敦賀原発 「活断層」との結論は拙速だ

朝日新聞 2013年05月17日

脱原発と地元 敦賀をモデルケースに

現状維持はもはや夢物語だ。

福島の原発事故の教訓から生まれた原子力規制委員会の有識者会合が、福井県敦賀市にある敦賀原発2号機の真下に活断層があると断定した。委員の一人は「これまで事故もなく経過してきたことは幸いと言うしかない」と述べている。

活断層が動いて大事故ともなれば、真っ先に避難しなければならないのが敦賀市民だ。40キロ先には関西の水がめ、琵琶湖もある。天災は待ってくれない。

敦賀市の河瀬一治市長は、結論は「断定ではない」などと反発する。地元の推進派からは、時間をかせげば、原発再稼働に前向きな安倍政権が何とかしてくれるという声も聞こえる。

原発の立地自治体には、国が交付金をつぎ込んできた。そこで敦賀市に対し、「補助金目当ての抵抗」と言う人もいる。

ここは、立ち止まって考えてみよう。脱原発社会を目指すには、地元での深刻な影響に正面から向きあう必要がある。

かつて港を中心に栄えた敦賀市は、経済の中心が太平洋側に移る中、4基の原発を受け入れて地元経済の軸足を変えた。

だが新型転換炉「ふげん」は廃炉作業中で、3・11後は老朽化する敦賀1号機の再稼働は見通せない。高速増殖原型炉「もんじゅ」も点検放置問題で再開のめどがない。敦賀2号機も廃炉となれば43年ぶりに原発の灯が絶える公算が大きい。

原発の存在を前提としてきた市民生活は根底から揺さぶられる。特に雇用への影響が大きい。人口約6万8千人のうち、原発や関連施設で働く人は約5千人、旅館など原発と切り離せない仕事をする人も約5千人といわれる。家族も含めれば数万人が原発に暮らしを頼る。

財政への影響も深刻だ。原発受け入れの見返りに、累計500億円の交付金を受け取った。固定資産税なども入れると予算の5分の1が原発関連の収入だ。医療費補助や消防署職員の人件費にも交付金がまわる。

河瀬市長は今回の決定に反発する一方、仮に原発がなくなっても「廃炉には30年も40年もかかり、専門の会社が必要だ」「世界に原子力の安全を確保する技術を発信する道もある」と述べた。こうした転換が具体化すれば、敦賀市は脱原発の町のモデルケースとなりうる。

国策を受け入れた自治体が原発と決別する。その試みを国や、関西などの電力消費地がどう手助けしていくべきか。

敦賀が「原発銀座」から脱却できるよう、さまざまな後押しで知恵をしぼる時がきた。

毎日新聞 2013年05月17日

敦賀原発2号機 廃炉の環境整備を急げ

原子力規制委員会の調査団が、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)直下を「耐震設計上考慮すべき活断層」が走っていると認定した。原電は納得せず、現地調査を続けて再検討を求める方針だが、これまでの規制委の議論を踏まえれば、結論が覆る可能性は極めて低い。

原発の安全性を確保する立場から、調査団の結論を支持したい。規制委の島崎邦彦・委員長代理は「これまで事故がなかったのは幸いと言うしかない」と述べている。廃炉は不可避だ。敦賀2号機の建屋には、使用済み核燃料が保管されている。運転停止中でも、活断層が動けば大事故につながる恐れがある。

規制委の調査団は昨年12月に現地調査を行い、直後に敦賀2号機直下の破砕帯(断層)を活断層とする見解をまとめていた。しかし、原電側が「有識者の専門分野に偏りがある」「審議の進め方が一方的」などと反発。自民党や地元自治体からも、規制委に対し、調査の徹底や議論の公正を求める声が出た。

このため、規制委は他の専門家からも意見を聞く会合を開き、原電が反論する場も設けて、意見を闘わせた。それでも、結論は変わらなかった。原電は「合理的な判断とは言えない」と主張するが、可能性を否定できなければ「活断層」とみなす規制委の姿勢は妥当だと考える。

