G20共同声明 円安だけに頼れぬデフレ脱却

朝日新聞 2013年04月21日

G20会議 世界の認識は甘くない

日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が打ち出した「異次元」の金融緩和とこれに絡む円安ドル高の加速が焦点となったワシントンでのG20財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で黒田緩和について「脱デフレと内需支援のため」と一定の理解を示した。

「通貨安競争は避ける」とも言及したが、露骨な日本批判はなく、「G20が円安容認」と受け止めた市場で円が売られ、一時1ドル=100円に迫った。

元財務官の黒田氏は、国際舞台での対話力も買われて総裁に起用された。突っ込みどころに先回りして追及を封じる周到な弁舌で、まずは順当にデビュー戦を飾ったようだ。「アベノミクスは日本復活のため」という日本の公式見解に対する各国の「期待」もつないだ。

ただ、これはあくまで当面の話だ。金融緩和が実体経済の地力回復までの「時間稼ぎ」であるのと同じように、それがアベノミクスの他の政策、とりわけ財政規律の回復と構造改革による成長回復までの時間稼ぎにすぎないことも、浮き彫りになったといえる。

米国景気の回復や新興国経済の変調により、「通貨安競争」の懸念は一時より和らいだ。それでも日本の円安や財政悪化に対する各国の警戒感は根深い。

2月のモスクワ声明と同様とはいえ、国際常識ともいえる「金融政策の対象は国内経済」「国際競争のため為替相場を使わない」などの文言が日本を念頭にあえて繰り返されたこと自体が異例だ。くわえて今回は、財政規律の問題で「日本は信頼できる中期的な計画を定めるべきだ」と名指しされた。

もともとG20は9月にロシアで開く首脳会合(サミット)に向け先進国の財政健全化で新合意を目指す予定だが、「突出した政府債務を抱える日本の異次元緩和が、財政規律を緩ませないか」という、ごく自然な疑問がG20の財政論議を強く促したのは間違いない。

日本は3年前のトロントG20サミットで、あまりに借金が多い半面、増税による歳入拡大の余地も大きいことを理由に、1国だけ例外的な緩い健全化目標を認められた。消費税率を10%に上げることになっているが、それでも国際通貨基金(IMF)は「財政再建には不十分」と警告している。

より確かな財政再建の裏づけを求める世界の圧力は、今後さらに強まろう。財政規律と構造改革に先手先手を打つ覚悟が日本になければ、黒田緩和は単なる「円安誘導への方便」と世界が見なす日がいずれ来よう。

読売新聞 2013年04月21日

G20共同声明 円安だけに頼れぬデフレ脱却

日本の大規模な金融緩和策は円安誘導ではないとして、先進国と新興国の理解を得られたことは前進である。

デフレ克服と着実な日本経済再生へ、政府と日銀は一段と重い責任を負った。

日米欧と中国、ロシアなど主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がワシントンで開かれ、共同声明を採択した。

声明はまず、焦点だった日本に言及した。就任したばかりの黒田東彦日銀総裁が打ち出した量的・質的金融緩和策について、「デフレを止め、内需を支えることを意図したものだ」と明記した。

「異次元」の金融緩和策を受けて急激に円安が進み、韓国などが日本を牽制(けんせい)していた。

しかし、金融緩和策はあくまで脱デフレが目的で、輸出拡大を意図した円安誘導ではない。こうした日本の主張が、一定の理解を得られたと評価できよう。

声明は、マイナス成長が続く欧州の信用不安再燃などを踏まえ、「世界経済の成長は引き続き弱すぎる」と厳しい認識を示した。

各国・地域が危機感を共有し、日本の成長強化が世界経済にも有益だと一致したことも、日本への理解につながったようだ。

ただし、前回2月のG20声明に盛り込んだ「通貨安競争の回避」を再確認した点は重要だ。

ひとまず新興国などからの円安批判は避けられたものの、日本が金融緩和策や円安進行に頼るだけでは批判が再燃しかねない。

日本は今後も経済再生策への理解を求め、速やかに脱デフレの成果を出すことが問われよう。

金融緩和、財政政策に続く「3本目の矢」である成長戦略として、安倍首相が若者の能力向上、女性活用、医療産業育成を第1弾とする方針を示した。これを機にさらなる戦略をまとめてほしい。

日米欧の金融緩和策に関連し、声明が「意図せざる負の副作用に留意する」と強調した点も重く受け止めたい。

新興国では、先進国の金融緩和であふれた投機資金が新興国の金融市場などの過熱を招いているという不満がくすぶる。日本は米欧などと連携し、副作用の拡大を警戒する必要がある。

日本の課題として、声明が「信頼に足る中期財政計画を策定すべきだ」と注文したのは当然だ。

日本の財政は先進国最悪の状況である。当面は財政刺激策による経済再生を優先するにしても、中期的な財政再建を怠って信認が揺らぐ事態を避けねばならない。

産経新聞 2013年04月21日

G20声明 脱デフレは日本の責務だ

日本の金融政策に注目が集まった20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、日銀の新たな量的・質的金融緩和などの政策を「脱デフレ目的」と明記した共同声明を発表した。

心配されていた円安誘導批判は盛り込まれなかった。政策の目的と手法が理解を得て評価されたといえ、歓迎したい。

同時に、日本のデフレ脱却がG20はじめ世界経済に対する責務であることもはっきりした。政府、日銀、民間が一体となり、目的達成に邁進(まいしん)しなければならない。

昨秋以降の急速な円安を受けてG20は、2月の会議で共同声明に「通貨の競争的切り下げの回避」を盛り込んでいた。しかし、その後、黒田東彦新日銀総裁が打ち出した「異次元の金融緩和」で円安が加速した。今回、円を標的にした通貨安誘導批判が再燃するかどうかが一つの焦点だった。

会議では麻生太郎財務相と黒田総裁が「金融緩和は脱デフレ策だ」「2%の物価上昇目標達成の手段であり、通貨安を意図していない」と説明し、反論は出なかったという。この結果、前回声明とほぼ同じ文言で、通貨安競争の回避を再確認するにとどまった。

これはG20各国が、日本の最優先課題がデフレ脱却であるとの認識を共有したことを意味している。もはや新興国など一部にある円安批判に、現時点で過度に神経質になる必要はあるまい。

一方で、声明が日本を名指しして「信頼に足る中期財政政策の策定」を求めたことは見過ごせない。異次元緩和では、購入する国債の種類を限定せず、購入額も毎月の新規発行分の7割に及ぶ。

財政規律への懸念がメンバー国や市場関係者に生じても不思議ではない。国内だけでなく、国際的に理解が得られる財政健全化計画を早急に策定する必要がある。

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクスの三本の矢」のうち、1本目の金融政策に続き、2本目の財政出動も平成25年度予算成立のめどをつけることで歩を進めた。世界の目は「3本目の矢」の成長戦略に向いている。

安倍首相は第1弾として雇用、女性の活用、再生医療振興を打ち出した。引き続き、規制改革などで脱デフレと日本経済再生への道筋を示さねばならない。それが、財政規律の確保とともに、G20が日本に与えた宿題である。

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