予算きょう成立 まだ懸案の処理が残っている

朝日新聞 2013年05月17日

首相とデフレ 前回の教訓いかせるか

安倍内閣は発足以来、日銀による前例のない金融緩和と大型の12年度補正予算をてこに、円安と株高を引き寄せた。

13年度予算も成立し、1~3月期の経済成長率は2期連続のプラスとなった。企業や消費者の心理は明るさを増し、政権は経済の実績を前面に出して、参院選に臨む構えだ。

円安、株高、好業績に、景気の堅調な拡大――。

日本経済の現状は、どこかで見た光景である。そう、安倍氏が首相だった06~07年もそうだった。

第1次安倍政権は、05年の「郵政総選挙」で自民党が圧勝し、改革への期待から株価が急騰した流れのなかで発足した。

為替は1ドル=110~120円台で、平均株価は1万6千~1万8千円台で推移。消費者物価の上昇率もプラスが続き、デフレから本格的に脱却できるかに思われた。

しかし、この「宴」は世界経済の変調であえなく終わる。安倍政権時に浮上したサブプライムローン問題、福田政権時の08年に起きたリーマン・ショックで円高と株安が進み、デフレに逆戻りしてしまった。

安倍氏に近い経済学者らは、日銀による金融緩和の不十分さをやり玉に挙げるが、それだけではあるまい。

円安・株高による「猶予」のうちに、日本経済の体質を強める取り組みが弱かったのではないか。規制改革による国内市場の開拓、起業の促進といった政策だ。

では今の安倍政権はどうか。

政府の産業競争力会議は成長戦略のとりまとめに入ったが、IT(情報技術)の活用拡大や企業を支援する特区制度のてこ入れ、社会インフラや農産物の輸出強化など、あたりさわりのない項目が並ぶ。

業界の既得権に切り込む姿勢には乏しい。医療や介護、環境・エネルギー、教育など、需要がある身近な分野での思い切った対策が見えてこない。

首相は企業に雇用増や賃金アップを呼びかけるが、企業を動かすには「商機がある」と思わせることが一番のはずだ。

日銀の金融緩和にもかかわらず長期金利が上がるなど、国債市場が不安定なだけに、財政規律への目配りも欠かせない。ところが、政府の経済財政諮問会議での財政健全化計画づくりは遅々として進まない。

まさか、参院選まではデフレ脱却へのムードだけを演出しておけばいいと考えているわけではあるまい。再び一時の宴で終わるなら、反動は大きい。

読売新聞 2013年05月15日

予算きょう成立 まだ懸案の処理が残っている

2013年度予算がきょう成立する。一般会計総額92・6兆円の予算案は、参院では野党の反対により否決される見通しだが、憲法の衆院優越規定が適用される。

2月に成立した12年度補正予算と合わせて「15か月予算」と位置付けられる。着実な執行により、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の目指すデフレ脱却と経済再生を確かなものにしたい。

予算成立後の政府の課題は、6月に「3本目の矢」としてまとめる成長戦略と、「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)」だ。

持続的な成長と、中長期的な財政健全化の両立をいかに図るか。参院選の争点にもなろう。

予算成立に伴い、終盤国会では重要法案の処理が焦点となる。

中でも、「1票の格差」を是正するため、衆院小選挙区定数の「0増5減」を実現する区割り法案の審議を急がねばならない。

自民、公明両党が、区割り法案の先行成立を立法府としての最低限の責務だとしているのはもっともである。衆院で再可決してでも成立させる構えだ。

これに対し、民主党など野党は、格差是正と定数の大幅削減の一体決着を主張する。法案の参院送付から3週間もたつのに、審議入りのメドすら立っていない。

選挙制度の抜本改革について各党の主張はバラバラで、今国会中に結論を出すのは困難だ。

まずできることに取り組まず、原則論ばかりを唱える民主党などの姿勢は無責任に過ぎる。

このほか、成年後見人が付いた人にも選挙権を認める公職選挙法改正案の成立も急務だ。夏の参院選に間に合わせる必要がある。

社会保障サービスの充実と徴税効率化を図るための共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)や、ハーグ条約の関連法案なども確実に成立を図らねばならない。

一方、自公民3党の社会保障制度改革の協議は停滞している。

年金制度を巡っては、自公両党が現行制度の修正による改革を目指している。これに対し、民主党は相変わらず最低保障年金導入など抜本的見直しを主張し、参院選の争点にしようとしている。

政治の意思決定がなければ、社会保障制度改革推進法が求める8月21日までの「法制上の措置」を講じることは難しい。昨年の3党合意で設置した政府の社会保障制度改革国民会議の議論も宙に浮くことになる。

改革をどう進めていくのか、3党は改めて明確にすべきだ。

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