ミャンマー訪問 商売ばかりではなく

朝日新聞 2013年05月24日

ミャンマー訪問 商売ばかりではなく

安倍首相がきょうからミャンマーを訪ねる。首都ネピドーでテインセイン大統領と会談し、両国の関係強化をうたう共同宣言に署名する予定だ。

テインセイン大統領は、ミャンマーの元首として47年ぶりにワシントンを訪れたばかりだ。

軍事政権による強引な遷都で批判された首都に主要国の首脳を迎え、かつて制裁を科していた相手国に大統領が出向く。

2年余り前に現政権が発足し、民主化と開放政策を進めたことで、国際社会からの認知が確実に進んだ証しである。

日本は戦前からこの国と深いつながりがある。独立にもからんだ。戦後も賠償をへて長く最大の援助国だった。だが軍政に対しては、制裁を科すわけでも積極的な援助をするわけでもない中途半端な立ち位置だった。

今回の訪問には企業トップ約40人が同行する。一行は、日本が官民をあげて推進するティラワ経済特区の開発予定地を視察する。政府は3千億円もの延滞債務の放棄に加え、500億円を超す円借款を供与する。

訪問の最大の狙いは「アジア最後のフロンティア」とされるミャンマーとの経済関係を強化することなのだろう。しかし、忘れてならないことがある。

首相の訪問は36年ぶりだ。

前回の福田赳夫氏は、ミャンマーに続いて訪れたマニラで、東南アジア諸国連合(ASEAN)と「心と心の触れあう関係を構築する」と誓った。

エコノミックアニマルとアジア各国で厳しく批判された反省から打ち出した原則だった。

安倍首相は1月、この福田ドクトリン以来といえるASEAN外交の原則を発表し、第1に「自由や民主主義、基本的人権など普遍的価値の定着と拡大に努力する」と表明した。

とすれば、対ミャンマー政策は、経済進出や中国を牽制(けんせい)する地政学的な意味あいを強調するより、苦難の道を歩んできたこの国の人々が平和で民主的な社会に暮らせるよう後押しすることに力点を置くべきだろう。

ミャンマー政府には「民主化の一層の進展に期待する」といった抽象的な表現ではなく、この国の抱える課題について、率直な注文をつけてはどうか。

例えば少数民族や宗教間問題の解決、残る政治犯の釈放などだ。2年後にある総選挙より前に、軍の絶対優位を定めた憲法の改正を促す必要もある。

日本政府や企業は、援助や投資に際して、軍政時代の政商ばかりを相手にせず、野党や住民の意見もくんで、国民全体の利益になる進出をめざすことだ。

毎日新聞 2013年05月25日

日本とミャンマー インフラ支援が重要だ

安倍晋三首相が24日、ミャンマー入りした。26日まで滞在し、テインセイン大統領らと会談する。日本の首相の訪問は1977年の福田赳夫氏以来36年ぶりだ。日本はインフラ整備を中心に幅広い分野で支援し、民主的な国づくりを後押ししていくべきだ。

長年の軍事政権下で国を閉ざしてきたミャンマーは経済も停滞し、アジアの最貧国に転落した。しかし、2年前の民政移管以降、民主化路線に踏み出し、経済も開放して外資導入で成長を目指している。天然資源が豊富で人口6000万人を超える有望市場は「アジア最後のフロンティア」と目され、外国企業の投資合戦が本格化しつつある。

ミャンマーが経済開発を進めるうえで最大のネックはインフラの弱さだ。最大都市ヤンゴンでさえ日常的に停電が起き、水道の普及率は約6割にとどまっている。道路や鉄道といった交通や情報通信などの基盤整備も遅れている。

安倍政権は成長戦略の一環として海外でのインフラ受注を現在の3倍の30兆円に拡大する目標を掲げている。経済開発に外国からの投資や技術協力が欠かせないミャンマーは、さまざまな分野で日本の技術力を生かせる大きな可能性がある。既に火力発電や港湾整備、郵便システムなどで支援の協議が進んでいる。

日本は今年、26年ぶりに円借款の再開を決め、500億円規模の供与を表明した。援助の対象にはヤンゴン近郊で日本とミャンマーが共同で開発を進める経済特区のインフラ整備などが含まれる。援助が有効に使われ、日本企業の進出が活発化すれば、両国の互恵的な関係の発展にもつながるだろう。

テインセイン大統領は今年に入って欧州と米国を相次いで訪問するなど、軍事政権時代に中国一辺倒だった姿勢を転換し、多角的外交を進めている。オバマ米大統領との会談では民主化推進を約束した。日本も共通の価値観を持つ国として関係を強化していく好機だ。

インドと中国の間に位置するミャンマーは、アジアの安全保障を考えるうえで地理的に重要な存在だ。来年には東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を初めて務める。アジアの安定を図っていくためにも対話を強化していくことが重要だ。

