放射能漏れ事故 安全管理の徹底図れ

朝日新聞 2013年05月27日

原子力機構 安全管理は改まるのか

いったい、安全管理を改める気はあるのだろうか。

高速増殖原型炉もんじゅの大量の安全点検漏れが発覚し、トップが引責辞任したばかりの日本原子力研究開発機構で、今度は放射能漏れ事故が起きた。

陽子加速器施設「J―PARC」で放射性物質が漏れ出し、被曝(ひばく)した研究者は調査で30人に増えた。放射性物質の一部は施設外にも放出された。にもかかわらず、国や地元の茨城県、東海村への連絡が、発生から1日半も遅れるありさまだった。

ドミノのように次々と倒れる安全管理。福島第一原発事故の教訓がいかされていないこの事態に、あきれるばかりだ。

このままでは原子力機構の存続さえ危うくなろう。期日を区切り、外部の識者も入れて安全体制を総点検し、改善策を早急に打ち出すべきだ。

もんじゅでの点検漏れは、大量の放射性物質を日常的に扱う事業者などで、慣れが問題をおこす「たるみ型」だった。

今回の事故とお粗末な対応は、放射性物質が関心の中心にないため緊急対応を誤ってしまう「ずさん型」だ。大学などの研究機関や医療機関がおちいりやすい。

原子力機構が高エネルギー加速器研究機構と共同運営するJ―PARCでは常時、大量の放射性物質があるわけではない。陽子線を使う実験中にだけ放射線や微量の放射性物質が生じるはずだった。

誤作動で陽子線が想定の400倍もの強度になり、放射性物質が多くできたが、放射性物質を何とか閉じこめようとする意識自体がそもそも希薄だった。

施設内の放射線量が上がった際に、安易に排気ファンを回したことが象徴的だ。「中の線量を下げなければ」という意識が先行し、「施設外に放射性物質が出るが大丈夫か」というリスク感覚はにぶかった。

線量上昇後も実験を続けたことと合わせ、研究者のおざなりな安全意識は理解に苦しむ。

原子力機構には旧動力炉・核燃料開発事業団由来の事業者的体質と、旧日本原子力研究所由来の研究所的体質が併存する。もんじゅやJ―PARCといった部門・施設の独立性も強い。

もんじゅ不祥事によって安全面で批判されていることを、J―PARCの関係者がもっと自らの問題ととらえていれば、対応は違ったはずだ。

原子力機構を所管する文部科学省には、同機構はもちろん、他の大学や研究機関の安全意識も向上させて同様の事故を繰り返させない責任がある。

毎日新聞 2013年05月27日

放射能漏れ事故 安全管理の徹底図れ

高速増殖原型炉「もんじゅ」の点検漏れに続き、日本原子力研究開発機構の施設で、またずさんな安全管理の実態が浮き彫りになった。原子力に携わる組織として「失格」の烙印(らくいん)を押されても仕方ない。組織を抜本改革し、安全意識の再構築を図る必要がある。原子力機構を所管する文部科学省の監督責任も重い。

原子力機構と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同運営する加速器実験施設「J−PARC」(茨城県東海村)で、陽子線を金に照射する実験中に装置が誤作動した。金が高温になって蒸発し、放射性物質が漏れ出た。健康への影響はないというものの、施設にいた研究者らが相次いで被ばくし、放射性物質の一部は施設外にまで出てしまった。

国や地元自治体に速やかに通報すべきだったが、J−PARCは当初、「管理区域内での想定範囲内の汚染」と過小評価し、原子力規制庁などへの報告は1日半後の24日夜になった。担当者は「今回のような事故が起きることは想定していなかった」と弁明するが、東京電力福島第1原発事故の教訓は、想定外への備えの重要性だったはずだ。原子力機構もKEKも日本の中核研究機関として、お粗末過ぎる。

事故発生後もJ−PARCは、実験を継続しようと、陽子線照射装置の再起動を繰り返し、施設内の放射線量を下げるために排気ファンを回した。ファンにはフィルターもなく、放射性物質の外部拡散を招いた。これらの対応は、その場しのぎとしか言いようがなく、安全性を優先する姿勢がみじんも感じられない。

原子力機構は2005年、基礎研究を担う日本原子力研究所(原研)と、技術の実用化に取り組む核燃料サイクル開発機構(核燃機構)が統合して設立された独立行政法人だ。

これまでは、もんじゅのナトリウム漏れ事故とビデオ隠し、東海再処理工場の事故と虚偽報告など旧核燃機構の事業で不祥事が多かった。今回は基礎研究部門の事故だが、旧原研出身者の間に自分たちは核燃機構とは違うという意識はなかったか。

原子力規制委員会から「安全文化の劣化」が指摘された、もんじゅの点検漏れでは、鈴木篤之理事長が辞任し、原子力機構はトップ不在の状態となっている。出身母体にかかわらず、職員一人一人が自らの問題として再発防止に努めるべきだ。

