朝日新聞 2013年05月11日
企業の好決算 さあ未来への投資を
上場企業の3月期決算がピークを迎えた。円安株高の追い風を受け、とくにトヨタ自動車をはじめとする輸出関連メーカーで収益回復が目立つ。
円相場は4年ぶりに1ドル=100円台に入った。円安の恩恵が1年を通じて行き渡るとの期待から、今期は一層の増益を見込む企業も多い。
ただ、期待先行の相場に支えられた面が大きいだけに、単なる円安頼みではない本当の収益力の強化に、いまこそ取り組まなければならない。
一連の株高を加速させた外国人投資家は、高い株価に釣り合う利益還元を強く求める。
しかも、過去10年余り、金融緩和によって債券利回りが低下するほど、株式投資への収益要求は高まる傾向がある。株高は株主からの高額な「請求書」でもある。
これに対し、経営者が目先の収益を取り繕うため、賃金や投資の抑制でお茶を濁す過去のパターンを繰り返すのでは、持続的な景気回復は望めない。
多くの日本企業は、あまりにも「どうコストを減らしていくか」に心を奪われ、「何を生み出すか」をおろそかにしてきたのではないか。
斬新な製品の事業化より、利益を見積もりやすい改良型の投資を増やすことで、投資家に対して成長を装ってきた面は否めない。
その結果、研究開発への投資を生かせず、安易な人件費の圧縮に依存した事業構造と経済のデフレ体質が強まった。
企業に求められているのは、新しい製品やサービスの創造に向けて積極的に投資をし、新たな顧客を開拓し、低価格競争を避けられるような商品力と成長力を構築することだ。
これを雇用・賃金面での改善とも両立させ、実体経済を活性化させていく。
簡単ではないが、こうした長期的な視野からの企業経営にこそ、日本の未来もある。
ことに電機産業は、これまでの業績悪化が円高だけでなく、むしろ本業の力が低下したところに原因があると見るべきだろう。円安になっても輸出が増えるとは限らない。ビジネスモデルの見直しや業界再編など抜本的な改革が待ったなしだ。
円安メリットは過去、円高への対応に苦闘してきたことへのボーナスのようなものである。この原資を、きちんと生かしてほしい。
円安で逆に経営が圧迫される企業が多いことを考えれば、収益を回復させた企業の責任はなおさら重い。
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毎日新聞 2013年05月14日
G7と財政再建 決意はどこへ行った
あの反省と決意はどこへ行ってしまったのだろう。そう嘆かずにいられない、先進7カ国(G7)の緩みぶりである。先週末、ロンドン郊外で開かれた財務相・中央銀行総裁会議はその印象をより強く与えた。
長期化している金融緩和がその一つだ。リーマン・ショックに至るバブルの要因となったにもかかわらず、先進国の金融緩和は再び長期化し、出口が見えない。しかも前例のない規模にエスカレートしている。
緩んだもう一つの決意が財政再建に関するものだ。金融危機後の景気浮揚策などで軒並み悪化した各国の財政を、立て直そうと誓いを立てたのが、3年前、カナダ・トロントで開いた主要20カ国・地域(G20)首脳会議だった。
先進国は2013年までの財政赤字半減と16年以降の債務削減を決めたのである。だが、景気の本格回復が遅れ、債務危機への緊張も薄れる中、財政再建の優先順位は低下。多くの国で目標達成は困難な情勢だ。
新たな努力が必要な先進諸国だが、今回のG7では、会議に先立ち米国がドイツの財政出動を促すなど、成長優先がより鮮明になった。財政再建重視の英、独、カナダと、成長優先の仏、伊、米に分かれ、一致して強いメッセージを発信できなくなっている。
そんな足並みの乱れは、財政健全化への相互の要求を弱め、各国はある意味で楽になるかもしれない。しかし、先進国中最悪の財政を抱える日本に、ほっとできる余裕はない。
トロントG20で先進国が掲げた目標も、別枠扱いにしてもらった日本である。他の先進国と同じでは達成が絶望的だと、独自の目標を認めてもらった。その甘めの目標、つまり「15年度までに基礎的財政収支の赤字額の国内総生産比半減、20年度までに黒字化」についてさえ、最近、見直しを示唆するような発言が安倍内閣から出ている始末である。
この先が心配だ。「異次元の金融緩和」により、日銀は毎月、政府発行額の7割強にあたる国債を買っている。これまで以上に、健全化姿勢を明確にしないと、市場を通じた国債購入とはいえ「財政赤字の穴埋め」との見方から、国債が信用をなくし、長期金利が急騰する危険がある。
国債市場では神経質な取引が続いており、日銀の意図とは逆に、長期金利が上昇(国債価格が下落)している。安倍政権は財政再建に向けた具体的計画を急ぎ明確にすべきだ。
G7参加者のうち、バブル再燃に警鐘を鳴らし、財政再建に対する先進国の緩みを批判しているのはカナダのフレアティ財務相ぐらいである。他の6カ国は耳を傾けるべきだ。特に日本はそうである。
