北極海の開発 資源や航路で戦略的関与を

毎日新聞 2013年05月20日

北極圏開発 積極的な関与が必要だ

北極圏に領土を持つ8カ国で構成する「北極評議会」が15日の閣僚級会合で、日本、中国、韓国など6カ国のオブザーバー参加を承認した。日本にも、新たな可能性を秘めた北極圏開発の行方に積極的に関わっていく戦略と体制作りが求められる。

北極圏が近年注目されるようになったのは、地球温暖化の影響で北極海の氷が解け始め、海底資源や航路を利用できる可能性が高まってきたからだ。米科学誌の調査によれば、北極海の海底には世界の未発見の天然ガスの30%、石油の13%があると推定される。また、日本や中国など東アジアと欧州を結ぶ北極海航路が自然条件などの障害を克服して本格利用できるようになれば、従来のスエズ運河を通る南回り航路に比べ航行期間が10日余り短縮され、輸送コストの大幅削減が可能になる。

南極には領土主権凍結などを定めた南極条約があるが、北極圏を対象にした包括的な国際条約はない。代わりに米国、ロシア、カナダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドが1996年、北極圏の開発や環境保護について話し合う北極評議会を設立し、さまざまなルール作りに取り組んできた。英独仏などもオブザーバーとして参加してきたが、今回初めて欧州以外にも門戸が広げられた。正式加盟国と違い発言権はないが、今後の議論に関与していく可能性が開かれたといえる。

国連海洋法条約では、沿岸から200カイリの排他的経済水域の外でも、自国領土の大陸棚の延長上と証明できれば海底資源開発が認められる。北極圏開発を国家戦略の柱の一つに据えるロシアはこの条約に基づいて権益対象を広げようと北極海の海底調査を始め、自国沿岸を通る北極海航路の商業化も目指している。米国も10日、「北極圏国家戦略」を発表し、権益確保に乗り出した。

沿岸国以外で注目されているのが中国の積極的な取り組みだ。93年にウクライナから購入した大型砕氷船で北極圏の調査を進め、昨年初めて北極海航路の完全横断を実現した。また2006年に北極評議会にオブザーバー参加を申請し、昨年には当時の温家宝首相がアイスランドを訪問するなど北極圏諸国との関係を強化してきた。その最終的な狙いをめぐってはさまざまな臆測を呼んでいる。

中国から遅れて09年にオブザーバー資格を申請した日本は今回、中国と同時に認められた。しかし、3月に北極担当大使ポストを新設したばかりで国としての取り組みは遅れている。北極海航路が本格化すれば、日本海は中国や日本にとって重要なシーレーンの一部になる。北極圏の問題は遠い世界の出来事ではない。

読売新聞 2013年05月19日

北極海の開発 資源や航路で戦略的関与を

商業、軍事利用の潜在的な可能性が高い北極海を巡り、各国の利害が交錯し始めた。日本もオールジャパンで国家戦略を練るべきである。

米露両国や北欧諸国などによる「北極評議会」が2年ぶりの閣僚会議をスウェーデンで開き、日本や中国、韓国など6か国のオブザーバー資格を新たに承認した。

評議会は、北極圏開発や環境保護を協議する場で、日本は環境研究や極地観測への貢献が評価された。オブザーバーとして協議に参加する意義は大きい。海洋国家としての国益にもつながろう。

北極海は、地球温暖化に伴って年々海氷が縮小している。アジアと欧州を結ぶ定期航路ができるかどうか、注目されている。

昨年12月には、ロシア政府系企業のタンカーが、ノルウェーの液化天然ガス(LNG)を福岡県北九州市に運んだ。北極海航路を利用した世界初のLNG輸送だ。

こうした航路が定着すれば、日本にとっても、欧州との航行距離がスエズ運河経由より約4割縮まるという利点がある。

ただ、北極海は海深が浅く、船舶の座礁事故の危険性が高い。救難などの拠点となる港湾は、主にロシアに頼らざるを得ない。

事故を防ぐためにロシアは、航行する船舶に砕氷船の随行を義務づけて料金を課すなど、商業的に支配権を握りつつある。

安定した航行が確保され、採算が取れるかどうか。日本は慎重に見極めるべきだ。

北極海の海底には、豊富な天然ガスや原油などのエネルギー資源が眠っていることも魅力だ。

酷寒の海での資源開発は大規模な国家的プロジェクトとなる。商業利用に向け、各国の駆け引きが始まっている。日本も官民連携を強化し、検討する必要がある。

気がかりなのは、南下政策を長年進めてきたロシアが、北極海航路に安全保障上も目を転じることだ。原子力潜水艦などでつくる太平洋艦隊を増強し、北東アジアでの活動を強める可能性がある。

米国も「安全保障上の利益拡大が重要だ」として、北極圏開発を国益と位置づける国家戦略を発表した。中国も「海洋権益」の確保を目指し、活発に動いている。

日本も無関係ではいられない。北極海航路の使用が国際的に活発化すれば、宗谷、津軽、対馬海峡が中国、ロシアなどの重要な“出入り口”となるだろう。

北極圏の動向は、日本の安全保障政策の観点からも注視していくことが肝要である。

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