橋下市長発言 女性の尊厳損ね許されぬ

朝日新聞 2013年05月15日

橋下市長 これが政治家の発言か

橋下徹大阪市長が、戦時中の旧日本軍の慰安婦について「必要なのは誰だってわかる」と語った。

橋下氏はさらに、沖縄県の米軍普天間飛行場の司令官と会談した際に、合法的な範囲内で風俗業を活用してほしいと進言したとみずから明かした。

発言に批判が広がると、今度は「貧困から風俗業で働かざるを得ないという女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。だから積極活用すればいい」などとネット上で繰り返した。

こんな強弁が、通用するはずはない。

橋下氏の理屈はこうだ。

命がけで戦う兵士を休息させ、軍の規律を維持するには慰安婦は必要で、世界各国の軍にも慰安婦制度があった。それなのに日本だけが非難され、不当に侮辱されている。それは国をあげて強制的に女性を拉致したと誤解されているからだ――。

だが、いま日本が慰安婦問題で批判されているのは、そこが原因なのではない。

慰安所の設置や管理に軍の関与を認め、「おわびと反省」を表明した河野談話を何とか見直したいという国会議員の言動がいつまでも続くからだ。

戦場での「性」には、きれいごとで割り切れない部分があるのも確かだ。だからこそ当時の状況は詳しくわからないし、文書の証拠も残されていない。

それでも、多くの女性が自由を奪われ、尊厳を踏みにじられたことは、元慰安婦たちの数々の証言から否定しようがない。

橋下氏は「意に反して慰安婦になった方には配慮しなければいけない」とも語っている。

ただ、橋下氏の一連の発言は、元慰安婦たちの傷口に塩を塗るばかりでなく、いまを生きる女性たち、さらには米兵をも侮辱するものだ。

「風俗業を活用したら」と言われた米国から、「我々のポリシーや価値観からかけ離れている」(米国防総省の報道担当者)といった強い反応が出てくるのは当たり前だ。

橋下氏とともに日本維新の会の共同代表を務める石原慎太郎氏は「軍と売春はつきもので、歴史の原理みたいなもの」と橋下氏をかばった。

維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事も「そういう問題を建前でなく、本音で解決するために言ったと理解している」と話した。

この党には、橋下氏をいさめる政治家はいないのか。百歩譲って本音で解決するためというのなら、何をどう解決するのか示してほしい。

毎日新聞 2013年05月15日

橋下氏の発言 国際社会に通用しない

あぜんとする言動である。日本維新の会共同代表を務める橋下徹大阪市長が旧日本軍のいわゆる従軍慰安婦制度について「必要だった」と発言した。

橋下氏は沖縄の在日米軍についても司令官に「(米軍は)風俗業を活用してほしい」と提案した。野党実力者の不適切発言は対外的に日本政治への不信を招き、国そのもののイメージすら損ないかねない。

「精神的に高ぶっている集団に休息させてあげようと思ったら慰安婦制度が必要なことは誰でも分かる」「日本軍だけでなく、いろんな軍で慰安婦制度を活用していた」。橋下氏はこう、主張している。

まず、慰安婦制度を「必要」とまで言い切る感覚には明らかに問題がある。橋下氏発言に関連し稲田朋美行政改革担当相は「慰安婦制度はたいへんな女性の人権に対する侵害だ」と指摘した。橋下氏の認識は女性の人権への配慮を欠いている。

また、橋下氏はかねて慰安婦問題で旧日本軍の強制性を認めた1993年の河野洋平官房長官の談話を批判しており、今回もその延長線上にあるようだ。慰安婦についてさまざまな議論があることは事実だ。だが「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と河野談話が記すように、他軍を引き合いに正当化されるものではあるまい。

紛争下での性犯罪を重視する流れが強まり、防止策が議論されているのが現在の国際的な潮流でもある。橋下氏のような認識は国際的にも受け入れられないだろう。

「風俗」発言も問題が大きい。米国防総省担当者が「ばかげている」と取り合わなかったと報じられているのも当然だ。

95年、米兵による女児暴行事件をめぐり米太平洋軍司令官は「(犯行に使った)車を借りるカネで売春婦を買えた」と語り辞任に追い込まれ、沖縄県民の怒りの火に油を注いだ。こうした経緯をどこまで踏まえた発言だったのか。こんな言動が続くようでは政治家としての資質すら問われよう。

安倍晋三首相の歴史認識をめぐる疑念が米国で強まっている。「河野談話」見直しに菅義偉官房長官が慎重姿勢を示すのも不用意な対応が日本の外交力を損ないかねないとの警戒からだろう。橋下氏の「慰安婦」発言を維新の会の石原慎太郎共同代表も擁護した。両氏の発言はこうした配慮を台無しにしかねない。

歴史認識をめぐっては自民党の高市早苗政調会長の発言も波紋を広げている。発言が結果的に外交力を低下させ、国益を損なう悪循環を生みかねないことを与野党の政治家は強く心得るべきだ。

