一層の市場開放に備えて、日本農業をどう再生するか。小規模農家から生産性の高い大規模営農へ、転換を促す施策の実効性が問われよう。
安倍首相は、成長戦略第2弾の柱として「攻めの農業」の実現を打ち出した。「農業の構造改革を今度こそ確実にやり遂げる。農地の集積なくして、生産性向上はない」と述べた。改革の方向性は間違っていない。
目玉となるのは、首相が「農地集積バンク」と呼んだ新たな農地仲介制度である。農林水産省が早期導入を目指している。
現在、農地売買などを行っている都道府県の農業公社に強い権限を与え、農地を管理する機構に衣替えする。機構が小規模農家などから土地をいったん借り上げ、大規模化を目指す農家や農業法人に橋渡しする仕組みだ。
耕作せずに放置されたままの放棄地は20年で倍増し、滋賀県全体とほぼ同じ規模にまで拡大した。深刻な状況といえる。
焦点は、新制度が大規模農家の育成につながるかどうかだ。
借り手が見つからないと機構が農地を丸抱えすることになり、その間も、機構は農地の貸し手に賃料を払い続ける必要がある。農地を維持管理し、用排水路を整備する費用もかかる。
財政負担は年数千億円と見込まれている。仲介がうまく進まなければ、巨額の国費を投入するだけで終わりかねない。
借り手を確保するには、企業などの新規参入を後押しする政策が不可欠だ。集約しやすい優良農地を仲介することも求められる。
農地の賃貸や売買の許可権限を持つ農業委員会を見直さないと、農地集積の支障となろう。
農業を成長戦略と位置付ける以上、農水省はメリハリの利いた制度設計を行い、農協などの既得権に切り込んでもらいたい。
首相は「10年間で農業・農村の所得倍増目標」を掲げたが、効果的な施策をテコに農業従事者も努力しないと高いハードルだ。
自民党がコメ農家などを対象とする所得補償制度を拡充し、農地を維持している全農家に補助金を支給する制度を検討していることも問題である。
零細農家でも補助金をもらえるなら、農地の出し手は増えまい。農地集約の方針に妨げとなる政策は再考すべきではないか。
農地の規模拡大は長年実現できなかった。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加をにらみ、改革を加速しなければならない。
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