靖国と韓国 外相の訪日中止は残念だ

朝日新聞 2013年04月24日

靖国問題 政治家は大局観を持て

日本はいったい、何を考えているのか。この国の為政者全体の国際感覚が、そう疑われても仕方がない。

安倍政権の3閣僚に続いて、与野党の国会議員がきのう、大挙して靖国神社を参拝した。

「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」によると、その数168人。人数の把握を始めた87年以降で最多という。

政府や党の要職にある議員たちも多く加わった。国会議員の参拝数は、昨年の同じ時期と比べると、一気に倍増した。

隣国の神経を逆なでする行動が流行のように政治家に広がることを憂慮せざるを得ない。

参拝問題をめぐる日韓の摩擦の再燃について、米国務省の報道官も「対話で違いを乗り越えてほしい」と苦言を呈した。

自民党の高市早苗政調会長は「外交問題になる方が絶対おかしい」と語ったが、それはあまりにも独りよがりの発想だ。

外交とは、国同士の相互関係で紡ぐものであり、一方が問題ないと片づけることはできない機微にふれる問題なのである。

歴史問題をめぐる政治家らの思慮を欠く対応は、私たち日本自身の国益を損ねている。

北朝鮮に対する日米韓のスクラムでは、日韓のパイプが目づまりしてきた。さらに歴史問題がこじれれば、軍事情報の交換をめぐる懸案の協定も結べず、チームワークは進まない。

日中韓をめぐっては、自由貿易協定論議が遠のくだけではない。日本を置いて、韓国は中国への傾斜を強めている。

来月に外遊を始める朴槿恵(パククネ)大統領はまず米国を訪れ、その次は日本ではなく中国を考えている。歴代政権で異例のことだ。

北東アジアの多国間外交において、日本の孤立を招きかねない事態を、安倍首相はじめ政治家はどう考えているのか。

首相が立て直したと自負している米国との関係も誤解してはならない。オバマ政権は従軍慰安婦問題をめぐる「河野談話」の見直しや、尖閣諸島問題をめぐる不用意な言動を控えるよう安倍政権に警告してきた。

国内の一部の感情を優先して近隣外交を揺らすような日本の姿は、米国にとっても信頼に足る同盟国とは言えない。

だからこそ安倍首相は2月の訪米時に、アジアとの関係を重んじる決意を誓ったのではなかったか。「地域の栄えゆく国々と歩みをともにしてゆくため、より一層の責任を負う」と。

何よりも肝要なのは、中国、韓国との信頼関係づくりに歩を進めることだ。国を思うなら真の大局観を失ってはならない。

読売新聞 2013年04月24日

閣僚の靖国参拝 外交問題化は避けるべきだ

日本政府には予想外の反応だった、ということではないか。

韓国の尹炳世外相が、26、27日に予定されていた日本訪問を中止した。麻生副総理ら閣僚3人の靖国神社参拝に対し、「侵略戦争の美化」と反発したためだ。

尹外相の来日は、5月下旬の日中韓首脳会談が中国の消極的姿勢で見送られる見通しとなる中で、議長国として会談開催の環境整備を図ろうとしたものだった。

緊張の高まる北朝鮮の核・ミサイル問題での日韓連携に加え、李明博前大統領の竹島訪問などで悪化した日韓関係を朴槿恵大統領の下で改善する機会でもあった。

それだけに、尹外相の来日中止は残念である。

韓国の外交姿勢には疑問が残る。従来、小泉首相の靖国参拝に反発して盧武鉉大統領が訪日を見合わせたことはあっても、閣僚の靖国参拝をここまで外交問題にしたことはなかった。

日本政府が、歴史認識をめぐる問題について「それぞれの国にはそれぞれの立場があり、影響を外交に及ぼすべきではない」と主張するのは、その通りだ。

戦没者をどう追悼するかは他国に指図される問題ではない。立場の相違を外交全体に極力影響させない努力が双方に求められる。

一方、菅官房長官は「靖国参拝は心の問題だ」と語り、麻生氏ら閣僚の参拝をことさら問題視しない考えを示している。

しかし、麻生氏らの靖国参拝が日韓関係に悪影響を与えたことは否定できない。政治も外交も重要なのは結果であり、「心の問題」では済まされない。麻生氏は副総理の要職にある以上、より慎重であるべきではなかったか。

