が全国の公立中学300校(有効回答95%)を対象に1月に実施したアンケートでは、84%の中学で外部指導者を招いていた。

部活動の環境は急速に変化している。対象を外部指導者にも広げて研修をするなど、現状に応じた手立てを探りたい。

体罰問題にとどまらず、部活動の位置づけそのものを問い直すことも必要だ。

学習指導要領は、部活動は生徒の自主的、自発的な取り組みの場と位置づけている。

だが、実際には部活動の成績が最優先になり、生徒の自主性が無視されているケースも少なくない。そんな体罰を生む土壌を断つためにも、生徒の声を反映させる工夫が欠かせない。

ガイドラインに魂を入れるのは教育の現場である。

毎日新聞 2013年05月30日

運動部活動 大学で指導者育成を

「バレーボールでの反復レシーブ練習」は通常のスポーツ指導として認められるが、「熱中症多発期に給水なしの長時間ランニング」や「生徒が受け身をできないように投げる」ことは指導者と生徒の間に信頼関係があっても許されない。

学校の運動部活動にはびこる暴力的指導などの根絶に向け、文部科学省の有識者会議は、指導と認められる行為や、暴力やハラスメントなど許されない行為を示したガイドラインをまとめた。すべての中学、高校に配布するほか、すでに文科省のホームページで公開しているので保護者もぜひ目を通してほしい。

大阪市立桜宮高のバスケットボール部員が顧問教諭に殴られた翌日に自殺した問題を受け、高校野球の監督経験者やスポーツ関係者らが今年3月から議論していた。座長で早大スポーツ科学学術院の友添秀則教授(スポーツ教育学)が強調したように、試合の引率などで休日返上も珍しくない部活動顧問を支援するためのガイドラインで、指導に一定の枠をはめるのが狙いではなく、現場が萎縮する必要はない。

ただ、残念ながら、科学的・医学的知見を欠いた指導が一部で行われていることも事実だ。東京の都立高校で昨年度、野球部顧問が試合に負けた罰として部員36人を午前9時から6時間、昼食抜きで約40キロも走らせたケースがあった。幸いにもけが人は報告されていないが、指導に名を借りた顧問のうっぷん晴らしであり、「虐待」にほかならない。

指導者の資質向上のため、教員養成課程を持つ大学に期待したい。

教員になるためには教育職員免許法に定められた規定の科目を履修することが義務付けられているが、部活動を指導する場合、これに該当する免許がない。現在、複数の大学が開設している「コーチング科学」などの講座はトップクラスのアスリート、あるいは特定の競技を対象に「こうすれば速くなる、うまくなる、強くなる」といった競技力の向上を目的とした内容となっている。

今後、大学で部活動の指導者育成を主眼に、年間活動計画の作成など部活動の運営、生徒の意欲喚起や人間関係形成のための指導、安全確保や事故防止などを盛り込んだカリキュラムの開発を進めることが急務だ。

中学生の6割以上、高校生の4割余りが参加する運動部活動はさまざまな課題を抱えながらも、世界に類例のない優れた制度だ。生徒の人格形成に及ぼす影響も大きい。

ガイドラインは桜宮高のバスケット部員をはじめ多くの子どもたちの犠牲の上にまとめられた文書であることを指導者をはじめ学校関係者、保護者は忘れてはならない。

読売新聞 2013年06月01日

運動部活動 暴力に頼る指導は許されない

暴力に頼らず、生徒の能力を伸ばす指導を学校の運動部活動で徹底することが必要だ。

文部科学省の有識者会議が、運動部活動の指導指針をまとめた。大阪市立桜宮高校バスケットボール部の体罰自殺問題以降、特に部活動の体罰事例が相次いで発覚したためだ。

部活動の指導者には、いまだに暴力などの体罰を厳しい指導とはき違える傾向がある。指針を指導者の意識改革の契機としたい。

運動部活動は、学校教育の一環である。中学校で6割、高校で4割の生徒が参加している。仲間と汗を流すことを通じて、努力する大切さを学び、協調性や責任感を身に着ける貴重な時間だ。

しかし、指導法を間違えれば、生徒の心身を傷つける結果となる。暴力について、指針が「生徒との信頼関係があれば許されるという認識は誤りだ」と、明確に否定したのは当然である。

指針はさらに、勝利を目指すこと自体は問題ないとしつつ、勝利至上主義に陥って、行き過ぎた練習を強要しないよう求めた。

具体例として、技術を習得させる反復練習は許されるが、炎天下で水も飲ませずに長時間ランニングをさせることなどは認められないとした。威嚇的で人格を否定するような暴言も禁じた。

東京都教育委員会が先週まとめた体罰調査の報告書を見ると、指針の必要性を実感させられる。

ある都立高野球部の顧問教師は、試合に負けた罰として、生徒に昼食抜きで40キロも走らせた。「敗因を考えさせるためだった」と理由を語ったという。あまりに独りよがりな考え方だ。

限度を超える運動を課せば、熱中症や心肺停止など重篤な事故につながりかねない。

部活動では、教師以外の外部の競技経験者が指導にあたることもある。研修を通じて、外部指導者にも部活動の教育的意義や体罰禁止を徹底させるべきだ。

学校の部活動で活躍した選手の中には、スポーツ界で指導者の道を歩むケースも少なくない。

体罰を受けた経験があると、自らが指導する立場になった際、同じように暴力を振るう。その連鎖が、部活動にとどまらず、スポーツ界全体に暴力的な指導がはびこっている要因だろう。

日本体育協会などのスポーツ団体は4月、遅ればせながら「暴力行為根絶宣言」を行った。スポーツ界と教育界は協力して、指導者の資質向上と適切な指導法の普及に取り組んでもらいたい。

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