飯島氏の訪朝 「拉致」の解決につなげよ

朝日新聞 2013年05月19日

飯島氏訪朝 「対話と圧力」の継続を

北朝鮮を訪問していた飯島勲・内閣官房参与が帰国した。

北朝鮮要人らとの会談の詳しい内容は明らかになっていないが、日本人拉致被害者の即時帰国などを求めたという。

日朝は5年前、いったん日本人拉致の再調査をすることで合意したが、北朝鮮側が一方的に中止した経緯がある。

事態の打開には、対話が欠かせない。そこで、小泉政権時代に首相秘書官として日朝問題にかかわった飯島氏の訪朝となったのだろう。

そのこと自体、理解できる。

ただ、今回の訪朝には双方の政治的な意図が見え隠れするのも事実だ。

安倍政権は北朝鮮問題で「拉致、核、ミサイル」の包括的な解決をめざす。そのため、米国や韓国とともに、核・ミサイル開発をやめるよう北朝鮮に強く迫ってきた。

だが、米韓は今回の訪朝を知らされておらず、強い不快感を示している。とくに韓国政府からは「北に利用されるだけ。日本は拉致問題のことしか考えていない」との批判が出ている。

北朝鮮に対しては、最大の後ろ盾である中国もこれまで以上に厳しい態度をみせ始めた。そんなさなかの日本の単独行動に米韓は首をかしげる。

それでなくても歴史認識発言などで、日本と米中韓の関係はぎくしゃくしているときである。安倍政権は、この問題での日本の立場を各国に丁寧に説明する必要がある。

参院選を控えた時期の電撃訪朝に「政治利用では」といぶかる声もある。そんなことがあってはならないのは当然だ。

一方、ミサイル発射の動きをみせ、緊張をあおってきた北朝鮮は、ここにきて対話に比重を移し始めている。とはいえ、核放棄を求める米韓との関係改善は、すぐにはむずかしい。

そこで、拉致問題という懸案をかかえる日本との対話にかじをきった可能性が高い。

日米韓の足並みを乱れさせようとするのは北朝鮮の常套(じょうとう)手段だ。ナンバー2の金永南(キムヨンナム)・最高人民会議常任委員長が飯島氏と会談。日本との親密な関係を印象づけようとしているところにも、その意図がうかがえる。

在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の中央本部の存続も、北朝鮮が日本に急接近してきたねらいの一つだろう。

北朝鮮との対話は必要なことだが、振り回される結果に終わっては元も子もない。

同時に、米韓と連携して圧力をかけ続ける。そのことを忘れてはならない。

毎日新聞 2013年05月21日

飯島氏の訪朝 懸念を晴らしてほしい

飯島勲内閣官房参与が平壌を訪問し、北朝鮮ナンバー2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長らと会談した。

会談内容の詳細は明らかになっていないが、政府関係者の話を総合すると、飯島氏は(1)拉致被害者全員の即時帰国(2)真相究明(3)実行犯の引き渡し−−を求め、「拉致問題が解決しなければ、日本政府は動かない」と伝えた。北朝鮮側は「日本政府の意向は金正恩(キム・ジョンウン)第1書記に伝える」と約束したという。

拉致問題のこう着状態を打開するには、北朝鮮との対話は不可欠だ。だが今回の飯島氏の訪朝には、いくつか懸念もある。

北朝鮮は昨年12月に事実上の長距離弾道ミサイルを発射し、今年2月に3回目の核実験に踏み切った。日米韓など関係各国は北朝鮮に核放棄を迫るため、厳しい経済制裁を科し、国際的な包囲網を強めている。

安倍晋三首相は「拉致問題を安倍政権のうちに解決する」と意欲を燃やす。首相は核、ミサイル問題の解決を目指す国際連携を維持することにより、拉致問題で日朝政府間協議が再開できない現状を突破しようと、飯島氏を極秘で交渉に当たらせたのではないか。飯島氏は、2002年と04年の小泉純一郎首相(当時)の訪朝に首相秘書官として同行し、北朝鮮にパイプを持つとされる。

しかし、首相官邸が極秘に進めようとした訪朝を、北朝鮮側は勝手に公表してしまったようにみえる。飯島氏が金永南氏に頭を下げている映像や、イルカショーを見学している写真を、北朝鮮は国営通信を通じて配信した。日朝の接近をアピールすることで、日米韓の連携を分断しようとする北朝鮮の狙いは明らかだ。

また米韓両国は訪朝を事前に知らされず、不快感を示している。官邸側からすれば極秘訪朝のつもりだったからかもしれないが、それなら少なくとも公表しない約束を北朝鮮側から取りつけるなどの慎重な対応が必要だったのではないだろうか。

朝鮮総連中央本部(東京都)の競売問題で、何らかの話し合いが行われたのではないかとの見方もある。

首相はこうした懸念を晴らしてほしい。20日の参院決算委員会で首相は、米韓両国が不快感を示していることを問われ、「この(拉致)問題は日本が主導的に解決しないと、残念ながら他の国がやってくれることはない」と反論した。

日本が独自に動くことが悪いと言っているのではない。北朝鮮に政治利用されないよう、関係各国との連携を維持しながら、日朝平壌宣言に基づいて、拉致、核、ミサイル問題を包括的に解決する。そのことに細心の注意を払いながら、外交を展開してほしい。

