経済対策 財政危機も忘れるな

朝日新聞 2009年12月09日

経済対策 急場しのぎではだめだ

鳩山政権の経済対策がようやくまとまり、年明けの通常国会に今年度第2次補正予算案として出される。「明日の安心と成長のための緊急経済対策」と銘打ったが、新政権が初めて取り組んだ経済対策としては、いささか看板倒れの感は免れない。

もともと財源は麻生政権下の第1次補正予算の一部を凍結して捻出(ねんしゅつ)した2.7兆円が想定されていた。

それが、デフレや円高による景気の「二番底」への懸念を背に、国民新党の亀井静香代表による規模拡大要求でもめたあげく、財政支出額は7.2兆円に膨らんだ。

先月下旬に表面化した中東・ドバイが震源の金融ショックで、閣僚らはたじろいだのだろう。中身より規模の拡大が焦点になり、5千億円規模の公共事業予算まで盛り込まれた。

鳩山内閣は1次補正見直しや事業仕分けを通じて不要不急の公共事業を凍結してきた。その一方で電柱、電線の地中化や街路緑化のような不急の公共事業に予算をつけるというのだ。これは明らかに矛盾したやり方だ。

1990年代以降の自民党の政権下で公共事業中心の経済対策が乱発されたことが借金財政をもたらし、その後の社会保障予算の抑制につながった。それを教訓に、やり方を変えようというのが「生活が第一」「コンクリートから人へ」を掲げた鳩山政権のめざしたものだったのではないか。

失業を増やさないために雇用調整助成金の要件を緩和することや、新卒者の就職、企業の資金繰り対策などを盛り込んだことは意義がある。

しかし、急場しのぎの対策に終始してはいけない。今回は補正とはいえ、新産業の育成と雇用の創出につながるような成長戦略の芽を盛り込み、来年度予算につなげるべきだった。

たとえば、少子化で余った学校施設などを活用し、保育所や介護施設の増設で雇用の場を生み出すというアイデアも出ている。やるならば、もっと大胆に、総合的に推し進めるべきだ。

今後の成長戦略の柱となるアジア内需の開拓や、日本の競争力の柱として期待できそうな環境技術を磨くための人材育成や支援策も大切だ。

経済対策には、不況の行く末を案じる国民を安心させるためのメッセージを政府が送る、という意味もある。だからこそ、需要不足を補うだけの財政出動ではなく、民間の消費と投資を引き出す知恵が必要になる。

そういう工夫が乏しかったのは、たんに政権発足から時間がないためというより、中長期の成長戦略や総合デフレ対策を持たず、負担と受益のあり方などを幅広く討議する場もないことが大きな要因だろう。

来年度予算編成に課せられた重い宿題である。

毎日新聞 2009年12月09日

経済対策 財政危機も忘れるな

一体、何のための対策なのか。

鳩山政権が7・2兆円の経済対策を決定した。国民新党代表の亀井静香金融・郵政担当相が「7・1兆円では全然足りない」と反発したため、予定より4日遅れた。

感想を聞かれた鳩山由紀夫首相が語った言葉は「連立を維持するため我慢のしどころだ」。国民新党に配慮した結果、満足いかない内容で妥協したと認めたも同然である。これで国民の心理が好転するだろうか。

もちろん、対策に盛り込まれた失業者の再雇用支援や地方財政の下支えなどは大切な施策だ。だが、この政府の経済運営なら、将来がよくなりそうだ、との安心につながってこその経済対策である。政権安定を重視するあまり、妥協を重ね、方針の修正を繰り返すようでは、安心をもたらすことはできない。

鳩山政権は、麻生前政権がとりまとめた1次補正予算の一部を執行停止し2・7兆円超の財源を捻出(ねんしゅつ)した。子ども手当など政権公約の目玉政策を実現するため10年度予算の中で使うはずだった。それを2次補正予算に盛り込む景気対策として先食いする方針に転換。2・7兆円の枠も外れ、追加発行しないと宣言していた国債を結局1000億円発行して、国民新党の言い分を聞き入れた。

日本経済は「非常事態」である。今年度の国債発行額見通しが過去最悪の53・5兆円という財政の非常事態だ。税収を国債発行額が上回るのは終戦直後以来というが、「上回った」どころではない。税収の1・5倍近い借金なのである。

過去からの借金の蓄積は国内総生産(GDP)比でとっくに主要国中最悪だ。「もっともっと」と景気対策を重ねた結果に他ならない。

あと1000億円分、国債発行を増やしても大した違いはない、との声もあろう。しかし「国債の追加発行を伴わない経済対策」との約束をあっという間に覆した事実は、今後もずるずると財政規律が緩む一方ではないかと不安にさせる。

規模先行で、いかに効果的な対策にするかといった戦略の議論は前面に出なかった。事業仕分けで次世代スーパーコンピューターの開発予算が「凍結」となり論議を呼んだが、スパコン完成に必要な金額はあと約700億円。今回、亀井氏の一声で追加された地方の土木工事は1000億円。戦略は見えるだろうか。