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読売新聞 2013年05月12日
企業決算 好調自動車と苦境電機の明暗
円安などを追い風に、好業績の企業が相次いでいる。経営体質をいかに強化し、成長に弾みを付けるか。各社の攻めの戦略が問われよう。
東証1部上場企業の2013年3月期連結決算の発表がピークを迎えた。企業平均では、2期ぶりの増益となる見通しだ。14年3月期に大幅な増益や最高益を予想する企業も目立つ。
多くの企業が、東日本大震災やタイ洪水といった試練を克服した。安倍政権の経済政策「アベノミクス」などで、超円高が是正された効果は大きい。個人消費の回復傾向もでてきた。
経営環境の好転で、収益改善が進んだことを歓迎したい。
その代表が自動車業界だ。
トヨタ自動車は13年3月期の営業利益が前期比3・7倍の1・3兆円となり、5期ぶりに1兆円を超えた。今期は1・8兆円に増える見込みで、2008年のリーマン・ショック前に記録した最高益に迫る勢いである。
「持続的成長のスタートラインに立てた」という豊田章男社長の発言からは、輸出をテコにした復活への手応えがうかがえる。
日産自動車は、日中関係の悪化で中国市場が低迷して伸び悩んだが、ホンダ、スズキなども好業績だった。部品など自動車産業の裾野は広く、日本経済全体に及ぼす好影響が期待できる。
内需関連では、株高による資産効果で高額品販売が好調だった三越伊勢丹が、営業利益の過去最高を更新した。住宅も好業績が多かった。消費税増税を控えた駆け込み需要に支えられたのだろう。
対照的に、円安などの波に乗れず、依然として苦境に立たされているのが電機業界である。
パナソニックは2期連続で税引き後利益が7000億円台の赤字に陥った。ソニーは5期ぶりに黒字に転じたが、自社ビル売却などリストラ頼みで、テレビ事業などの不振から抜け出せない。
東芝は、円安で逆に、海外工場から輸入する液晶テレビなどが打撃を受けて営業減益だった。
各社とも今期の業績回復を見込むが、韓国企業などとの競争は激しい。事業の「選択と集中」を練り直し、収益を稼ぐ戦略商品で巻き返す必要がある。新興国などの市場取り込みを加速すべきだ。
経済再生は道半ばで、企業を後押しする政府の役割は重要である。法人税率引き下げや、規制緩和などの効果的な成長戦略が不可欠だ。インフラ輸出での官民連携を強化しなければならない。
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産経新聞 2013年05月13日
G7と円安 成長戦略が懸念払う鍵だ
ロンドン郊外で開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)では、1ドル=100円の節目を超えた円安に対し、特段の批判は出なかったという。ここまでの円安が、昨秋までの歴史的な超円高の修正過程だったことを考えれば、当然であろう。
その一方で、会議では複数の国から為替市場の現状に対する懸念表明があった。共同声明発表は見送られたが、議長のオズボーン英財務相によると、為替に関しては、このところ20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明などで打ち出してきた「通貨安競争の回避」が改めて確認されたという。
日銀の大規模な金融緩和は、円安誘導ではなくデフレ脱却のためだとする日本の主張は、今回も、とりあえず容認された格好だ。だが、急激な円安への批判を控えてきたG7の姿勢が変わりつつあることも認めねばなるまい。
日本の主張に説得力を持たせるためにも、今後の成長戦略にどれだけ大胆で実効性ある内容を盛り込めるかが鍵となる。政府の責任はさらに重くなったといえる。
今回のG7では、欧州各国における緊縮財政一辺倒の政策への国民の不満の高まりを受け、「中長期的な財政健全化」と「財政の柔軟性と成長への配慮」を並立させることで一致した。
イタリアやギリシャなどに対する支援の見返りに財政規律の厳格化を求めるドイツに対し、条件緩和を期待するものだ。
しかし、欧州の債務危機は現在もなお、小康状態の域を脱していない。危機に直面する国々は、安易な財政出動が容認されたわけではないと受け止めるべきだ。
先進国で最悪の財政赤字に苦しむ日本にとっても対岸の火事ではない。平成24年度補正予算と近く成立する25年度予算で、大規模な財政出動を打ち出している。日銀による国債の大量購入政策と相まって、市場などに財政規律の緩みを懸念する声は根強い。
麻生太郎財務相は現地で「財政健全化と財政出動による景気回復は二律背反ではない」と強調したが、今回、改めて年央までにまとめるとした財政健全化計画が不十分と見なされれば、市場の混乱を招きかねない。日本は世界経済への責任を果たす上でも、G7各国や市場の理解を得られる内容を示す必要がある。
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