参院山口補選 「夏」意識して争点示せ

毎日新聞 2013年04月11日

参院山口補選 「夏」意識して争点示せ

政権の勢いが試される場面だ。安倍内閣発足後初の国政選挙となる参院山口補選が11日、告示される(28日投開票)。4氏が出馬を予定、自民党公認候補と民主党推薦候補による事実上の「自・民」対決となる。

自民党が安倍内閣の経済政策の実績を訴える一方で、民主党は原発の新設問題などエネルギー政策の争点化もうかがい、憲法に関しても論戦が活発化する兆しをみせている。夏の参院選に向けた政策論争の重要な試金石となろう。

石破茂幹事長が「圧倒的な支持」を訴えるように、圧勝以外は勝利でないかのようなプレッシャーが自民党に働いても不思議でない構図だ。山口はもともと保守王国で、安倍晋三首相のお膝元だ。自民公認候補はすでに60を超す各種団体から推薦を得て、厚い組織に支えられる。

毎日新聞の世論調査で自民党の支持率は39%という高水準にある。補選とはいえ金融緩和など一連の経済運営、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加方針への地方の反応など、「政権100日」の評価が問われることは間違いない。

対照的なのは民主党だ。平野達男前復興相ら離党ドミノが収まらず、今や参院第1党の地位も危うい。無所属推薦の形で元法相を擁立したが日本維新の会やみんなの党との共闘も実現せず、結局は党を前面に出す苦しい展開と言える。

だからといって舌戦のテーマが乏しいわけではない。中国電力上関原発(山口県上関町)建設計画をめぐり同県の山本繁太郎知事は予定地の公有水面埋め立て免許延長にかつて不許可を明言していた。ところが、ここにきて判断を先送りしている。

安倍政権は民主党政権が掲げた「30年代に原発ゼロ」方針を見直している。東電福島第1原発の汚染水漏れは、ひとたび事故が起きればいかに取り返しがつかないかという深刻さを改めて露呈した。原発計画の是非に加え、責任あるエネルギー政策の方向を改めて論ずるべきだ。

「憲法」も論戦本格化の契機たりえる。菅義偉官房長官は首相が意欲を示す96条改正が夏の参院選の争点になるとの見通しを示した。

一方で民主党の細野豪志幹事長は維新の会が綱領で現憲法を「日本を孤立と軽蔑の対象におとしめた」と断じたことと、首相が第1次内閣で掲げた「戦後レジームからの脱却」という考えには似た点があるとして批判、憲法観の争点化に意欲をみせているようだ。

議論を深めるには首相が維新の会のような憲法観をどう評価し、民主党が96条改正にどう対応するかをより明確にする必要がある。論戦は次期参院選の争点に大きく影響するものと自、民両党は心得てほしい。

読売新聞 2013年04月29日

参院山口補選 安倍政権の勢い映した前哨戦

発足から4か月を経た安倍政権の勢いを、そのまま反映したかのような結果である。

第2次安倍内閣の発足後、初の国政選挙となった参院山口選挙区補欠選挙は、自民党公認の新人、江島潔氏が民主党などの推薦で元法相の新人、平岡秀夫氏らを大差で破った。

山口県は、安倍首相の地元で、衆院全選挙区を自民党が独占する「保守王国」だ。江島氏は公明党の推薦も取り付けて、選挙戦を終始優位に展開した。

首相もお国入りし、「今進んでいる道以外にデフレからの脱却はできない。長州から日本を取り戻そう」と、県民の景気回復への期待感に訴えた。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まり、中国が領海侵入などを繰り返す中、安倍政権の日米同盟の立て直しを急ぐ姿勢も、江島氏への追い風になったといえよう。

一方、平岡氏は「自民党に対抗する政治勢力の結集」を掲げ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」や、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加、憲法改正の方針をことごとく批判した。だが、支持は広がらずに終わった。

民主党を中心に「無所属・党推薦」候補を擁立し、野党各党が結束して自民党と戦う、という構図も作り切れなかった。

平岡氏は、民主党の菅元首相らの支援を受け、山口県内で中国電力が進める上関原発の建設計画を争点に据えようと、「脱原発」を主張した。社民党やみどりの風との共闘を図ったものの、主要な争点にならなかったといえる。

代替エネルギー確保の見通しもなく、原発を否定するだけでは説得力を持たなかったのだろう。

民主党の海江田代表は、山口補選を都議選や参院選への前哨戦と位置づけ、「山口の地から『安倍政治ノー』という声をあげたい」と訴えたが、浸透しなかった。

民主党は、参院選戦略の練り直しが迫られよう。

今回の補選の結果、参院の自民党会派は1議席増える。民主党で離党者が相次いでいることもあって、参院では近く、最大会派の民主党と自民党の議席がそれぞれ84で並ぶ見通しだ。

国会運営でも、民主党の発言力低下は避けられない。

参院選に向け、もはや民主党の看板では戦えないと考える議員がさらに出てくる可能性もある。

民主党は衆院選惨敗から立ち直るどころか、むしろ混迷を深めるばかりだ。なぜ支持を回復できないのか、現状を直視すべきだ。

産経新聞 2013年04月29日

参院山口補選 民主党の立て直し急務だ

参院山口補欠選挙は自民党の新人が民主党の推す前衆院議員ら3氏に圧勝した。安倍晋三内閣発足後初の国政選挙に与党が勝利したことは、経済再生や閣僚らの靖国神社参拝をめぐる毅然(きぜん)とした姿勢が広く支持されたことを意味する。

安倍首相は憲法改正の発議要件を定めた96条の緩和を参院選の公約にすると明言している。国のありようなどを見直し、国益を貫こうとする対応は評価したい。

問題は、補選を7月の参院選の前哨戦と位置付け、海江田万里代表や細野豪志幹事長らが相次いで現地入りしながら、存在感を示せなかった民主党である。

民主党政権として国政を迷走させたことに対する国民の不信を拭えていない。再び政権を目指そうとするなら、参院選前に党立て直しのあり方を考え直すべきだ。

そもそも民主党系候補が無所属で出馬したこと自体、衆院選惨敗の後遺症から抜け出せていないことを示す。離党者は止まらず、補選敗北により参院の会派勢力はほぼ自民党と並ぶ。

敗れた平岡秀夫元法相は、「反自民勢力の結集」を唱えて民主党公認を受けなかった。党本部も苦戦必至の選挙とみて公認にこだわらなかった。中途半端な選挙態勢だったのは否めない。支持団体の連合山口も、支援を「推薦」より弱い「支持」にとどめた。

選挙対応だけではない。海江田氏は自民党が打ち出す憲法96条改正に反対を表明した。急ぐべきは党として憲法改正の具体論をまとめることだ。批判のための批判のレベルにとどまっていては、国民の信頼は取り戻せない。

補選では菅直人元首相が現地入りし、中国電力の上関原発計画に反対するデモに参加するなど「反原発」色を出した。民主党は実現の道筋を描けぬまま「原発ゼロ」戦略を掲げ、有権者の支持を得られなかった。無責任なスローガンが放置されていないか。

補選に参加しなかった日本維新の会も、さきの兵庫県宝塚、伊丹両市長選で公認候補が惨敗し、大阪以外での力不足を露呈した。民主党と一緒になって、衆院「0増5減」の定数是正に反対していることが、支持を失う要因になっているのではないか。

政権の受け皿は民主主義に不可欠だ。政策を軸とした参院選戦略の練り直しが急務である。

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