今回、期待外れに終わった菅直人国家戦略担当相の指導力だが、10年度予算編成では「戦略」を明確にしてほしい。景気刺激最優先の財政から脱却する出口戦略も当然、念頭に置いた予算編成であるべきだ。雇用情勢が日本より厳しい国でも、出口の模索を始めている。

読売新聞 2009年12月09日

緊急経済対策 景気の底割れを防ぐ効果は

数字だけを見れば大型の景気対策だが、額面通りの景気刺激効果を期待していいのだろうか。

政府は8日、財政支出の「真水」で7兆円、融資枠などを含む事業規模で24兆円超の緊急経済対策を決めた。

厳しい雇用情勢とデフレで景気回復の足取りは弱い。来年前半にも腰折れする恐れもある。

ともかく政府と日銀が、景気対策と金融緩和で足並みをそろえたことは歓迎できよう。

だが、対策の決定が国民新党の増額要求で遅れた揚げ句、上積みはわずかだった。市場は政策決定の迷走に懸念を強めている。来年度予算を年内に着実に編成し、市場を安心させねばならない。

対策は雇用、環境、景気、地方支援など6本柱で景気の下支えを目指す。雇用では、休業手当を企業に支給して解雇を防ぐ雇用調整助成金の対象拡大や、新卒者の就職支援などを盛り込んだ。

環境は、エコカーと省エネ家電に、新たに住宅を加えた「エコ消費3本柱」への購入支援をテコに国内の需要不足の改善を狙う。

中小企業の資金繰りを助けるため、信用保証と緊急融資の枠も、計10兆円積み増す。

これらは、これまでの景気対策で実績があり、一定の効果は期待できよう。ただし、延長や拡充が中心で新味に乏しい。すでに効き目が薄れている可能性もあり、効果のほどを点検しながら取り組みを進めなければならない。

裏付けとなる財政支出は水増し気味だ。財源のうち3兆円弱は第1次補正予算の凍結分で、削った予算が戻るに過ぎない。

今回、公共事業として、都市の緑化、橋の補修、電線地中化などが盛り込まれた。だが、景気対策に即効性が期待できる公共事業を第1次補正から一度削り、今度は戻すのでは、その間の時間が無駄になっただけではないか。

「コンクリートから人へ」などという選挙スローガンにこだわったツケといえよう。

今回の予算再配分先がよほど効率の高い事業でないと、「内閣発足直後の凍結作業は何だったのか」という批判も出かねない。

総額3・5兆円に及ぶ地方支援にしても、3兆円は国の税収減に応じて目減りする地方交付税の穴埋めに充てられる。

地方にすれば、当初予算に上積みしてもらえるわけではない。

ヤマ場にさしかかった来年度予算の編成では、雇用と福祉に目配りし、景気刺激に役立つ施策に重点を置くべきである。

産経新聞 2009年12月09日

緊急経済対策 「賢い投資」を見たかった

政府が総事業費24兆円規模の緊急経済対策をまとめた。雇用対策や中小企業の資金繰り支援などを盛り込み、円高やデフレに対応して景気の下支えを目指す。

ただ、ほとんどが当面の対策に終始し、「二番底」に落ち込む懸念がある日本経済を安定成長に向け反転させる力強さはない。政府は日銀と連携し、一段の金融緩和を含め政策総動員で景気浮揚に全力をあげるべきだ。

経済対策は雇用や環境、地方支援などで構成される。省エネ家電の「エコポイント制度」や「エコカー減税」の延長に加え、住宅の省エネ化に対する支援も決めた。電線の地中化など地方の公共事業も一部盛り込んだ。

しかし、7・2兆円の財政支出をみると、税収入が減少する地方向け補填(ほてん)に3兆円を充てるなど、景気対策とは直接関係のない支出も目立つ。雇用調整助成金の要件緩和といった雇用対策や中小企業向け金融の強化などは安全網としての一定の役割は果たすものの、景気の牽引(けんいん)役にはならない。

今回の対策の柱は「緊急対応と成長戦略への布石」と説明するが、具体的な中長期的戦略はまだ示されていない。産業界が延長を求めていたエコポイントやエコカー減税は自民党政権時代の景気対策に盛り込まれていたものだ。

対策の決定にあたっては、国民新党の亀井静香代表(金融相)が予算規模の上積みを求めて策定がずれ込むなど、与党内の足並みが乱れた。このため、当初の計画にはなかった建設国債の追加発行を決めた。来年度予算の編成を控え、与党内の意思疎通に問題があれば、それだけで市場心理を冷やす材料になりかねない。

今年度は景気低迷で税収が大幅に落ち込み、国債発行額は過去最大の53兆円を上回る規模になる見通しだ。厳しい財政事情の中では公共事業のばらまきはできない。羽田空港の国際化に向けた整備など、将来の経済成長や国際競争力の強化につながる「賢い投資」に集中する必要がある。

鳩山政権は「コンクリートから人へ」との理念を打ち出し、今回の対策でも公共事業から人材投資に重点を置いた。しかしこれでは景気への即効性は見込めない。景気浮揚が求められる中で、限られた財源をどう振り分ければ効果的なのか。それを決めるべき政治の意思が見られないところにこそ、問題がある。

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