日印経済 光も影も見据えて前へ

朝日新聞 2013年05月27日

日印経済 光も影も見据えて前へ

高成長を続けてきたインド経済が、このところ減速を深めている。インフレや財政不安など過去の経済運営のゆがみと矛盾が噴き出したのだ。

一方、日本企業のインド進出は1千社ほどにおよび、加速中だ。経済連携協定もでき、大企業の現地生産に連動する中小企業も目立つ。

これまで進出を促してきたのは成長期待というインドの光の面だが、今後は経済や社会制度の遅れに伴う影の面も見据え、インドの人々の暮らしにどう貢献し、自らも成長できるかを考えたビジネス戦略が、一段と大事になってくる。

これは日本企業の欠点を補う挑戦ともいえる。現地のニーズに応えるビジネスの基本能力をこの広大な亜大陸でどこまで鍛え直せるか。その成否は、日本が新興・途上国ビジネスでどこまで存在感を示せるかも占う。

インドは地理的・人的つながりから中東・アフリカ市場への入り口としても重要だからだ。

インドの消費者は日常の必要に応える商品性を重視するが、日本企業はインド向けの製品を作る面倒を嫌ってきた。逆に、韓国企業はここで努力し、盗難防止の鍵つき冷蔵庫といったアイデア商品で先行している。

過去の惰性を改めるには、経営トップが変化を示すのが効果的だ。日立製作所は初の海外での取締役会をニューデリーで開いた。有力市場としてインド重視をはっきりさせるためだ。

日本との距離を縮める新たな試みも生まれている。

野球アニメ「巨人の星」をインドの国民的スポーツ、クリケットに置きかえてリメークし、テレビ放映した仕掛け人は原作を出版した講談社だ。日本メーカーの自動車や日本の航空会社が登場し、ブランド戦略としても作りこまれている。

人材の育成や活用でも日本企業には地力がある。トヨタ自動車は日本以外で初めてインドに工員の養成学校を設けた。ヤクルトは日本でおなじみの女性販売員システムを展開している。

インドのシン首相が来日し、安倍首相と会談する。日印の経済協力は鉄道など基盤整備の案件に注目が集まる。だが、実際に事業化されても、日本企業が請け負えないことが多い。世界に普及している民営化ビジネスの手法で、日本企業が遅れているからだ。

一因として、公共施設の整備や運営を民営化する取りくみが国内で広がらず、企業が経験を積めないことがあるという。国内の改革の遅れが、国際競争力を弱めている一例といえる。

毎日新聞 2013年05月30日

日印関係 海洋安全保障も経済も

インドのシン首相が来日し、安倍晋三首相との間で、経済、政治・安全保障協力の強化や、日本からの原発輸出の前提となる日印原子力協定の締結交渉促進などで合意した。

核拡散防止条約(NPT)に加盟せずに核兵器を保有しているインドと原子力協定を結ぶことには懸念が残る。ただ全体的に見れば、インドは経済と政治・安全保障の両面で国際社会での重要性を増しており、日印関係の現状は、その潜在的可能性に比べると、まだまだ不十分と言わざるを得ない。インドとの関係強化を加速させるべきだ。

インドの人口は2025年に約14億6000万人となり、中国を抜いて世界第1位になる見通しだ。経済は減速傾向が著しいが、それでも成長率5%を維持している。10年先を考えれば、魅力的な巨大市場であることに変わりはない。

ところが日印貿易の額は、日中の20分の1にも満たない。日本企業のインド向け直接投資も伸びていない。シン首相は訪日で、エネルギーや交通インフラへの投資を促した。

インドへの投資が進まないのは、電力不足、通関などの手続きの煩雑さ、州ごとに制度が異なることなど、環境がなかなか整わないからだ。日本政府は、主要な州政府との協力強化なども含め、投資環境の整備を積極的に支援してほしい。

インドの存在感は安全保障分野でも顕著だ。インドは中東・アフリカからのシーレーン(海上交通路)が通過するインド洋に面し、もともと地政学的に重要な位置にある。

そのインド洋で、中国海軍は、ソマリア沖から西インド洋に拡大する海賊被害への対策として、護衛艦などを派遣する国際社会の行動に参加している。また中国は、パキスタン、スリランカ、バングラデシュなどインド洋沿岸諸国の港湾開発に投資して戦略拠点としている。これらがインドを包囲しているように見えることから「真珠の首飾り」と呼ばれ、インドは神経をとがらせている。

中国のインド洋進出をけん制する意味からも、日印両国が海洋の安全保障で連携することは重要だ。

海上自衛隊とインド海軍は昨年6月、横須賀沖で初めての海上合同訓練を行った。日印の外務・防衛当局の次官級対話や、日米印3カ国の局長級の政治対話なども活発化している。こうした動きを今後、いっそう強化していってほしい。

