川口氏訪中 委員長の「解任」は行き過ぎだ

朝日新聞 2013年05月09日

川口氏解任 不毛な対立にあきれる

参議院環境委員会の川口順子委員長(自民)の解任決議案が、きょうの参院本会議で可決される見通しだ。閣僚への問責決議とは違い、可決されれば川口氏は解任される。

決議案は、民主党はじめ野党7党が共同で提出した。民意を代表する国会の決議は重い。とはいえ、解任するほどのことだったのか。首をかしげざるを得ない。

川口氏は、参院の許可なく中国出張の日程を延長し、予定されていた委員会が開けなかったことの責任を問われた。

参院自民党などの説明によると、経緯はこうだ。

川口氏はアジア諸国の元外相らでつくる国際組織の一員として、中国外務省の外郭団体の招きで4月23日から訪中した。

国会開会中は、常任委員長の海外出張は自粛するとの申し合わせがある。だが、今回は25日までの予定を1日短縮したうえで、平日にもかかわらず例外的に許可されたという。

ところが、24日になって前外相の楊潔●(ヤンチエチー、●は竹かんむりに褫のつくり)国務委員との会談が翌25日に設定された。参院の許可を得られぬまま、川口氏は帰国を延期。このため、環境相による法案の趣旨説明などが予定されていた25日の環境委員会は開けなかった。

民主党の海江田代表は、委員会開会を決めていたのに「それを放擲(ほうてき)して中国に滞在したままというのは瑕疵(かし)がある」と指摘した。その通りであろう。

一方で、中国との閣僚級以上の対話が途絶えるなかで、尖閣や靖国問題で日本側の立場を伝えるのは国益上必要だという川口氏の言い分にも、聞くべき点はある。

国会開会中は、閣僚の海外出張も国会の了解が慣例となっている。このため、これを認めるかどうかが、しばしば与野党間の国会運営の駆け引きの道具として使われてきた。

政権交代をへて、ほとんどの政党が政権を担う経験をしている。国会を舞台にした足の引っ張り合いがいかに国政運営の時間を空費し、時に国益を損なうことを、多くの議員が実感しているはずだ。

野党が夏の参院選をにらみ、今回の決議によって安倍政権へのダメージを狙っているとしたら、不毛なことだ。

解任決議案の採決日程をめぐる与野党の調整がこじれ、きのうの参院予算委では、自民、公明の与党欠席の中で安倍首相らへの質疑が行われるという珍事も起きた。

こんな意地の張り合いは、だれも国会には望んでいない。

読売新聞 2013年05月09日

川口氏訪中 委員長の「解任」は行き過ぎだ

いきなり参院常任委員長の解任を求めるほどのことなのか。

民主党など参院の野党7党は、自民党の川口順子環境委員長の解任決議案を参院に共同提出した。

中国への出張を許可なく1日延長した結果、環境委員会が流会となったことを問題視し、「委員長としての職責を自ら放棄したも同然で、断じて容認できない」と指摘している。

9日の参院本会議で採決され、野党の賛成多数で可決される公算だ。常任委員長に対する解任決議案の可決は憲政史上初となる。

川口氏は、4月23日から2日間の予定で訪中した。アジア各国の元外相らの会合などに参加するのが目的だったが、渡航後、副首相級の楊潔?国務委員との会談が25日に設定された。このため、帰国を1日延ばして会談に臨んだ。

参院には、国会開会中、常任委員長などに海外渡航自粛を求める与野党合意がある。2日間の訪中についても、議院運営委員会理事会の事前了承が必要だった。

川口氏は、1日延長については野党の了承を得られないまま、強行した。ルール違反であることは確かだ。野党側には、政府の外交責任者でもない川口氏が中国要人と会談して何の役に立つのか、といった批判もある。

だが、尖閣諸島をめぐる日中対立により、両国間の要人往来や直接対話はほぼ途絶えている。習近平新体制で外交全般を統括する楊氏との会談には、一定の意義があっただろう。

川口氏は陳謝した上で、「主権と領土を守る国益に背中を向けられなかった」と釈明している。

野党側は解任決議という“強権発動”ではなく、陳謝を受け入れるべきではなかったか。重要法案に関する不手際でもないのに解任とは行き過ぎだろう。

参議院規則では、委員長の代理を立てることが認められている。25日の委員会は、代理による議事運営も可能だったはずだ。

野党側は、夏の参院選に向けて、安倍政権との対決姿勢を強めたいのだろう。民主党には、野党共闘構築の足がかりになるという声もある。だが、こんな国会対応では有権者の共感は得られまい。

自民、公明両党は、野党の解任決議案提出に反発し、8日の参院予算委の集中審議を欠席した。予算審議での与党欠席は極めて異例であり、無責任だ。

与野党は、相手の揚げ足取りばかりでなく、政策論争で正面から勝負すべきである。

産経新聞 2013年05月09日

川口氏訪中問題 解任決議案は取り下げよ

国会とは何と愚かなことをするところかと、国民は改めて不信や疑念を募らせているだろう。

民主党など野党7党が川口順子参院環境委員長(自民)に突き付けた解任決議案である。中国を訪問した川口氏が国会の許可を得ず滞在日程を延長したとの理由だ。

だが、延長には中国の楊潔●(よう・けつち)国務委員も出席する会合で、領土や主権をめぐる日本の立場を主張する目的があった。川口氏が出ていなければ、尖閣諸島の奪取を狙う中国側が一方的な主張を展開することが予想された。国益にかなう判断といえる。どうして解任という結論になるのか。

安倍晋三内閣の高支持率に攻め手を欠く野党が数少ないチャンスと飛びついたのではないか。この決議案は直ちに撤回すべきだ。

川口氏は元首や外相の経験者らで作る「アジア平和・和解評議会」の発起人の一人として先月23、24両日の日程で訪中し、前外相で国務委員に昇格した楊氏らとの会談を予定していた。

ところが、楊氏とは25日でなければ会えないことが現地で分かった。川口氏は自民党を通じて参院議院運営委員会に延長を求めたが、野党の了解を得られないまま滞在を延長し、25日の環境委員会は委員長不在で開けなかった。野党側は「前代未聞の国会軽視」と追及している。

川口氏は「楊氏との会談」などを名目としていたが、首相の国会答弁などによると、実際には中国側や評議会の関係者も入った複数による会合になったようだ。

事前の説明や手続きが不十分だったことは否めないが、滞在を延長した理由を考えれば解任は行き過ぎだ。すでに岩城光英参院議運委員長が注意し、川口氏自身も陳謝している。

民主、みんな、日本維新などが出した決議案は、9日の参院本会議で採決され、野党の多数により可決の公算が大きい。法的拘束力のある解任決議案の可決という前例のない事態を引き起こし成果を挙げたと胸を張るつもりなのか。これが前例になることは大きな禍根を残す。国益の実現を優先する国会運営を否定しかねない。

やるべきことは他にある。野党は衆院の格差是正「0増5減」の先行処理に反対している。立法府の最低限の責務をなぜ果たさないのか。見当違いの対応はやめるときだ。

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