読売新聞 2013年05月20日

飯島氏の訪朝 「拉致」解決へ糸口つかめるか

膠着(こうちゃく)状態に陥った日本人拉致問題を打開する糸口はつかめるのか。安倍政権の外交戦略の実効性が問われよう。

14日から17日まで北朝鮮を訪れた飯島勲内閣官房参与が帰国し、菅官房長官に、「本音の話をしてきた」と報告した。

飯島氏は北朝鮮で、序列2位の金永南・最高人民会議常任委員長ら要人と会談し、「拉致問題が解決しなければ、日本政府は動かない」とはっきり伝えたという。

今回の訪朝は、安倍首相の「拉致問題は安倍政権で絶対に解決しなければならない」との意向を受けたものだろう。

小泉首相の政務秘書官だった飯島氏は、2002年と04年の小泉訪朝に随行している。北朝鮮外交に関与してきた飯島氏に対する安倍首相の信任は厚い。

北朝鮮は、08年の日朝実務者協議で、拉致被害者再調査のための委員会を早期に設置することを約束した。だが、北朝鮮は結局、再調査を見送っている。

昨年11月、金正恩体制下で実現した4年ぶりの日朝政府間協議も、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射で行き詰まったままだ。

日本政府は北朝鮮に、拉致被害者の即時帰国、真相の究明、拉致実行犯の引き渡しを求めている。「拉致問題は解決ずみ」と繰り返してきた北朝鮮が、今後、どう応えてくるのか。

慎重に見極めつつ、主体的な外交を展開しなければならない。

気がかりなのは、極秘裏に進めていたはずの今回の訪朝が、平壌到着のその時から北朝鮮に一方的に明らかにされたことである。

首相がノーコメントを通す間、北朝鮮側は飯島氏を厚遇し、動静を連日詳報した。結果的に北朝鮮に利用された面は否めない。

日本人通訳は付いていたのか。会談記録は日本側にも残っているのか。朝鮮総連中央本部(東京)の競売問題との関係はなかったのか。多くの疑問がある。

北朝鮮には、安倍政権の内情を探るとともに、圧力を強めようとする日米韓の連携にくさびを打ち込む狙いがあっただろう。

来日した米国のデービース北朝鮮担当政府特別代表は、「北朝鮮が我々を分断するため、挑発から対話に戦略転換することは予測していた」と述べた。北朝鮮に、付け入る隙を与えてはなるまい。

核・ミサイル問題での国際連携を堅持しながら、拉致問題解決へ進展を図っていく。その難しい課題に結果を出すことが、安倍政権に求められている。

産経新聞 2013年05月19日

飯島氏の訪朝 「拉致」の解決につなげよ

訪朝していた飯島勲内閣官房参与が帰国した。北朝鮮との詳しい会談内容は明らかになっていないが、拉致問題を中心に話し合われたとみられる。安倍晋三政権はこれを機に、膠着(こうちゃく)状態の拉致問題を打開し、成果につなげてほしい。

飯島氏は帰国後、菅義偉官房長官と会い、北の要人に、安倍首相の「自分の手で拉致問題を解決したい」との思いを伝えたことを報告した。全ての拉致被害者の帰国、真相究明、実行犯の引き渡しを要求し、「懸案の解決がない限り日本政府は動かない」とも伝えたとされる。

日朝の政府間接触は昨年11月の協議以来、半年ぶりだが、自民党政権にとっては、北が拉致被害者の再調査を約束した平成20年8月の協議以来、5年ぶりだ。

飯島氏は16年5月の小泉純一郎元首相の訪朝に首相秘書官として同行した。飯島氏の訪朝で、日本が拉致問題などで窓口を開けておくというメッセージは伝わったはずだ。北はまず、5年前の再調査の約束を履行すべきだ。

飯島氏の訪朝が米国に事前に連絡されなかったことから、米国のデービース北朝鮮担当特別代表が外務省の杉山晋輔アジア大洋州局長に不快感を示したとされる。

北朝鮮の拉致、核、ミサイル問題に対処するには、日米韓の3カ国の強い連携が不可欠だ。5月初めに日本政府が米国で初めて開いた拉致問題シンポジウムでも、古屋圭司拉致問題担当相は、拉致問題解決には「米国の理解と支持が最も重要だ」と訴えた。

ただ拉致問題は、日本が主体的に動かない限り置き去りにされてしまう懸念もある。日本はこうした事情も含め、米側に丁寧に説明し、理解を求めるべきだ。

韓国は飯島氏の訪朝に対し、国際社会が緊密に協力すべき対北政策の「助けにならない」と反発している。日本と同じ拉致問題を抱える韓国との協力も大切だ。

今回、北朝鮮は飯島氏にナンバー2の金永南最高人民会議常任委員長を会わせ、その映像を公開した。現在、北の銀行は中国の銀行にも取引を停止され、四面楚歌(そか)に近い状況にある。日本との接近を国際社会にことさら印象づけようとする狙いも垣間見える。

北朝鮮の意図を慎重に見極め、国際社会の包囲網を崩さず、拉致、核、ミサイルを一体として解決する外交姿勢を貫くべきだ。

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