首相は、かつて第1次安倍内閣時代に靖国参拝できなかったことを「痛恨の極み」と述べたが、歴史問題が外交に悪影響を与えないよう細心の注意を払って政権運営してもらいたい。

尖閣諸島の問題で日中関係が険悪になる中、まず日韓関係を改善することは、安倍外交にとって最優先の課題であるはずだ。

靖国神社参拝をめぐる問題の根底には極東国際軍事裁判(東京裁判)で処刑された東条英機元首相ら「A級戦犯」が合祀(ごうし)されていることがある。韓国や中国だけでなく、日本国内にも戦争を招いた指導者への厳しい批判がある。

誰もが、わだかまりなく戦没者を追悼できる国立施設の建立に向け、政府は議論を再開することも考えるべきだろう。

産経新聞 2013年04月25日

靖国参拝 「祈りの文化」で屈するな

靖国神社に麻生太郎副総理兼財務相ら3閣僚が参拝したのに続いて、国会議員168人が春の例大祭に参拝した。

平成に入ってから最多である。これに対しても、中国と韓国が反発している。不当な内政干渉というしかない。

安倍晋三首相は参院予算委員会で、「国のために尊い命を落とした英霊に対して尊崇の念を表するのは当たり前だ。閣僚はどんな脅かしにも屈しない。その自由は確保していく」と述べた。

内政干渉に屈しない強い決意の表れと受け止めたい。

中国外務省の報道官は「どんな方法、どんな身分であっても、参拝は日本の軍国主義的な侵略の歴史を否定するものだ」と述べ、安倍首相が靖国神社に真榊(まさかき)を奉納したことも暗に批判した。

しかし、日本と中国が国交を回復した昭和47(1972)年の日中共同声明は、第6項で「内政に対する相互不干渉」をうたっている。中国の非難は、この共同声明に明らかに違反している。

韓国も外相訪日中止に続いて、外務省報道官が国会議員の靖国参拝について「関連国の国民にどのような思いをさせるか、深い反省があるべきだ」と批判し、靖国神社を「戦争を美化している所だ」と決めつけた。

いわれなき非難だ。日韓間においても、相互に内政干渉しないことは基本である。

残念なのは、中韓両国の日本の閣僚や国会議員の靖国参拝の有無を常に外交交渉に結びつけるやり方だ。国内で抱えている多くの難題に対し自国民から不満の声があがるのを、靖国問題に抗議することによってそらそうとしているように見えてしまう。

日本国内にも一部に、政治家らの参拝をことさらに問題視して、紛争の「火種」にしようとする動きがある。

繰り返すまでもないが、戦死者の霊が靖国神社に、また地方の護国神社・忠霊塔に祭られ、その霊に祈りをささげるのは、日本の儀礼であり伝統文化だ。慰霊は公人、私人を問わない。それは日本人の心のあり方である。

これまで日本政府は、毎年1回の靖国参拝を続けた小泉純一郎政権を除き、靖国問題で中韓両国に不必要な譲歩を重ねてきた。安倍政権は今度こそ、両国につけいるスキを与えてはならない。

朝日新聞 2013年04月23日

靖国問題 なぜ火種をまくのか

近隣諸国との関係改善が必要なときに、安倍政権はいったい何をしているのか。

麻生副総理・財務相ら3閣僚が、春季例大祭に合わせて靖国神社を参拝した。安倍首相は参拝を控えたが、神前に捧げる供え物「真榊(まさかき)」を奉納した。

これに反発して、韓国は今週末に予定していた尹炳世(ユンビョンセ)外相の訪日を取りやめた。中国外務省も日本に「厳正な申し立て」をしたと発表した。

菅官房長官は会見で「影響を外交に及ぼすべきではない」と語った。だが、靖国参拝は歴史認識に関わる問題であり、両国の反発は当然、予想されたはずである。

日本外交にとって、いま最も優先すべき課題のひとつは、核・ミサイル問題で挑発を強める北朝鮮に日中韓が結束して当たることだろう。韓国外相の来日もその調整の一環だった。