日印両国は昨年、国交樹立60周年を迎えた。天皇、皇后両陛下も年内にインドを訪問される方向だ。経済、政治・安全保障はもちろんだが、人や文化・学術交流の促進などを通じ、日印の絆をさらに重層的なものにしていく努力も必要だ。

読売新聞 2013年05月30日

日印首脳会談 関係発展の柱となる原発協力

日印両国が一層関係を深めていくための重要な柱となろう。

安倍首相が、来日中のインドのシン首相と会談し、日印原子力協定の締結交渉再開で合意した。

年内妥結を目指す方針で、締結すれば、日本から原子力関連技術が輸出できるようになる。

交渉は、民主党政権時代の2010年6月に始まったが、東京電力福島第一原子力発電所事故の後、事実上中断していた。

人口12億人のインドは、経済の急成長に伴って電力不足が深刻化し、原発の増設を計画している。主力の電力供給源である石炭火力発電所に、温室効果ガスを排出しない原発が加われば、地球温暖化対策にも役立とう。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、成長戦略としてインフラ輸出を重視する。原発や関連機器の輸出が増えれば、日本にとってもメリットは大きい。

安倍首相は、シン首相に対し、核不拡散の努力を評価するとともに、核拡散防止条約(NPT)体制を推進する立場から、インドの核実験全面禁止条約(CTBT)の早期批准を促した。

NPTに加盟していない核保有国インドとの協定に日本国内で慎重論が強かったことを念頭に置いた発言だろう。

インドは核実験を凍結し、民生用施設は、国際原子力機関(IAEA)の査察も受け入れている。交渉再開にあたって日本は、こうした姿勢の堅持を確認したい。

両首脳がインド西部のムンバイ―アーメダバード間約500キロ・メートルの高速鉄道計画について、共同調査の着手で合意したことも前進である。日本が官民を挙げて目指してきた新幹線システムの受注につながると期待される。

日本は、ムンバイの地下鉄建設などに対する円借款の供与も決めた。インドの経済発展につながる大型インフラ整備で連携強化を確認した意義は大きい。

日本企業のインド進出は増加し続けている。貿易額は日中間などに比べればまだ少ないが、一層拡大する潜在力がある。

安全保障面では、海上自衛隊の救難飛行艇の輸出について、両国が検討を始めることで一致した。実現すれば、防衛装備品の民間転用による輸出となり、日印安保協力の具体的な成果となる。

昨年6月に初実施した海自とインド海軍の共同訓練も定期化される。中国を牽制(けんせい)する効果もあるだろう。アジアとインド洋の安定に結びつけなければならない。

産経新聞 2013年05月31日

日印首脳会談 経済と安保で連携強めよ

安倍晋三首相が来日したインドのシン首相と会談し、経済、安全保障両面で両国関係を強化していくことで一致した。

インドとの連携は、米国などとともに、自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値観を共有する国々との連帯を強め、結束を図っていく意味がある。

共同声明では「国際法の諸原則に基づく航行の自由への関与」に言及し、東シナ海や南シナ海で権益拡大の野心をあらわにする中国を牽制(けんせい)している。これを両国でどう具体化していくかだ。防衛面などの協力を進めてほしい。

両首脳は、日本の原発輸出の前提となる原子力協定の「早期妥結」で一致したが、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドとの協定締結には一部に慎重論もある。交渉にあたってはインド側に、軍事転用を許さない措置を講じるよう求めていく必要があるだろう。

首脳会談では、インド政府が進めるムンバイ-アーメダバード間の高速鉄道計画について、共同調査を行うことでも合意した。「トップセールス」の成果の一つとして歓迎したい。

人口12億のインドは、経済の急成長で電力や鉄道などインフラ需要が大きい。中国と並ぶ2大新興経済国であるインドの巨大市場は、日本にとっても魅力的だ。成長戦略を進めていく上でも、なくてはならぬパートナーだ。

安全保障分野では、海上自衛隊の救難飛行艇US-2の輸出に向けた合同作業部会の設置や、海自とインド海軍の共同訓練の活発化で合意した。

日本とインドの安保協力では、両国の外務、防衛当局による次官級の「2プラス2」や米国を含む3カ国の外務当局による局長級対話などがある。

中国は、パキスタンやスリランカ、ミャンマーなどで港湾開発に協力することで、インド洋での拠点づくりを着々と進めている。

力を背景にした中国の海洋進出は、日印両国にとって共通の懸念であり、いかに押しとどめていくかが問われている。

シン首相の訪日に先立って中国は、李克強首相が就任後初の外遊先としてインドを訪問し、中印の「相互信頼」を強調した。こうした関係が本物かどうか、日本は中国の動きを見極めながら、戦略的外交を展開すべきだ。

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