読売新聞 2013年05月16日

橋下氏発言 女性の尊厳踏みにじる不見識

公人としての見識と品位が問われる発言だ。

日本維新の会の橋下共同代表が、いわゆる従軍慰安婦について、兵士によるレイプを抑え、「軍の規律を維持するには当時は必要だった」と記者団に語った。

さらに、橋下氏が在日米軍幹部に、風俗業の「活用」を働きかけていたことも明らかになった。

橋下氏は15日、慰安婦について「いま必要とは一切言っていない」と釈明した。戦時中、旧日本軍以外にも類似した存在があったという指摘は、その通りだろう。

とは言え、軍に慰安婦が必要だったと声高に主張することが、女性の尊厳を軽んじるものと受け止められても仕方あるまい。

橋下氏の発言に対し、稲田行政改革相が「慰安婦制度は女性の人権に対する侵害だと思っている」と述べたように、強い反発の声が上がったのも当然である。

今回の発言は、歴史認識をめぐる安倍内閣の姿勢に関連して、記者団の質問に答えたものだ。

慰安婦問題に関する1993年の河野官房長官談話には、資料的な根拠もないまま、日本の官憲が組織的、強制的に女性を慰安婦にしたかのような記述がある。そうした誤解を招くような記述は、事実を踏まえた見直しが必要だ。

橋下氏は河野談話の見直しが持論である。だが、戦時中の慰安婦の存在を「必要だった」と認めることは、逆に国際的にも誤解を広げることになるのではないか。

橋下氏は、日本政府が1965年の日韓基本条約で慰安婦問題は法的に解決済みだとしていることを批判し、元慰安婦に「配慮すべきだ」とも語っている。だが、何ら具体策もないのに、こうした主張をするのは無責任である。

一方、「風俗業活用」発言は橋下氏が最近沖縄を訪問した際、在日米軍幹部に進言したという。

兵士の性をどう制御するかは、いつの時代も軍の課題だとして、日本で合法的に行われている風俗業を活用してはどうかと語った。幹部は、軍では禁じられていると答え、この話を打ち切った。

米軍の規律に対する無理解であり、侮辱とも受け止められたのではないか。米国社会では、女性の尊厳が重んじられている。日本の歴史問題の中でも、とりわけ慰安婦問題に対する視線が厳しい。

沖縄などからも、女性を道具として扱う暴言と批判の声が上がったのももっともだ。

なぜ、橋下氏がこうした提案をし、それを表明する必要があったのか。首を(かし)げざるを得ない。

産経新聞 2013年05月15日

橋下市長発言 女性の尊厳損ね許されぬ

日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が「慰安婦制度は当時は必要だった」などと語った。米軍幹部に「海兵隊員に風俗業を活用してほしい」と述べたことも自ら明らかにした。

今の時代に政治家がこうしたことを公言するのは女性の尊厳を損なうものと言わざるを得ない。許されない発言である。

慰安婦問題をめぐっては、宮沢喜一内閣当時に根拠もないまま強制連行を認める河野洋平官房長官談話が発表され、公権力による強制があったとの偽りが国内外で独り歩きする原因となった。

安倍晋三首相は有識者ヒアリングを通じて談話を再検討する考えを示してきた。橋下氏が「必要な制度」などと唱えるのは事実に基づく再検討とは無関係だ。国際社会にも誤解を与えかねない。

橋下氏は「慰安婦制度は世界各国の軍が活用したのに、なぜ日本だけ取り上げられるのか」「軍の規律を維持するためには必要だった」などと、当時の慰安婦の必要性を肯定した。

これに対し、稲田朋美行政改革担当相は「慰安婦制度は女性の人権に対する大変な侵害だ」と批判し、下村博文文部科学相も「あえて発言する意味があるのか」と指摘した。稲田、下村両氏は自民党内の保守派として河野談話の問題点を厳しく指摘したこともあるが、橋下氏の考えとは相いれないことを示すものといえる。

安倍首相も「筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む」との認識を表明している。

河野談話の発表にあたっては、二百数十点に及ぶ公式文書には旧日本軍や官憲が慰安婦を強制連行したことを裏付ける資料は一点もなかった。だが、発表直前に韓国のソウルで行った韓国人元慰安婦からの聞き取り調査だけで、強制連行があったと決めつけた。

裏付けなく発表された談話が、韓国などの反日宣伝を許す要因となっている状況を安倍政権は見直そうとしている。いわれなき批判を払拭すべきだという点は妥当としても、橋下氏の発言が見直しの努力を否定しかねない。

橋下氏が米軍幹部に述べた「風俗業活用」発言など、もってのほかだ。人権を含む普遍的価値を拡大する「価値観外交」を進める日本で、およそ有力政治家が口にする言葉ではなかろう。

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