GDP高成長 「異次元の回復」とは気が早い

毎日新聞 2013年05月17日

GDP大幅増 財政再建を忘れるな

内閣府が発表した今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質GDPが年率換算で前期比3.5%の高い伸びを示した。昨年末に発足した安倍内閣が経済政策「アベノミクス」で金融緩和姿勢を強く打ち出したことが円安、株高、企業業績回復につながり、日本経済が久しぶりに明るさを取り戻していることをまずは評価したい。

国内は新車販売や外食、衣料品といった個人消費が好調で、米国向けの自動車を中心とした輸出増も加わった。ただ、企業の設備投資は5四半期連続でマイナスを続けている。本格的な経済成長につなげるためには、設備投資を活発にさせ、起業や業界再編など産業の新陳代謝を後押しする施策が大事になる。

安倍政権は産業競争力会議を中心に、6月中旬に公表する成長戦略のとりまとめを急いでいる。国主導で規制緩和や税制優遇に取り組む「国家戦略特区」の創設などが目玉になる見通しだ。税制改正などは政府・与党内の調整が不可欠で、即効性のある政策にどこまで踏み込めるか、まだ見えない。

円安の影響で値上げの動きが出ている。企業が活発に動き、賃上げや雇用を増やさなければ暮らしは厳しくなる。国民生活が向上する好循環につながる施策を期待したい。

一方、金融市場では気がかりな動きが出ている。投資家の売り注文が相次いで国債の価格が下落し、長期金利が急上昇しているのだ。日銀が4月に決めた金融の大幅緩和では、国債を市場で大量購入し、長期金利低下を目指していた。だが、市場で売買できる国債が減り、価格が乱高下することへの懸念などから国債購入を手控える投資家も多く、日銀の思惑とは逆の動きになっている。

投資家が、もっともうかるとみた株式市場に資金を移動させているためで、景気回復をにらんだ「良い金利上昇だ」とする見方もある。ただ、それにしても動きが急激すぎる。

金利上昇、すなわち国債価格の下落は、国債や社債を大量に保有する銀行や生命保険会社の経営を直撃する。国債の利払い費が増え、政府にとっても大きな痛手だ。景気が今後本格的に回復していけば、どこかで金利は上がっていく。

大事なことは、政府が財政再建にも十分力を入れる姿勢を示し、国債の増発懸念を抑えることだ。それが不安定になってしまった市場を落ち着かせる最良の策でもある。

安倍内閣は今年夏に財政再建の道筋を示す中期財政計画をまとめる構えだ。消費増税に加え、社会保障費の抑制といった痛みを伴う議論も避けられない。信頼できる財政健全化策が待ち望まれている。

読売新聞 2013年05月17日

GDP高成長 「異次元の回復」とは気が早い

安倍内閣の進める経済政策「アベノミクス」を好感した円安や株価上昇の追い風を受け、景気の持ち直しが一段と鮮明になってきた。

本格的な景気回復へ、政府と日銀は政策のかじ取りに万全を期さなければならない。

今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0・9%増と、2四半期連続でプラス成長となった。年率換算で3・5%の高い成長率である。

株高が購買意欲を刺激する「資産効果」などで、個人消費が堅調だった。円安を背景に輸出も回復した。内需と外需がそろって上向いたのは心強い。

東京市場の平均株価が1万5000円の大台を回復し、足もとでも明るい動きが広がっている。

甘利経済財政相は3・5%成長について、「異次元の政策投入による、異次元の景気回復への歩みが始まった」と、アベノミクスの効果を強調した。

だが、日本経済が上昇気流に乗ったと考えるのは早計に過ぎる。力強い成長のカギとなる企業の設備投資はまだ低調で、雇用の回復も遅れているからだ。

今年度予算を着実に執行するとともに、日銀の量的・質的金融緩和をあわせた「2本の矢」で、景気をしっかり支えたい。

民間主導の成長にバトンタッチできるかどうかは、「3本目の矢」の成長戦略にかかっている。

安倍内閣は産業振興や成長市場の育成策について、産業競争力会議などで論議している。

歴代内閣も成長戦略を打ち出しながら、成果は乏しかった。今度こそ民間の提言を生かし、技術革新や競争力強化に有効な戦略を練り上げてほしい。

他の主要国に比べて高い法人税率の引き下げや、過剰な雇用規制の緩和も急務である。

むろん、主役は民間企業だ。リストラ頼みの「守りの経営」から脱却し、収益力の強化を図ることが求められる。

心配なのは、1ドル=100円を突破した円安が勢いづき、原材料の輸入価格上昇といった副作用が深刻化しかねないことである。

円安で火力発電の燃料費が増大し、電気料金が追加値上げを迫られると、家計や企業への打撃は大きい。経済再生の観点からも、安全性を確認できた原子力発電所を着実に再稼働すべきだ。

日銀の金融緩和に逆行して長期金利が上昇し、景気への悪影響も懸念され始めた。政府と日銀は市場動向を注視する必要がある。

産経新聞 2013年05月18日

GDP拡大 民間の力で流れを確実に

今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は年率換算で実質3・5%増という大幅な伸びとなった。企業の好調な平成25年3月期決算や日経平均株価の1万5000円突破などをみても、日本経済は上昇気流に乗り始めたとみてよい。

安倍晋三政権の「アベノミクス」が作り出したこの流れがさらに勢いづくかどうかは民間の力にかかっていることを強調したい。

今回GDPを押し上げたのは個人消費と輸出だ。個人消費の伸びは、株価の急上昇などで「景気は良くなる」という期待から消費者心理が改善したためだ。輸出増は円安効果である。企業の好業績も株高や円安がもたらしたもので、長続きは期待できない。

今後の鍵は消費動向である。消費が一段と強くなれば企業の本業が潤い始める。現在は低迷している設備投資も伸びて、産業界全体に波及し、雇用や賃金に跳ね返る。すると消費はさらに拡大し、企業業績も、もう一段改善するという好循環が生まれる。

そうなって初めて、身を切りながら低価格戦略を続けた企業も、コストをきちんと価格転嫁できるようになって、デフレ脱却が実現するというわけだ。

内閣府が、消費者の耐久消費財の買い時判断などから、はじき出す消費者態度指数は4月まで4カ月連続で改善した。購買意欲は高まっている。これを消費につなげるには、景気回復への期待を、かたちにしなければならない。

国民にとって「景気回復期待」は「収入増期待」と同義だ。求められるのは企業の賃金のアップである。春闘で一時金も含めた25年度の賃金交渉は、ほぼ終了しているが、年度途中でも業績次第で一時金の増額など柔軟な対応をためらってはならない。

「アベノミクス三本の矢」では金融緩和に続き、「第2の矢」である財政出動の25年度予算が成立した。「第3の矢」の成長戦略として17日、首相自身が設備投資を促す支援策を発表した。

しかし、アベノミクスでさらに景気を押し上げようとしても限界がある。今後、政府・日銀は企業の収益力強化や収益構造の再構築を促し、新たな成長産業が育つ環境づくりに重心を移すべきだ。デフレ脱却と日本経済再生の主役は、民間企業に交代する時機が来ているのである。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1407/