廃炉の判断を下すのは原電だ。もちろんさまざまな影響が出る。

原電は原発専門の電力卸売会社で、大手電力9社などの出資で設立された。敦賀原発1、2号機と東海第2原発(茨城県)の計3基を所有するが、老朽化や断層の存在、地元の反対などでいずれも再稼働のめどは立っていない。電力会社は原発の廃炉費用を積み立てているが、原電は3基の積み立てをまだ終えていない。廃炉は経営危機に直結する。

そうなれば、設立母体の電力会社は、原電の損失肩代わりなどの支援を迫られる。電気料金の上昇要因にもなる。原電と他社との統合や廃炉専業会社への転換など、経営形態の見直し議論も出てくるだろう。

原発立地に依存してきた地元自治体の財政や地域経済への影響も大きい。

敦賀2号機の設置を認可した国も責任を免れない。廃炉費用の負担のあり方の議論や、新たな地域振興策など、廃炉に向けた環境整備に着手する必要がある。

7月には原発の新規制基準が施行され、老朽化した原発も最新基準への適応が求められる。規制委による原発の活断層評価も続く。廃炉に追い込まれる原発がさらに出てくるはずだ。敦賀2号機の廃炉対策は、これからやってくる原発廃炉時代の試金石となるだろう。

読売新聞 2013年05月16日

敦賀原発 「活断層」との結論は拙速だ

科学的に十分根拠のある結論と言えるのか。極めて疑問である。

福井県にある日本原子力発電敦賀原子力発電所2号機の真下を通る断層について、原子力規制委員会の専門家チームが15日、活断層だと断定する報告書をまとめた。

活断層の真上に原発の重要施設を建てることは国の基準で認められていない。来週開かれる規制委の定例会で、このまま報告書が了承されれば、2号機の再稼働は厳しくなる。廃炉の可能性も取りざたされている。

報告書は、敷地の端に原電が掘った穴で見つかった短い断層に着目し、地震を引き起こす活断層と認定した。さらに、2号機の真下を通る断層も、この短い断層の延長だと結論づけた。

しかし、この短い断層が2号機の真下の断層につながると、どうして言い切れるのか。報告書は明確な根拠を示していない。

原電は、規制委の前身である経済産業省原子力安全・保安院の指示を受け、敷地内を掘削するなど調査に取り組んでいる。6月にも調査結果をまとめる方針だ。

専門家チームの堤浩之京都大准教授は会合で、「根幹にかかわるデータがかなり不足している。調査が進んだ段階で議論した方が実りがある」と、最終結論とすることに異論を唱えた。

もっともな見解である。

専門家チームの藤本光一郎東京学芸大准教授も、「学術論文には到底書けないもの」と、報告書の根拠の乏しさを認めた。

専門家チームをまとめる島崎邦彦規制委委員長代理は、会合が始まった昨秋から「活断層の可能性が高い」と強調してきた。

当初は会合で原電の発言をほとんど認めず、説明の機会を設けても、発言を遮ったり、途中で持論を展開したりした。

結論ありきの公正さを欠く運営だと言わざるを得ない。

福井県の西川一誠知事が、「科学と技術の両面から幅広く意見を聞くべきだ」と、県議会などで規制委に対する注文を繰り返してきたのは、当然だろう。

焦点となる2号機の真下を通る断層について、原電は12万~13万年前以降は動いておらず、活断層ではないと主張している。断層中の土壌の分析に基づくもので、裏付け調査を急いでいる。

科学的評価は、十分なデータを踏まえ、多彩な専門家で議論することが前提だ。規制委は、原電の調査が継続している段階で、拙速に結論を出すべきではない。

産経新聞 2013年05月17日

敦賀の活断層 なぜ原電調査待てぬのか

これが科学に立脚した判断なのか。首をかしげざるを得ない認定だ。

原子力規制委員会の専門家調査団が、日本原子力発電の敦賀原子力発電所(福井県)2号機直下を走る破砕帯についてまとめた報告書の内容についての印象である。

報告書は、この破砕帯を、原発の耐震設計上、考慮すべき活断層であると認定し、近くにある浦底断層が活動した場合には、同時に動いて直上の重要な施設に影響を与える恐れがあると結論づけた。