ミャンマーは民主化に動き始めたとはいえ、政府と少数民族の対立が続く地域があるなど、まだまだ不安定な状況だ。軍の強い権限を規定した憲法の改正など、本当の民主国家に生まれ変わるためには課題も多い。民主化が決して後戻りすることがないよう、日本は長期的な視野で協力していく必要がある。

読売新聞 2013年05月27日

ミャンマー訪問 経済支援で日本の存在感を

民主化と経済改革を進めるミャンマーに対し、日本が大型支援を表明した。アジアの新市場を開拓する布石でもある。

安倍首相がミャンマーを訪問し、テイン・セイン大統領と会談した。日本の首相としては、1977年の福田首相以来36年ぶりの歴史的訪問だ。

首相は大統領の改革を前向きに評価し、「官民の力を総動員し、国造りを応援する」と語った。

具体的には、ミャンマーへの債権のうち3000億円を帳消しとし、日本企業の拠点となる工業団地開発などに910億円の政府開発援助(ODA)を拠出する。

大型発電所や電力供給網、高速通信網などの整備でも、民間と連携して支援する方針を示した。

民政移管後のミャンマーは、有力な投資先として世界中から注目され、米国をはじめ各国の進出競争が勢いを増している。首相は、日本企業の進出促進に向けてトップセールスを図ったといえる。

大統領は謝意を示すと共に、日本の投資の重要性を強調した。

ミャンマーは、天然ガスなどの資源に恵まれ、労働力の質と市場の潜在力の高さから、「アジア最後のフロンティア」といわれる。立ち遅れている社会基盤(インフラ)整備への日本の協力は、経済発展を大きく後押ししよう。

首相は「ロシア、中東に続き、ミャンマーへのインフラ輸出も日本の成長につなげたい」と記者団に述べた。安倍政権の成長戦略の中で、ミャンマーは重要な位置を占めることになる。

首相は大統領に、法整備や人材育成を支援する意向を伝えた。

多様な経済支援を実効あるものにするには、ミャンマーの投資環境や企業運営などに関する法整備が必要だ。ミャンマーから1000人規模の青年を日本に招待する取り組みは効果的だ。

両首脳は、少数民族の貧困撲滅対策への協力でも一致した。人権問題の解決につなげたい。

安全保障協力の強化でも合意した。海上自衛隊の「練習艦隊」がミャンマーに初めて寄港するなど、防衛交流が活発化する見通しだ。その意義は小さくない。

中国とインドの間に位置するミャンマーは、地政学的に要衝の地である。来年は東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国だ。

中国寄りの外交から転換したミャンマーとの関係強化は、安倍首相が掲げる民主主義や自由を重視する外交路線とも重なる。軍事、経済面で自己主張を強める中国への牽制(けんせい)にもなるだろう。

産経新聞 2013年05月27日

ミャンマー訪問 国造り支援が成長を促す

安倍晋三首相がミャンマーを訪問してテイン・セイン大統領と会談し、「新しい国造りを官民の力を総動員して応援していく」と表明した。

同国は、人口6000万を超す将来有望な生産拠点にして市場だ。軍政時代の孤立から脱し、「アジア最後のフロンティア」と呼ばれる。

安倍首相は首脳会談で、910億円の政府開発援助(ODA)の実施や2000億円の対日債務の解消を約束した。支援などをテコに日本企業の進出を促し、両国の経済成長につなげてほしい。

訪問には約40社の日本企業幹部が同行した。ロシア・中東歴訪に次ぐ、首相によるトップセールス第2弾として歓迎したい。

日本企業の進出先としてはすでに、最大都市ヤンゴン郊外でティラワ経済特区建設が進んでいる。だが、ネックとなるのは電気、水道などのインフラの貧弱さだ。まさに、インフラビジネスを得意とする日本企業の出番だろう。

軍政下、中国は孤立につけ込む形でミャンマーに浸透し、同国の対中依存が過度に進行した。

民主化に舵(かじ)を切ったミャンマーはそれへの反省から、米欧などとの関係改善を図ろうとしている。テイン・セイン大統領が先に訪米し、オバマ大統領との会談で改革への一層の努力を表明したのも、そうした姿勢転換の表れだ。

日本は独立前からミャンマーとは深い関係を持つ。1977年の福田赳夫首相以来36年ぶりとなった安倍首相訪問を契機に交流を活発化させ、「永続的な友好関係」(共同声明)を築いてほしい。

ただし、日本は米国とともに、支援するだけでなく、注文すべきは注文し、一層の民主化を迫っていかなければならない。それが、ミャンマーを中国の影響下から引き戻すことにもつながる。

少数民族問題や宗教対立といった問題も抱えている。軍は多様な国民を束ねられるのは自分たちだけだと軍政を正当化した。国民和解に向けて関与していくことも民主化支援の一つだ。日本政府は少数民族地域の開発支援などに一段と力を注いでもらいたい。

ミャンマーは武器輸入などで北朝鮮と関係がある。北について、首相は「拉致、核、ミサイル問題の3つの解決が重要だ」と述べ、大統領も理解を示したという。あらゆるルートで北を動かし、具体的な成果を示してほしい。

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