学校の運動部活動で、指導者による生徒への体罰(暴力)と、本来の指導の違いはどこにあるのか――。
文部科学省の有識者会議がそのガイドラインをまとめた。
昨年12月、大阪市立桜宮高で体罰を受けた生徒が自殺した問題をきっかけに、議論してきた。6月中に全国の中学、高校に配られる。
「体罰は許されない」ことを前提に、具体的な指導の仕方まで例示したガイドラインは初めて。体罰を根絶する試みの一つとして、その意味合いは小さくない。
ガイドラインは、教育上必要な指導例や、厳しい指導として認められる例を示した。
一方で、体罰や暴力に当たるとして許されないケースも例示している。殴る、けるなどのほか、パワハラやセクハラ、人格を否定する発言などだ。
さらに、長時間にわたって無意味な正座をさせる、熱中症が予想される状況で水を飲ませずに長時間、ランニングをさせる。これらも許されない事例に挙げられた。
おおむね妥当な内容だろう。
ただし、実際には「厳しい指導」と体罰や暴力の線引きはそれほど簡単ではない。有識者会議でも、細かく例示することの是非をめぐって議論が揺れた。
その意味で、ガイドラインはあくまで目安に過ぎない。
これを機に、それぞれの学校で、指導者や教師、保護者をまじえ、部活動のあるべき姿や指導方法を議論してはどうか。
ガイドラインは、科学的な指導方法を学ぶ研修など、指導力の向上を促している。
しかし、顧問の教員だけにさらに負担を強いるのは現実的ではないだろう。
朝日新聞社が全国の公立中学300校(有効回答95%)を対象に1月に実施したアンケートでは、84%の中学で外部指導者を招いていた。
部活動の環境は急速に変化している。対象を外部指導者にも広げて研修をするなど、現状に応じた手立てを探りたい。
体罰問題にとどまらず、部活動の位置づけそのものを問い直すことも必要だ。
学習指導要領は、部活動は生徒の自主的、自発的な取り組みの場と位置づけている。
だが、実際には部活動の成績が最優先になり、生徒の自主性が無視されているケースも少なくない。そんな体罰を生む土壌を断つためにも、生徒の声を反映させる工夫が欠かせない。
ガイドラインに魂を入れるのは教育の現場である。
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