しかし、日本原電は規制委の報告書に納得していない。同社は敷地内の詳細な地層調査をしており、その結果に基づいて問題の破砕帯は12万~13万年前以降に動いた活断層ではなく、浦底断層との連動性もないと反論してきた。

日本原電は、主張を立証するために6月末までの追加調査を実施中だ。その結果が得られるまで報告書のまとめを待ってほしいと求めていたが、規制委側は一方的に議論を閉ざした形である。

この打ち切りがいけない。規制委は昨年12月の初会合でも日程を短縮し、「活断層の可能性が高い」との判断を示している。これが科学論争の態度だろうか。相互に相手の意見を十分に聞いて検討し、理解を深めて正しい認識に迫るのが筋である。

どうして規制委は、かくも結論を急ぐのか。日本原電の追加調査で、規制委に不都合な証拠が出てくるのを恐れているのではないかと思われても仕方あるまい。

事は、日本原電の存続問題や、他の電力会社の経営圧迫にとどまらず、日本のエネルギー計画の根幹にも関わる重大事である。

専門家調査団による報告書は、来週中にも規制委の会議に上げられる見通しだが、田中俊一委員長には慎重な対応を求めたい。

今回の調査団の間からも、選ばれたメンバーの専門分野の偏りや、調査課題との間のミスマッチを認める声が上がっているではないか。田中委員長は、破砕帯を知り尽くした専門家を招いて、自らを主査とする調査団を再編成すべきである。

その際には「原子力ムラ」排除の偏狭さは捨ててもらいたい。事業者側も納得できる公平な科学的判定のためである。

このまま報告書を了承すれば、原発の真の安全性の判断に禍根を残すことになりかねない。

朝日新聞 2013年05月16日

敦賀原発 退場勧告は当たり前だ

日本原子力発電(原電)の敦賀原発2号機は、廃炉にするしかない。

原子炉直下に活断層があると原子力規制委員会の有識者会合がきのう結論づけ、規制委も近く同意するからだ。国はかねて活断層の真上への原発建設は認めておらず、規制委はこのルールを敦賀2号機に適用する。

日本で初めて、安全の観点から原発に退場勧告が言い渡されることになる。

今回の議論の進め方は妥当であり、結論を支持する。

とりわけ、有識者会合が過去のしがらみを絶ち、これまで原発の安全審査などにかかわったことのない研究者で構成された点を評価したい。

人選は日本活断層学会など関係学会の推薦にもとづき、客観性を保った。電力業界からの研究費寄付などを公開する決まりも新たにつくった。

あくまで独立した立場から安全規制を実践しようとする取り組みであり、堅持すべきだ。

敦賀2号機を廃炉にするかどうかは、原電が決める。

原電は有識者会合の結論に納得していない。反論の権利はあるが、覆すだけの科学的根拠がないまま「休炉」を続けるのは、核セキュリティーを含む安全を考えると好ましくない。

原電に出資する電力各社とともに、廃炉を前提に経営計画を早く抜本的に見直すべきだ。

活断層研究はまだ発展途上の学問領域だ。今回は違うが、研究者によって活断層かどうかの判断がわかれることも少なくない。かつて「活断層ではない」と判断されたものが、学問の進展で「活断層である」と変わることはあるだろう。

最新の科学的判断を最優先させるためには、大きな損失を被る事業主に国が何らかの支援をすることも考えられる。

一方、気になる動きがある。

原発再稼働を求める自民党の議員連盟が発足した。原発立地県の選出議員がずらりと名を連ね、会合では規制委に対する不満が噴出したという。

福島第一原発事故は、原子力規制行政の失敗を示すものでもあった。その反省から、原子力の推進から切り離して誕生したのが今の規制委だ。

原発事故はたまたま、民主党政権のときに起きたが、自民党は長く原発推進を国策として進めてきた。

私たちはまだ、事故以前の原発推進政策について、自民党から具体的な反省を何ら聞かされていない。

なしくずしに「3・11以前」に戻すことは許されない。

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