南海トラフ地震 減災対策を加速させよ

朝日新聞 2013年05月29日

南海トラフ地震 「予知困難」を出発点に

南海トラフの巨大地震が、いつ、どの地域を中心に、どんな規模で起きるか。それを直前に予知することは難しい。

国の有識者会議がまとめた最終報告書はそう認めた。

政府の地震対策は、見直しを迫られる。東海地震への対策の法制度は、予知は可能であり事前避難ができるという前提で組み立てられている。

東海から九州にかけての広い地域が、不意打ちで大地震にみまわれる。そうなっても被害を最小限に食いとめ、人とモノの支援が被災地に行きわたるようにするには――。

そんな視点で対策をたてなおさねばならない。

多くの人命にかかわる原発や新幹線、高速道路、地下街などの安全対策は急務だ。

一方で、いつ来るかわからないからこそ、各地域で今からできることを地道に積み重ねることが大切になる。

自治体はまちづくり計画の見直しを始めるべきだろう。

たとえば、大津波からの避難が難しい地域では、建築に一定の制限をかける。お年寄りや幼い子ども、障害のある人の施設は高台に移すか、高い建物に建てかえる。報告書はそんな策を列挙している。

避難者は最大で全国1千万人近くにおよび、避難所の不足がみこまれる。被災地にとどまらなくてもよい人には、帰省や疎開をすすめる。そういう提案もしている。

まちづくりの見直しも、避難所不足の解消も、地域で話し合わなくては進まない。裏を返せば、地域の防災力を高めるかぎは共助だといえる。

アパートのあの部屋に、独り暮らしのお年寄りがいる。あちらの家族は地元を離れられない仕事だ。うちは県外に親類がいる。そうした個人情報を、地域でどのように、どこまで共有できるかが課題になるだろう。

もう一つ、報告書が強調しているのは防災教育だ。予知できない震災に備えるには、将来の世代に防災の知恵を受け継ぐことが大切だからだ。

災害の科学的な知識を学ぶ。自分が住んでいる街の危ない場所を知る。避難訓練をする。

いまはそうした内容がいろいろな教科に散らばっている。しかし、学んだことが行動に結びつくには、もっと体系的に教える必要がある。文部科学省はそのためのカリキュラムの検討を進めている。

いざというとき自ら行動し、身を守れる実践的な力を養う。世界有数の地震国にはそういう教育が欠かせない。

毎日新聞 2013年05月29日

南海トラフ地震 減災対策を加速させよ

マグニチュード(M)9級の巨大地震の規模や発生時期を確度高く予測することは困難だと結論づけた。

南海トラフ巨大地震の中央防災会議作業部会の最終報告だ。

一方で、南海トラフのどこかでM8~9級の地震が30年以内に発生する確率について、政府の地震調査委員会が「60~70%」との予測を先日、公表した。切迫性は相当高い。

作業部会の予測では、最大クラスの地震が発生すれば九州から首都圏に至る広域を30メートル級の津波が襲う。死者は最大32万人となり、経済的損失は220兆円に及ぶ。途方もないスケールの被害だ。

効果的な減災対策をどう実施し、大切な国民の命を守るのか。まさに国家の存亡をかけた取り組みと位置づけられる。政府は早急に大綱作りに着手し、具体的な減災目標と政策達成のスケジュールを明確に示すべきだ。法整備も急ぎ、メリハリをつけた予算措置をとってもらいたい。

作業部会は今回、「事前防災」という表現で、ハード、ソフト両面での対策を促した。津波への備えや建築物の耐震化、火災や液状化対策、ライフラインやインフラの確保など多岐にわたる。

東日本大震災では震源から遠く離れた首都圏や近畿圏の高層ビルが長周期地震動によって大きく揺れた。こうした新たなタイプの地震被害への対応も必要だ。

ただし、ハードの整備といっても財源には限りがある。総花的に金を使うのではなく、大勢の命にかかわる対策を優先するのは当然である。大きな津波が発生した時に迅速に避難できる態勢の整備と、建築物の耐震化は喫緊の課題だ。

最大32万人の死者想定の7割は津波によるものだ。だが、試算によると適切な避難などによりこの数字は6万人余りに減らせる。高台への避難路確保や避難用タワーの整備は待ったなしだ。

同様に、現在79%の住宅耐震化率を100%に引き上げれば、経済的被害は半減する。耐震化は圧死による人的被害も防げる。学校など公共施設を優先して対応を急ぐべきだ。

超広域の被害に備え、都道府県や市町村単位で防災協定を結ぶなど広域支援の枠組み作りも検討すべきだ。

それでも必要な物資が長期間届かない事態が想定される。国の防災基本計画で「3日分」が目安だった水や食料の家庭備蓄を「1週間分以上」にするよう作業部会は促した。また、被災程度の大きい被災者から優先的に避難所に受け入れる制度の導入も提言した。

