日本郵政人事 政治介入に終止符を

朝日新聞 2013年05月23日

日本郵政人事 政治介入に終止符を

安倍政権が日本郵政の社長以下、経営陣を刷新する。前政権の「色」がついた布陣を一掃する狙いがある。

小泉政権が鳴り物入りで決めた郵政民営化だが、その後、見直し問題が政治の思惑に左右され、トップ人事にも波及した。

今回も、国民には「政治に翻弄(ほんろう)される郵政」「民営化の混迷」としか映らないだろう。

政治介入に終止符を打ち、何のための民営化か、理念と戦略を再定義すべきだ。

人事のきっかけは昨年暮れ、自民党が政権に復帰する直前、旧大蔵省OBで、小沢一郎元民主党代表に近い斎藤次郎前社長が退任し、同じ役所の後輩でもある坂篤郎副社長を昇格させたことだった。

菅官房長官ら政府・自民党は強い不快感を抱いた。100%株主である政府の権限をふるって経営陣をすげ替え、社外を含む18人の取締役のうち17人を退任させる。

後任の社長には郵政民営化委員会の委員長を務めている西室泰三・元東芝社長が就く。新たな社外取締役には御手洗冨士夫・前経団連会長らを招く。

斎藤氏から坂氏へという旧大蔵官僚による社長ポストのたらい回しは、大いに問題だった。

一方で、77歳の西室氏以下、新経営陣を見ても経営変革への期待を高めるインパクトには乏しい。事業の収縮が止まらない郵便事業は総務省OBによる経営が続く。

郵政グループは15年秋に持ち株会社の株式上場を目指しており、政府も震災復興の財源として当てにしている。

今年3月期の決算では民営化後の最高益を出し、課題の郵便事業も4年ぶりに黒字だった。ただ、民間に比べて高い人件費を削減した効果も大きい。今後リストラで業績を保つ余地はあろうが、市場が期待するのは本業での収益向上だ。

かんぽ生命やゆうちょ銀行は業務やリスクの管理体制の甘さが指摘され、金融庁が新規業務の認可を出していない。

市場として有望視される医療分野への保険参入も、米国の反発を受けて自粛する方針だ。

しかも、郵政は巨額の国債を保有する。日銀は、郵政が上場を目指す15年までに年2%のインフレを実現する構えだ。連動して金利が上昇(国債価格が低下)していくことによる影響を、どう和らげて上場へこぎ着けるか。

こうした疑問にこたえられるよう、新経営陣は郵政の将来像について、明快な方針を示してほしい。

毎日新聞 2013年05月25日

日本郵政人事 グループの将来像示せ

日本郵政の経営陣が6月の株主総会後に一変する。西室泰三・元東芝会長が社長となり取締役も18人中17人が退任する。

昨年、民主党政権のもと自公民の合意で郵政民営化法が改正され、小泉政権が進めた完全民営化が後退した。民営化はまだ道半ばなのに、子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命も含め、日本郵政グループの方向性がよくわからなくなっている。民営化の最終目標と経営の将来像を明確に示すことが新体制と彼らを選んだ政府の責務だ。

2007年の民営化スタート後も日本郵政人事は政治に翻弄(ほんろう)されてきた。初代社長の西川善文・元三井住友銀行頭取は民主党政権発足後に事実上更迭され、2代目の斎藤次郎・元大蔵事務次官は昨年12月に自民党が政権復帰する直前に同じ旧大蔵省出身の坂篤郎氏に引き継いだ。自民党から「たらい回しだ」と強く批判され、今回の人事につながった。

経営の自由度を高め、効率的な経営をするのが民営化の狙いのひとつだったが、今も国が日本郵政の株式を100%持ち、時の政権が都合のいい経営者を据えてきた。政権交代があったとしても、人事で大騒ぎしない経営体制に早くならなければならない。国の関与を薄めることが喫緊の課題なのである。

小泉政権で成立した郵政民営化法では、政府は持ち株会社の日本郵政の株売却を進め、最終的には3分の1超の株を持ち続けるが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の2子会社は民営化後10年で全株を売却することになっていた。ところが改正法は日本郵政の株売却は同じだが、2社は全株売却は目指すものの売却期限がなくなった。

日本郵政と2子会社は、中途半端な状態が続いている。2社は新規業務を広げようとし、銀行業界、保険業界から「政府の株式保有が続くなかでの新規業務は官業の民業圧迫にほかならない」と強い反発を受けた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の事前協議でも、米国から批判の的となった。

一方で、15年秋までに日本郵政を上場し、株式売却益を東日本大震災の復興財源に充てるという政府方針だけが示されている。日本郵政は2子会社の株売却の道筋は、政府が日本郵政の株式の半数を売ってからと説明してきた。それがいつなのか明確でない。2子会社株の完全売却が努力目標のまま、先送りされかねない。

民営化の着地点を明確にし、営業力強化の経営戦略を描く必要がある。郵便事業の効率化、過疎地のサービスの負担のあり方、2子会社が大量に保有する国債のリスク管理など課題は山積しているのだ。

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