再スタートを切る土台は、ひとまずできた。将来の日ロ関係を見すえ、交渉を着実に進めなければならない。
ロシアを公式訪問した安倍首相が、プーチン大統領と会談した。長らく実質的な協議が中断してきた北方領土交渉を再開すること、その加速化を図ることで合意した。
共同声明は、戦後67年間も平和条約が結ばれていない状態を「異常」と指摘。両首脳が、両国外務省に「相互に受け入れ可能な解決」に向けて定期的に指示を出す仕組みができた。
両首脳が指導力を発揮し、政治の責任で交渉を前に進めようという意欲は評価したい。
領土交渉の停滞で冷え込んだ両国関係は、昨年春に大統領に復帰したプーチン氏が「引き分け」による領土問題打開を主張したことで風向きが変わった。
だが、領土問題での立場の隔たりは大きい。
北方四島の返還を求める日本に対し、ロシア側は「第2次世界大戦の結果、ロシアへの帰属が確定した」との立場を崩していない。プーチン氏も、歯舞、色丹二島の引き渡しで決着を図る意向を示してきた。
一方、今回の会談は、四島の帰属協議を明記した2003年の「日ロ行動計画」を含む過去の文書、合意に基づき平和条約交渉をすることを再確認した。
10年前に戻っただけとはいえ、最近のロシア側の言動からみれば、前向きな変化と取れる。会談でプーチン氏は、面積等分方式によるロシアの領土問題の解決例にも言及した。
今後の交渉では、国後、択捉も含めた四島帰属の実質的な協議へとつなげたい。
重要なのは、領土交渉と並行して、経済など利害を共有できる分野の協力を拡大していくことである。
会談では、福島第一原発事故後に需要が急増した天然ガスのロシアからの輸入のほか、日本への電力供給、再生可能エネルギー開発など多様な分野での協力の可能性が指摘された。
ロシア側が関心を示している医療、都市環境、省エネなどでの対ロ協力は、日本の成長戦略にも寄与する。
安全保障面では、強大化する中国や、北朝鮮の核問題などをめぐり、日ロが連携を深めることが急務だ。今回、立ち上げが決まった外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の枠組みを大いに活用したい。
関係が質的に高まれば、国民同士の距離も近づく。将来、指導者同士が政治決断をする環境づくりにもつながろう。
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