共助、自助の大切さが一層、クローズアップされた。防災教育を通じた啓発にも力を入れてほしい。

読売新聞 2013年05月29日

南海トラフ地震 被害を減じる法整備が急務だ

死者が最大32万人と予想される「南海トラフ巨大地震」の被害をいかに抑えるか。対策を急がねばならない。

政府の中央防災会議の作業部会が、この巨大地震の「減災」対策を列挙した最終報告書をまとめた。

想定震源域の南海トラフは、静岡県沖から四国、九州沖に及ぶ。東日本大震災を上回る地震が起きれば、太平洋沿岸を10メートル以上の津波が襲う。内陸部でも震度6~7の揺れに見舞われる。

報告書は、個人や地域が自らを守り、助け合う「自助」「共助」の重要性を強調した。国の救援・救助、自治体間の応援などの仕組みが機能しにくくなるためだ。

甚大な被害想定を考えれば、適切な指摘である。

大きな揺れを感じたら、津波の襲来前に逃げる。住宅の耐震化を進め、住宅密集地では防火対策を強化する。地域として、食料備蓄などの対応も大切だ。

対策が進まないと、住宅など240万棟近くが全壊し、負傷者は62万人を超える。1週間後の避難者は950万人と試算されている。避難所の不足は明らかだ。

報告書は、負傷の程度に応じ治療の優先順位を決める「トリアージ」の手法を、避難者の収容にも応用するよう提言している。自宅の損壊が軽微であれば、「在宅避難」をしてもらうという考え方だ。現実的な方策と言える。

「公助」の大切さも無論、変わらない。国が、防災拠点や防潮堤の整備など、従来の地震・津波対策を、今後も着実に推進していくことは欠かせない。

それに加え、自治体の取り組みをどう促すかが、重要な課題である。報告書が、国と自治体が連携して対策を進めるための法整備を求めたのは、もっともだ。

例えば津波避難所の確保は、自治体だけでは進まない。国と自治体が、総合的な計画を策定し、財源を確保してこそ可能になる。

自民、公明両党が国会に提出している国土強靱(きょうじん)化基本法案は、これを後押しするものだ。与野党はしっかり議論してもらいたい。

これまで対策の柱となってきたのは、大規模地震対策特別措置法だ。地震予知を前提に東海地震の関係地域に財源支援してきた。

だが、報告書は「確度の高い予測は難しい」と、特措法の考え方に疑義を呈した。東海地震を含めた南海トラフ巨大地震の防災対策の見直しを求めたものだ。

政府は、予知を前提としない地震対策を進める必要がある。

産経新聞 2013年05月30日

南海トラフ地震 予知への幻想を断ち切れ

中央防災会議の作業部会がまとめた「南海トラフ巨大地震対策」の最終報告に、「確度の高い地震予測は難しい」とする見解が盛り込まれた。東海地震の直前予知見直しを迫る内容だ。

最終報告は、南海トラフ沿いで起きうる最大級の地震=マグニチュード(M)9・1=を想定し、対策の基本的方向と具体策を示したものだ。南海トラフ全域を見据えた対策を推進するため、法的枠組みの確立も求めている。

新たな災害法制を築くためにはまず、大規模地震対策特別措置法(大震法)を撤廃し、予知にけじめをつけなければならない。

日本の地震対策は、東海地震を「直前予知の可能性がある唯一の地震」とする大震法を中核に構築された。平成15年に策定された対策大綱は、予知を目指す東海地震と予知体制がとられていない東南海・南海地震が分かれている。

このため、現行法では過去に単独で発生した記録がない東海地震の対策はあるが、繰り返し日本列島を襲ってきた東海・東南海の連動型や東海・東南海・南海の3連動型地震に備える防災対策がない。大震法の存在自体が、日本の地震防災の欠陥といえる。

古屋圭司防災担当相は、予知体制の見直しについて「前兆現象が観測された場合の情報発信や防災対応を議論する場を設けたい」と述べ、「観測点を増やし、科学的知見を集約すれば、予測の確度は上げられる」と観測網の充実に期待を示した。

議論の場は当然必要だが、予測への幻想になってはいないか。

阪神大震災後、地震観測網は大幅に拡充されて、多くの科学的知見が得られたが、予知に関しては「極めて困難」との認識が強まった。「想定外」だった東日本大震災で海溝型地震のモデルが揺らぎ、予測研究の方向性は定まってはいない。

「30年以内の発生確率が60~70%」とされる南海トラフ地震の切迫度と地震学の現状を考えると、防災に結びつく実用的な確度で予測の実現を期待するのは、いささか楽観的に過ぎる。

過度の期待を含め「予知幻想」の根は深い。予知から予測に言葉をすり替えても、幻想を断ち切ることはできない。

今後の予測研究が正しく理解されるためにも、地震学者が予知にけじめをつけるべきである。

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