たしかに、日本と中韓両国とは尖閣や竹島問題をめぐって緊張が続いている。中国の監視船が尖閣周辺の日本領海を侵犯するなどの行為に対して、抗議するのは当然だ。

同時に、首相自身が「大局的な観点から関係を進める」と語ったように、粘り強く関係修復をはかる。そうした微妙な時期である。

それを、靖国問題でことを荒立てるのでは、方向が逆ではないか。

これによって関係改善が遠のくようなことになれば、国益を損なうだけだ。

首相はもともと靖国参拝が持論だ。だが、第1次安倍内閣のときは参拝を見送り、悪化していた両国との関係を打開した経緯がある。

今回、首相は閣僚の参拝について「自由意思に基づいて行うことだ」と、それぞれの判断に任せたという。自身が参拝しなければ乗り切れると思っていたとすれば、甘すぎると言わざるを得ない。

首相は再登板後も、歴史問題をあまり前面に出さず、経済再生を優先してきた。

しかし、このところ気になる言動が目立ち始めている。

2月の国会答弁では「(前回の)首相在任中に靖国参拝できなかったのは痛恨の極みだ」と語った。

きのうの国会では、過去の植民地支配と侵略へのおわびと反省を表明した村山談話について「安倍内閣として、そのまま継承しているわけではない」と述べた。

高い支持率で、緊張感が薄れているのではないか。閣僚の言動も含め、自制を求めたい。

産経新聞 2013年04月23日

靖国と韓国 外相の訪日中止は残念だ

韓国外務省当局者が、今月末をメドに日本と調整していた尹炳世(ユンビョンセ)外相の訪日と岸田文雄外相との会談を中止することを明らかにした。また、韓国外務省は、安倍晋三首相が靖国神社に真榊(まさかき)を奉納したことや麻生太郎副総理兼財務相ら3閣僚が靖国神社に参拝したことに「深い憂慮と遺憾を表明する」との論評を発表した。

外相の訪日中止は、首相の真榊奉納などに対する抗議の意思表示とみられる。極めて残念で大人げない韓国の対応である。

尹氏の訪日と日韓外相会談は、日中韓3カ国外相会談の見通しが立たないことから、韓国側が積極的に進めていたとされる。

日韓間には、北朝鮮の核、ミサイル問題や拉致問題など、共通する重要課題が山積している。

尹氏は今月の韓国国会で、朴槿恵政権の対日政策について、歴史・領土問題で譲歩しないとしつつ、「これとは別に、両国の互恵的な分野や人的交流分野では(協力を)続ける」と述べている。

日本と同じ自由を重んじる価値観を持つ隣国として、成熟した対日外交を求めたい。

安倍首相が奉納した真榊は、祭場を装飾する供え物だ。以前は、首相の靖国神社参拝と真榊奉納が普通に行われていた。首相自身、第1次安倍内閣の平成19年4月に奉納し、麻生氏も首相だった20年10月と21年4月に奉納した。靖国神社にまつられる戦死者の霊に哀悼の意をささげる行為だ。

靖国神社には、古屋圭司国家公安委員長と加藤勝信官房副長官も春の例大祭に合わせて参拝した。新藤義孝総務相は例大祭前日の20日に参拝した。古屋氏は参拝後、「国のために命をささげた英霊に哀悼の誠をささげるのは国会議員として当然だ」と述べた。

民主党前政権では、閣僚に靖国参拝の自粛が求められた。安倍首相は各閣僚の自由意思に委ねた。当然の対応である。

戦死者の霊が靖国神社にまつられ、その霊に国民が祈りをささげるのは日本の文化であり、伝統だ。外国は日本人の心に介入すべきではない。内政干渉しないことは両国関係の基本である。

安倍首相は今月の予算委員会で靖国参拝について「私が指導者として尊崇の念を表することは国際的にも当たり前のことだ」と述べた。終戦の日の8月15日や秋の例大祭の首相参拝を期待したい。

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