今回の事故は原子力関連ではあるが、原発とは関係しない、基礎研究分野で起きた。加速器や放射性物質を扱う研究施設は、J−PARC以外にも多数ある。さまざまな事故の危険に対する備えはできているのか。監督官庁も含め、改めて、確認をしてもらいたい。

読売新聞 2013年05月28日

放射能漏れ事故 安全意識を欠く研究者の対応

研究者の安全意識の薄さが気になる。

茨城県東海村にある素粒子研究の拠点施設「J―PARC」で、実験中に放射性物質が施設内外に漏れ、研究者約30人が被曝(ひばく)する事故が起きた。

漏れた放射性物質の量はわずかで、被曝量も、健康への影響は考えられない低水準だ。

だが、経緯をみると、実験の進め方や安全管理がずさんだ、と言わざるを得ない。施設を共同運営する日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構は、原因を徹底的に究明し、安全対策を抜本的に見直すべきだ。

実験は、高エネ機構の研究チームが実施していた。粒子加速器で光速近くまで加速した陽子のビームを金にぶつけ、様々な素粒子を作り出すのが目的だった。

その際、装置が誤動作して出力が予定の400倍も高くなり、想定外の放射性物質が発生して、実験装置から漏れ出た。

最大の問題は、実験中に異常を知らせる警報が鳴り、装置が停止したにもかかわらず、研究チームが「誤警報」と判断して、加速器の運転を再開したことだ。

これまでにも誤警報は珍しくなかった。今回も装置の動作を確認して再開したというが、結果として、点検が十分でなかった。

間もなく、施設内の放射線量が通常の10倍に上昇した。再度、運転を止めて、今度は施設の排気ファンを回して換気し、再び運転を始めた。これにより、施設外に放射性物質が広がってしまった。

警報を再三、軽視したことにより、トラブルが深刻化した。

しかも、放射性物質の放出を県や国に報告したのは、丸1日以上たってからだった。遅すぎる対応が不信を招いたと言えよう。

原子力発電所と違い、実験施設に大量の放射性物質はないため、法律上、原子炉等規制法は適用されない。病院などと同様、放射線障害防止法に基づく強制力の弱い被曝対策しか求められない。

現場の危機管理が甘くなった要因の一つではないか。

実験を止めたくないとの焦りもうかがえる。素粒子実験は同じ操作を繰り返し、そのデータを分析する。停止が長引くと結果が得られないという事情がある。

しかし、警報が頻発する中での実験データは科学的に十分信頼できるのか、疑問も生じる。

日本の素粒子研究はノーベル賞を6人が受賞するなど、産官学が積極的に推進してきた分野だ。信頼回復を急がねばならない。

産経新聞 2013年05月28日

原子力機構 安全管理意識が低すぎる

またか、である。

茨城県東海村にある加速器実験施設「J-PARC」で放射性物質の漏洩(ろうえい)事故があり、少なくとも30人が被曝(ひばく)していたことが確認された。

J-PARCは、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同運営する。

原子力機構は、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の点検漏れで安全管理意識が欠如した組織の体質が厳しく問われ、理事長が辞任したばかりだ。放射性物質を扱っていながら、その自覚が欠如していると言うしかない。

今回の事故は、光速近くまで加速した陽子を金に照射し、発生する素粒子を調べる実験で起きた。陽子を制御する機器の誤作動で通常の400倍の陽子ビームが生じ、想定を超える放射性物質が放出されたらしい。

被曝線量は1・7~0・1ミリシーベルトで、CTスキャンを受けた場合の放射線量(約7ミリシーベルト)よりも低いレベルではある。問題は事故の軽重ではなく、安全に対する意識の低さと反応の鈍さだ。

現場の研究者は実験装置が一時停止した後も、安全性に問題はないと考えて実験を継続した。さらに、施設内の放射線量を抑えようと換気扇を回して放射性物質を外部に放出した。原子力規制庁への事故の報告と公表は、発生から約1日半後である。

加速器実験で生成される放射性物質は半減期が短く、長期間にわたる被曝の危険性は低い。原子力発電所などとは規制の基準が異なる。だからといって、今回の対応が許される理由にはならない。

原子力機構には、もんじゅを運営する旧動力炉・核燃料開発事業団系と実験・研究に軸足を置く旧日本原子力研究所系の組織風土が共存している。

旧動燃からの隠蔽(いんぺい)体質が指摘された点検漏れと、今回の事故は同根といえないにしても、危機感を共有できなかった組織の甘さが「安全文化の劣化」につながっているのではないか。

医療用を含め、加速器や放射性物質を扱う施設は数多くある。J-PARCや原子力機構への不信が、他の研究施設や医療分野にまで広がることは、避けなければならない。平常時の安全性に問題はないにせよ、事故やトラブルに適切に対応できるかどうか、絶えず確認しておく必要がある。

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