首相外遊と原発 信頼に応え世界で受注を

朝日新聞 2013年05月09日

原発の輸出 まず核不拡散を考えよ

安倍首相がトルコとアラブ首長国連邦を訪れ、原発の輸出に道を開く協定が署名された。サウジアラビアとも将来の協定を含めた話しあいを始める。

中東ではいま、原発の計画があいついでいる。その受注争いに遅れまじと、トップセールスに首相が乗りだした。

だが、原子力技術には、経済政策とは切り離して考えるべき重い問題がある。

広がる原子力の利用と世界の安全を、どう両立させるか。核の拡散防止は21世紀の難問である。商機に走る政府に、そのことへの深慮が見えない。

国際原子力機関によると、これから南アジアや中南米などもふくめ、とくに新興地域で原発の需要が急速に高まる。

40年後の世界では、原発による発電量が、いまの3・5倍を超すという予想もある。

逆にいえば、それだけ核が広くあちこちに散らばり、危険と背中あわせの世界になる。中東はまさにその最前線だろう。

産油国といえども国内で使う電力が増え、輸出にまわせる分が減っている。

やがては来る石油の枯渇も見すえ、再生可能エネルギーについても意識が高まっている。

そこで、日本のお家芸ともいえる省エネや都市環境技術などで力を貸すのはいいことだ。

だが原発は別ものだ。

原子力は発電用に始めたものでも、いつでも核兵器づくりに転用することができ、拡散の危険は渡す国と受けとる国だけの問題にとどまらない。

だから、どんな政治体制の国でも、情報をきちんと公開し、核物質の管理も厳しく監視できるようにせねばならない。

それは絶対君主制を敷くサウジなども例外ではありえない。

ましてや、アラブ諸国の多くにはイスラム過激派がいる。民衆革命を引きがねにした改革のさなかでもある。

災害だけでなく、政変の波が押しよせても、核物質や技術が流出しないよう、しっかり防護策をとらねばならない。

確かに、フランスや韓国などはサウジと原子力協定を結び、PRを始めている。だが米国は核物質を管理するしばりの強い協定を編み出したいと考え、慎重にかまえている。

唯一の被爆国であり、そしていまも福島の原発事故と取り組む日本には、核の不拡散体制の強化についても時間をかけて貢献の道をさぐる責務がある。

それは、地球の安全にかかわる深刻な課題であり、成長戦略の利害のなかで論じる問題ではない。

読売新聞 2013年05月06日

トルコ原発受注 官民でインフラ輸出の加速を

トルコが計画する原子力発電所の建設を、三菱重工業と仏原子力大手アレバの企業連合が受注することになった。

安倍首相とトルコのエルドアン首相が首脳会談で合意し、両国は輸出の前提となる原子力協定にも調印した。

首相が自らトップセールスした経済外交の成果を評価したい。

2011年の東京電力福島第一原発事故後、民主党政権が「脱原発」を掲げたため、受注の決まっていたベトナムの案件も含め、原発輸出の停滞が懸念された。

官民の連携で輸出が決まるのは事故後で初めてだ。

安倍内閣が、原発輸出を推進する姿勢を明確にしたことで、巻き返しに成功した。

今回の受注は、原発4基を新設する2兆円の大型案件だ。中国や韓国と競争の末、耐震性など日本の技術力が評価された意義は大きい。これを機に、原発輸出に弾みがつくことが期待される。

2035年までに世界で建設される原発は、エネルギー需要の増えるアジアや中東を中心に約180基にのぼるとの試算もある。

巨額の外需獲得が見込める原発などのインフラ(社会基盤)輸出は、人口減少で国内市場が縮小する日本にとって、成長戦略の切り札といえる。

新興国の原発建設には政府が強く関与し、援助や安全保障を絡めた交渉になる例が多い。首脳が売り込みをかけるロシアなど、ライバルに後れを取りかねない。

日本政府が今後も前面に出て、公的金融などを駆使した総合的な政策支援を行うべきだ。

政府は3月、関係閣僚による「経協インフラ戦略会議」を設け、原発ビジネスの展開などについて論議を始めたばかりだ。民間と緊密に連携し、実効性のある施策を打ち出してもらいたい。

気がかりなのは、日本の中長期的な原発政策の方向性が、あいまいなことである。

日本製の原発を海外に熱心に売り込む一方、日本国内では新増設しないというのでは、相手国の信頼は得られまい。

国内の古くなった原発を順次、安全性の高い最新型に更新することで原子力技術は一段と向上し、優秀な人材も育つ。原発を主要電源として活用し続ける現実的なエネルギー戦略を、政府は明確に打ち出さなければならない。

福島第一原発事故の知見で安全性を高めた原発を輸出し、運用にも協力する。これが日本に求められる責務のひとつである。

産経新聞 2013年05月06日

首相外遊と原発 信頼に応え世界で受注を

安倍晋三首相の中東歴訪は、高い成長が見込まれる新興市場を官民一体で開拓する大きな足がかりを築いた。とくに原発輸出では具体的な成果を挙げた。

サウジアラビアでは、原発輸出の前提となる原子力協定の将来の締結で合意、アラブ首長国連邦(UAE)とは協定に署名した。

トルコでは、協定締結に加え、三菱重工業・仏アレバ連合への原発建設の排他的交渉権が与えられ、事実上の受注が決まった。

日本は、同じ地震国のトルコはじめ各国で技術が評価されていることを自覚し、福島第1原発事故の経験を生かして、海外での信頼に応える必要がある。そのためにも国内の原発再稼働を躊躇(ちゅうちょ)してはならない。

安倍首相はトルコでの記者会見で、「過酷な教訓を世界と共有し、原子力安全の向上に貢献していくことは日本の責務だ」と述べ、今後も原発の輸出を積極的に進めていく考えを示した。

現在、世界で約430基の原発は2030年までに最大800基に増える。新興国の電力需要増で新設計画が相次ぐからだ。

サウジ、UAEは世界でも有数の産油国だが、資源温存のため原発の導入を急いでいる。原発を極度に危険視し、火力に頼って大量の化石燃料を輸入し続ける現在の日本の姿は異常というべきだ。

原発輸出は、国内での新設が難しくなっている中、技術、人材を維持する上でも重要だ。

政府が6月に策定する成長戦略では、海外市場の成長を日本に取り込むことを目指している。原発などインフラビジネスは日本の産業界の強みを発揮できる。首相がトップセールスを行った今回の中東歴訪をモデルに、官民一体で受注拡大に当たってほしい。

安倍首相はサウジとUAEで、外交・防衛当局の安保対話を始めることで合意した。シーレーン(海上交通路)防衛などについて連携を深める狙いがある。

従来の中東外交は、資源の安定調達が中心だったが、今回はビジネス、安全保障、人的交流など幅広い分野の協力が確認された。

中東地域は、シリア内戦など不安要因を多数抱えている。日本にとって選択肢は限られるが、死活的な利益に関わる地域であることを認識し、難民支援など可能な限りの貢献を進めるべきだ。

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