北朝鮮を訪問していた飯島勲・内閣官房参与が帰国した。
北朝鮮要人らとの会談の詳しい内容は明らかになっていないが、日本人拉致被害者の即時帰国などを求めたという。
日朝は5年前、いったん日本人拉致の再調査をすることで合意したが、北朝鮮側が一方的に中止した経緯がある。
事態の打開には、対話が欠かせない。そこで、小泉政権時代に首相秘書官として日朝問題にかかわった飯島氏の訪朝となったのだろう。
そのこと自体、理解できる。
ただ、今回の訪朝には双方の政治的な意図が見え隠れするのも事実だ。
安倍政権は北朝鮮問題で「拉致、核、ミサイル」の包括的な解決をめざす。そのため、米国や韓国とともに、核・ミサイル開発をやめるよう北朝鮮に強く迫ってきた。
だが、米韓は今回の訪朝を知らされておらず、強い不快感を示している。とくに韓国政府からは「北に利用されるだけ。日本は拉致問題のことしか考えていない」との批判が出ている。
北朝鮮に対しては、最大の後ろ盾である中国もこれまで以上に厳しい態度をみせ始めた。そんなさなかの日本の単独行動に米韓は首をかしげる。
それでなくても歴史認識発言などで、日本と米中韓の関係はぎくしゃくしているときである。安倍政権は、この問題での日本の立場を各国に丁寧に説明する必要がある。
参院選を控えた時期の電撃訪朝に「政治利用では」といぶかる声もある。そんなことがあってはならないのは当然だ。
一方、ミサイル発射の動きをみせ、緊張をあおってきた北朝鮮は、ここにきて対話に比重を移し始めている。とはいえ、核放棄を求める米韓との関係改善は、すぐにはむずかしい。
そこで、拉致問題という懸案をかかえる日本との対話にかじをきった可能性が高い。
日米韓の足並みを乱れさせようとするのは北朝鮮の常套(じょうとう)手段だ。ナンバー2の金永南(キムヨンナム)・最高人民会議常任委員長が飯島氏と会談。日本との親密な関係を印象づけようとしているところにも、その意図がうかがえる。
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の中央本部の存続も、北朝鮮が日本に急接近してきたねらいの一つだろう。
北朝鮮との対話は必要なことだが、振り回される結果に終わっては元も子もない。
同時に、米韓と連携して圧力をかけ続ける。そのことを忘れてはならない。
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