日ロ領土交渉 再出発の土台はできた

朝日新聞 2013年05月01日

日ロ領土交渉 再出発の土台はできた

再スタートを切る土台は、ひとまずできた。将来の日ロ関係を見すえ、交渉を着実に進めなければならない。

ロシアを公式訪問した安倍首相が、プーチン大統領と会談した。長らく実質的な協議が中断してきた北方領土交渉を再開すること、その加速化を図ることで合意した。

共同声明は、戦後67年間も平和条約が結ばれていない状態を「異常」と指摘。両首脳が、両国外務省に「相互に受け入れ可能な解決」に向けて定期的に指示を出す仕組みができた。

両首脳が指導力を発揮し、政治の責任で交渉を前に進めようという意欲は評価したい。

領土交渉の停滞で冷え込んだ両国関係は、昨年春に大統領に復帰したプーチン氏が「引き分け」による領土問題打開を主張したことで風向きが変わった。

だが、領土問題での立場の隔たりは大きい。

北方四島の返還を求める日本に対し、ロシア側は「第2次世界大戦の結果、ロシアへの帰属が確定した」との立場を崩していない。プーチン氏も、歯舞、色丹二島の引き渡しで決着を図る意向を示してきた。

一方、今回の会談は、四島の帰属協議を明記した2003年の「日ロ行動計画」を含む過去の文書、合意に基づき平和条約交渉をすることを再確認した。

10年前に戻っただけとはいえ、最近のロシア側の言動からみれば、前向きな変化と取れる。会談でプーチン氏は、面積等分方式によるロシアの領土問題の解決例にも言及した。

今後の交渉では、国後、択捉も含めた四島帰属の実質的な協議へとつなげたい。

重要なのは、領土交渉と並行して、経済など利害を共有できる分野の協力を拡大していくことである。

会談では、福島第一原発事故後に需要が急増した天然ガスのロシアからの輸入のほか、日本への電力供給、再生可能エネルギー開発など多様な分野での協力の可能性が指摘された。

ロシア側が関心を示している医療、都市環境、省エネなどでの対ロ協力は、日本の成長戦略にも寄与する。

安全保障面では、強大化する中国や、北朝鮮の核問題などをめぐり、日ロが連携を深めることが急務だ。今回、立ち上げが決まった外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の枠組みを大いに活用したい。

関係が質的に高まれば、国民同士の距離も近づく。将来、指導者同士が政治決断をする環境づくりにもつながろう。

産経新聞 2013年05月05日

北方領土2等分 「妄言」には惑わされるな

プーチン露大統領が安倍晋三首相との首脳会談で、中国やノルウェーとの領土・境界画定問題にふれ、係争地の面積を2等分する方式で解決したことを強調した。

プーチン氏はこの決着方式に触れた際、北方領土問題に絡めることをしなかったとはいう。

強く訴えたい。プーチン発言の意図がどこにあれ、真剣に検討、忖度(そんたく)したりするだけで、日本の世論分断をはかるロシアの思うつぼになることだ。愚挙は絶対に避けなければならない。

「面積等分論」は、麻生太郎副総理が外相時代の2006年に言及した。現内閣官房参与の谷内正太郎元外務事務次官も09年、「個人的には3・5島返還でもいい」と発言したとされる。森喜朗元首相が「3島返還」の段階的解決案を示唆したのは今年1月だ。

歴史的経緯を無視した妄言が消えては現れる事態が続いていることは極めて遺憾だ。北方四島は日本固有の領土であり、第二次世界大戦終結時にソ連が日ソ中立条約を破棄して武力で不法占拠したことは動かしがたい事実だ。

領土は数合わせや折半する類いのものではなく、日本が譲歩すべき理由は何一つない。惑わされれば、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や竹島(島根県隠岐の島町)をめぐる対立で、中韓両国に足元を見られかねない。

プーチン氏は首相と、領土交渉を加速化させることで合意したが、真摯(しんし)に解決に努める姿勢は見受けられないことは残念だ。

最初に大統領に就任した00年以降、領土交渉は一歩たりとも前進していない。北方領土ではロシア側が軍備を強化し、米韓など第三国の企業の進出も続く。解決したいと本当に望むのであれば、こうした動きに待ったをかけるのが筋というものだ。

安倍首相は、「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という基本姿勢を改めて国民に強調し、返還実現に向けて国論を引き締めてほしい。「個人的な信頼関係が生まれた」と語った以上、忌憚(きたん)のない意見をプーチン氏にぶつけてもらいたい。

日露首脳は会談後の共同声明で、両国関係の将来を「相互信頼と互恵の原則」という言葉で規定した。プーチン氏は国内政治では強権的な手法を駆使しているが、北方領土問題でも、強い指導力を発揮してもらいたい。

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