五輪のホストとしてふさわしいのか。その資格を疑わせる、非常識な発言である。
東京都の猪瀬直樹知事が米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、2020年五輪招致をめぐり、他の立候補都市を中傷するような発言をした。
「イスラム諸国が共有しているのはアラー(神)だけで、お互いにけんかをしている。そして階級がある」。イスタンブール(トルコ)が初のイスラム圏開催をめざしており、そこを念頭に置いていたのは明らかだ。
問題発言は、インタビューの終了間際の雑談中に出たようだ。批判を受けた知事は「誤解を招く不適切な表現で、おわびしたい。認識が甘かった」と謝罪し、発言を撤回した。だが、それで片付くものではない。
そもそも、五輪精神を持ち出すまでもなく、多文化社会の価値への配慮を欠いている。
知事は「トルコに行ったこともあり、イスタンブールは個人的にも好きな都市である」と釈明した。実際に現地を訪れて、米紙の質問にこたえたのと同じように語れるだろうか。
親日の国で知られるトルコ国民をはじめ、イスラム教を信じる人々の感情を逆なでする失言が、国際都市東京のトップから飛び出すとは何とも情けない。
20年五輪招致を引っぱる立場であることを考えると、その逸脱ぶりは、なおのことだ。
国際オリンピック委員会(IOC)は招致の行動規範で、立候補都市が他都市の批判や比較をしないよう定めている。それに抵触する可能性が大きい。
五輪のシンボルマークは、5大陸の団結と世界中のアスリートが一堂に集うことを表している。五輪憲章は「人種、宗教、政治、その他の理由にもとづく国や個人に対する差別と相いれない」とうたっている。
昨夏のロンドン五輪は、国連加盟の193カ国を上回る、204カ国・地域の選手たちが競いあった。東京で開催することになれば、さまざまな違いをもつ人たちを招く立場になる。
20年五輪の開催都市は9月7日のIOC総会で決まる。東京への招致のハードルは一段と高くなることだろう。
失言の矛先はもうひとつの候補都市、マドリード(スペイン)にも向けられた。
「選手にとって一番いい場所はどこか。インフラが整っておらず、洗練された施設もない二つの国と比べて下さい」と、東京の優位性をアピールした。
五輪精神の逆を向くような発言は、招致の成否にかかわらず、日本にマイナスである。
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