安倍政権が日本郵政の社長以下、経営陣を刷新する。前政権の「色」がついた布陣を一掃する狙いがある。
小泉政権が鳴り物入りで決めた郵政民営化だが、その後、見直し問題が政治の思惑に左右され、トップ人事にも波及した。
今回も、国民には「政治に翻弄(ほんろう)される郵政」「民営化の混迷」としか映らないだろう。
政治介入に終止符を打ち、何のための民営化か、理念と戦略を再定義すべきだ。
人事のきっかけは昨年暮れ、自民党が政権に復帰する直前、旧大蔵省OBで、小沢一郎元民主党代表に近い斎藤次郎前社長が退任し、同じ役所の後輩でもある坂篤郎副社長を昇格させたことだった。
菅官房長官ら政府・自民党は強い不快感を抱いた。100%株主である政府の権限をふるって経営陣をすげ替え、社外を含む18人の取締役のうち17人を退任させる。
後任の社長には郵政民営化委員会の委員長を務めている西室泰三・元東芝社長が就く。新たな社外取締役には御手洗冨士夫・前経団連会長らを招く。
斎藤氏から坂氏へという旧大蔵官僚による社長ポストのたらい回しは、大いに問題だった。
一方で、77歳の西室氏以下、新経営陣を見ても経営変革への期待を高めるインパクトには乏しい。事業の収縮が止まらない郵便事業は総務省OBによる経営が続く。
郵政グループは15年秋に持ち株会社の株式上場を目指しており、政府も震災復興の財源として当てにしている。
今年3月期の決算では民営化後の最高益を出し、課題の郵便事業も4年ぶりに黒字だった。ただ、民間に比べて高い人件費を削減した効果も大きい。今後リストラで業績を保つ余地はあろうが、市場が期待するのは本業での収益向上だ。
かんぽ生命やゆうちょ銀行は業務やリスクの管理体制の甘さが指摘され、金融庁が新規業務の認可を出していない。
市場として有望視される医療分野への保険参入も、米国の反発を受けて自粛する方針だ。
しかも、郵政は巨額の国債を保有する。日銀は、郵政が上場を目指す15年までに年2%のインフレを実現する構えだ。連動して金利が上昇(国債価格が低下)していくことによる影響を、どう和らげて上場へこぎ着けるか。
こうした疑問にこたえられるよう、新経営陣は郵政の将来像について、明快な方針を示してほしい。
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