慰安婦問題 不当な日本非難に反論を

朝日新聞 2013年06月01日

慰安婦発言 橋下氏の責任なお重い

大阪市議会の騒ぎは、いったい何だったのか。

日本維新の会の共同代表である橋下徹市長の慰安婦をめぐる一連の発言について、問責決議案が否決された。

一時は維新以外の会派が一致する見通しだったが、公明党が一転して問責反対に回った。

維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事は、決議が可決されれば、出直し市長選挙に打って出る構えを見せた。参院選とのダブル選は避けたいという議会側の足元が見透かされた。

橋下氏と議会の駆けひきで、問題の本質から外れた陳腐な政治劇に終わってしまった。

今回の混乱のきっかけになったのは、大阪市政とは関係のない、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる一連の発言である。

橋下氏は、米軍の司令官に対し風俗業の利用を促したことは撤回し、米国民に謝罪した。一方で慰安婦についての発言は撤回していない。

「世界各国の軍が女性を必要としていたと言ったのに、私が容認したと誤報された」とし、自分の価値観とは正反対の人物像が流布してしまった、と矛先をメディアに向けている。

女性の尊厳をないがしろにするかのような発言をしたうえ、その波紋について責任転嫁しようとする姿勢が、いまも重く問われている。

橋下氏への批判は海外で、さらに広がっている。国連の人権機関のひとつである拷問禁止委員会は、橋下氏の発言などを問題視し、懸念を表明した。

慰安婦の歴史について「日本の国会議員を含む政治家や地方政府高官による事実の否定が続いている」とし、こうした言動が再び被害者の苦痛をもたらしていると警告した。

慰安婦問題については、日本は93年の「河野談話」や、アジア女性基金を創設した95年以降の歴代首相の謝罪文など、一定の実績を積み重ねてきた。

しかし、橋下氏の発言のような言動がその成果を薄め、国際社会から日本全体の人権感覚に疑いの目を向けられるような残念な傾向が生まれている。

大阪市議会の動きが不発に終わったからといって、橋下氏の責任が問われる事態は変わっていない。

市議会の閉会後、橋下氏は「重く受け止めねばならない」と語ったが、ならば、それを行動でしめすべきだ。

発言の撤回を含め、国民も国際社会も納得できるようなけじめを、自らきちんとつける。それがなければ、この問題はずっと尾を引きつづけるだろう。

毎日新聞 2013年05月28日

橋下氏の説明 本質そらす責任転嫁だ

これで本当に沈静化するのだろうか。旧日本軍のいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる発言について日本維新の会の橋下徹共同代表が「容認は誤報」とする見解を文書で公表、日本外国特派員協会で記者会見した。

不適切な前言をメディアへの責任転嫁で取り繕い、全面撤回しない対応ははなはだ疑問である。発言が日本のイメージを損ねる悪影響も含め、ことの重大さと本質の理解をなお欠いていると言わざるを得ない。

「戦場と性の問題はタブー視され、表立った議論は一切なかった」。海外メディアにこう語り、他国の例を挙げる橋下氏の言動は日本の責任回避と受け取られかねない危ういものだった。

橋下氏は13日「精神的に高ぶっている集団に休息を与えようとすると慰安婦が必要なのは誰だって分かる」と発言、問題化した。沖縄の在日米軍に風俗業の活用を促した発言とあいまって女性の人権を侵害した言動が批判を浴びたのである。

だが、橋下氏は新見解で「(慰安婦を)私が容認していると誤報された」と主張、一方で旧日本軍による慰安婦についても「女性の尊厳と人権を蹂躙(じゅうりん)し、決して許されない」と認めた。

戦時のレイプ対策を理由に「慰安婦みたいな制度が必要だったのも厳然たる事実だ」とも述べていた13日の発言と今回の見解の落差は明らかである。事実上修正しながら「誤報」と主張し、「風俗業発言」以外撤回しないのでは反省とは言えまい。

また、橋下氏は会見で「軍が作ったか、民間かは関係ない」と指摘、複数の国の名を挙げ「戦争と性の問題」を提起した。いくら「慰安婦を正当化する意図はない」と強調しても「責任論を分散しようとしているのではないか」との疑念を広げるおそれがある。

慰安婦問題をめぐる1993年の河野洋平官房長官談話を「おおむね事実」と認めつつ「明確化すべきだ」と主張したが、慰安婦問題の決着に向け積み上げられた談話をないがしろにすべきではない。橋下氏が見解で国際社会での評価を認めた「女性のためのアジア平和国民基金」は河野談話を踏まえた措置である。

米国議会は安倍内閣や日本の政治家の歴史認識に警戒を強めている。対中、北朝鮮をめぐる情勢が不安定な中で「価値観の共有」という日米同盟の基盤を揺るがしてはならない。国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会も橋下氏の発言を重視している。収拾を急がねばならない。

野党第2党の党首の言動が「戦争と性の問題に鈍感な国」というイメージを拡大しかねない。橋下氏はその深刻さを一層、自覚すべきだ。

産経新聞 2013年05月28日

慰安婦問題 不当な日本非難に反論を

日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は日本外国特派員協会で会見し、慰安婦問題に絡んで在日米軍幹部に「風俗業を活用してほしい」などと述べた発言を撤回、謝罪した。当然である。

橋下氏が13日に大阪市役所で述べた発言は明らかに女性の尊厳を損ない、米軍や米国民をも侮辱した不適切な表現だった。これに対し、特派員協会での橋下氏は、出席者に配った「私の認識と見解」と題する見解文書も含め、慎重な言い回しに終始した。

橋下氏は「国家の意思として組織的に女性を拉致したことを裏付ける証拠はない」とも述べ、慰安婦問題に関する平成5年の河野洋平官房長官談話について「否定しないが、肝心な論点が曖昧だ」と指摘した。

河野談話は、根拠なしに慰安婦の強制連行を認めたものだ。橋下氏は以前、「河野談話は証拠に基づかない内容で、日韓関係をこじらせる最大の元凶だ」と主張していた。これこそまさしく正論だ。後退させる必要はない。

橋下氏の発言で、再び国際社会で誤解が広がりつつあるのが心配だ。国連の拷問禁止委員会は「慰安婦の強制連行があったのは歴史的に明白だ」とし、教育の徹底が必要だと指摘した。

だが、第1次安倍晋三内閣は平成19年、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定している。同委員会の指摘は明らかに間違いである。

また、中国の李克強首相はドイツでの演説で、日本が受諾したポツダム宣言(1945年)を持ち出し、尖閣諸島を念頭に「日本が盗み取った」と主張した。中国が尖閣の領有権を言い出したのは1968年、国連のアジア極東経済委員会(ECAFE)が「付近の海底は石油資源埋蔵の可能性が高い」と発表してからだ。ポツダム宣言とは何の関係もない。

菅義偉官房長官が「あまりにも歴史を無視した発言だ」と批判したのは当たり前である。

最近、米ニューヨーク州やニュージャージー州議会などで、慰安婦の「強制連行」を既成事実として決めつけた対日非難決議が相次いでいる。韓国系米国人らの反日活動の影響とみられる。

安倍政権はいわれなき日本非難には、きちんと反論すべきだ。

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