安倍首相がトルコとアラブ首長国連邦を訪れ、原発の輸出に道を開く協定が署名された。サウジアラビアとも将来の協定を含めた話しあいを始める。
中東ではいま、原発の計画があいついでいる。その受注争いに遅れまじと、トップセールスに首相が乗りだした。
だが、原子力技術には、経済政策とは切り離して考えるべき重い問題がある。
広がる原子力の利用と世界の安全を、どう両立させるか。核の拡散防止は21世紀の難問である。商機に走る政府に、そのことへの深慮が見えない。
国際原子力機関によると、これから南アジアや中南米などもふくめ、とくに新興地域で原発の需要が急速に高まる。
40年後の世界では、原発による発電量が、いまの3・5倍を超すという予想もある。
逆にいえば、それだけ核が広くあちこちに散らばり、危険と背中あわせの世界になる。中東はまさにその最前線だろう。
産油国といえども国内で使う電力が増え、輸出にまわせる分が減っている。
やがては来る石油の枯渇も見すえ、再生可能エネルギーについても意識が高まっている。
そこで、日本のお家芸ともいえる省エネや都市環境技術などで力を貸すのはいいことだ。
だが原発は別ものだ。
原子力は発電用に始めたものでも、いつでも核兵器づくりに転用することができ、拡散の危険は渡す国と受けとる国だけの問題にとどまらない。
だから、どんな政治体制の国でも、情報をきちんと公開し、核物質の管理も厳しく監視できるようにせねばならない。
それは絶対君主制を敷くサウジなども例外ではありえない。
ましてや、アラブ諸国の多くにはイスラム過激派がいる。民衆革命を引きがねにした改革のさなかでもある。
災害だけでなく、政変の波が押しよせても、核物質や技術が流出しないよう、しっかり防護策をとらねばならない。
確かに、フランスや韓国などはサウジと原子力協定を結び、PRを始めている。だが米国は核物質を管理するしばりの強い協定を編み出したいと考え、慎重にかまえている。
唯一の被爆国であり、そしていまも福島の原発事故と取り組む日本には、核の不拡散体制の強化についても時間をかけて貢献の道をさぐる責務がある。
それは、地球の安全にかかわる深刻な課題であり、成長戦略の利害のなかで論じる問題ではない。
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