商業、軍事利用の潜在的な可能性が高い北極海を巡り、各国の利害が交錯し始めた。日本もオールジャパンで国家戦略を練るべきである。
米露両国や北欧諸国などによる「北極評議会」が2年ぶりの閣僚会議をスウェーデンで開き、日本や中国、韓国など6か国のオブザーバー資格を新たに承認した。
評議会は、北極圏開発や環境保護を協議する場で、日本は環境研究や極地観測への貢献が評価された。オブザーバーとして協議に参加する意義は大きい。海洋国家としての国益にもつながろう。
北極海は、地球温暖化に伴って年々海氷が縮小している。アジアと欧州を結ぶ定期航路ができるかどうか、注目されている。
昨年12月には、ロシア政府系企業のタンカーが、ノルウェーの液化天然ガス(LNG)を福岡県北九州市に運んだ。北極海航路を利用した世界初のLNG輸送だ。
こうした航路が定着すれば、日本にとっても、欧州との航行距離がスエズ運河経由より約4割縮まるという利点がある。
ただ、北極海は海深が浅く、船舶の座礁事故の危険性が高い。救難などの拠点となる港湾は、主にロシアに頼らざるを得ない。
事故を防ぐためにロシアは、航行する船舶に砕氷船の随行を義務づけて料金を課すなど、商業的に支配権を握りつつある。
安定した航行が確保され、採算が取れるかどうか。日本は慎重に見極めるべきだ。
北極海の海底には、豊富な天然ガスや原油などのエネルギー資源が眠っていることも魅力だ。
酷寒の海での資源開発は大規模な国家的プロジェクトとなる。商業利用に向け、各国の駆け引きが始まっている。日本も官民連携を強化し、検討する必要がある。
気がかりなのは、南下政策を長年進めてきたロシアが、北極海航路に安全保障上も目を転じることだ。原子力潜水艦などでつくる太平洋艦隊を増強し、北東アジアでの活動を強める可能性がある。
米国も「安全保障上の利益拡大が重要だ」として、北極圏開発を国益と位置づける国家戦略を発表した。中国も「海洋権益」の確保を目指し、活発に動いている。
日本も無関係ではいられない。北極海航路の使用が国際的に活発化すれば、宗谷、津軽、対馬海峡が中国、ロシアなどの重要な“出入り口”となるだろう。
北極圏の動向は、日本の安全保障政策の観点からも注視していくことが肝要である。
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