就活解禁時期 混乱なく繰り下げを

朝日新聞 2013年04月19日

就活する君へ 力をためる時間が要る

大学生活はどうかな。君の先輩たちは企業からの電話待ちでおちつかない毎日だろうか。

就職活動の解禁を今より3カ月遅らせて、3年生の3月にしたい。安倍首相が経済団体に要請する。ニュースを聞いて君はどう思った?

3年間は勉強や学生生活に打ち込めるようになるね。

ただ、長い目でみると、もっと根本的に就活のありかたを見直したほうがいいと思う。

これからは、与えられたものをこなすより、自力で問題を解決する変革の力が要る。そこは大学も経済界も一致している。新興国に追われる立場の日本は付加価値をつけた商品やサービスで勝負するしかない。

ところが、学生は勉強時間が少なすぎて思考力が育たない。在学中は学びに集中できるよう就活に奪われる時間をへらしたい――。政府が解禁時期の後ろ倒しを企業側に働きかけてきたのは、そのためだ。

高校では大学受験、大学では就活。君たちはいつも今やりたいことより、先の対策に追われてばかり。これで自分の考えや個性を持てとは酷だ。

これからは、会社が社員の訓練や能力開発に責任をもってくれる保証はない。正社員にさえなれば、定年まで年功序列。そんな道筋は崩れている。

正社員の解雇規制緩和を政府が論じているでしょ。人材のほしい業界へ、過剰になった業界から即戦力を移しやすくする。そうなれば、企業は一から自前で若手を育てなくていい。厳しいけれどそんな時代だ。

だから君たちには必要な能力を自分でみがく時間が要る。

小手先の就活対策より考える力をきたえないと。労働法制のような身を守る大切な知恵も。それは大学の責任でもある。

企業はどうして新卒にこだわるのだろう。既卒者の採用が普通になれば、大学でたっぷり学んだうえ卒業後に留学やボランティアもできる。骨太な新戦力を雇えるのに。就職が遅くなれば親の負担は増すけれど。

就活の意識調査をしたNPOライフリンクの人から、ある就活生の言葉を聞いたんだ。

就活とは、ルールがわからないまま一人で参加するゲーム。

「リクルーターはいない」と言われたのに、他大学の子には付いた。そんな大人たちの反則行為をみて、若者は社会に出る前から社会に不信を抱く――。やりきれない分析だった。

就活で問われるのは学生の資質だけではない。私たち大人の公正さもみられている。そう心にきざみたい。

毎日新聞 2013年04月10日

就活解禁時期 混乱なく繰り下げを

大学生の就職活動の解禁時期を繰り下げる動きが進み始めた。3年生の12月から始まる就職活動が学業に支障を与えているとして、政府が経済界に働きかけ、経済界も受け入れる動きを見せているからだ。景気低迷と厳しい雇用環境を背景になかなか就職先が決まらず、就職活動が長引いて学生に過度な負担になっていると指摘されており、繰り下げは歓迎すべきだ。政府は今後具体的な中身を詰めて経済団体に正式に要請することになるが、移行期に学生が混乱しないよう政府も経済界も大学も最大限努力してほしい。

就職活動のルールは経団連の倫理憲章が定めている。就職活動の解禁にあたる企業の説明会の開始を大学3年生の12月以降とし、選考活動を4年生の4月以降としているが、政府はいずれも4カ月程度遅らせたい考えのようだ。

当初、経団連は繰り下げに慎重だった。学生が企業を研究する時間を確保するとともに、人気企業に応募が集中して人材を獲得しにくい中小企業にもある程度の選考期間が必要だと説明していた。経団連は2年前に倫理憲章を見直し、就職活動の解禁を2カ月遅らせたことから、その効果を見極めたいという考えもあった。しかし、経済同友会や日本商工会議所のトップが相次いで解禁を遅らせることに賛同し、経団連も「政府から要請があれば、会員企業に周知徹底する」と姿勢を改めた。

見直しの趣旨を企業や学生に十分理解してもらい、納得のうえでルールを変えることが必要だ。採用活動は企業にとっては競争だ。疑心暗鬼に陥り、抜け駆けする企業が続出すれば学生は混乱してしまう。政府は15年3月の卒業者への適用は難しいと考えているようだ。拙速を避けるためにはやむをえまい。

学生が不安に陥らないよう、政府や経済団体、企業は見直しについて情報公開し、周知徹底しなければならない。影響を受ける中小企業は、経済団体や自治体、大学と協力して積極的な情報提供をしたり、インターンシップの機会を提供したりすることも必要になる。

一方、学生は仕事への関心を高め、どのような就職をしたいかなど心の準備を怠りないようにしておくことが求められる。

就職活動は本来なら自由であるべきだが、決めごとがないと企業も学生も混乱してしまうため、便宜的にルールが定められた。企業は将来的には春の新卒一括採用にこだわることなく、秋採用や通年採用を組み合わせた採用の多様化をはかるべきだろう。今回の見直しをきっかけに、経済界や大学がオープンな議論を続けることが必要になる。

読売新聞 2013年04月20日

就活期間短縮 「抜け駆け」で骨抜きにするな

大学生が学業に専念する環境作りが、優秀な人材の育成につながる。就職活動の期間短縮は妥当な措置と言えよう。

大学生の就活を解禁する時期が、「3年生の12月」から「3年生の3月」へ繰り下げられる。面接などの選考開始も、4か月遅い4年生の8月になる。

安倍首相が、米倉弘昌経団連会長ら経済3団体の首脳に要請し、経済界も受け入れを表明した。現在の大学2年生の新卒採用から適用される見通しだ。

就職活動のルールは、経団連が紳士協定の「倫理憲章」で定めている。就活解禁の12月以降、3年生は志望書作成や会社説明会に追われ、欠席も増える。授業に支障を及ぼす現状に、大学などの不満が強いのは当然だろう。

4年生の春からは面接など選考活動も始まる。海外では4年生の夏まで授業のある大学が多い。就活の出遅れを恐れ、海外留学を見送る学生も少なくない。

選考開始が8月になれば、大学生は学業に長く集中でき、留学もしやすくなる。国際的な人材を求める企業にもプラスになろう。

問題は倫理憲章に拘束力も罰則もないことだ。憲章に賛同する企業は、経団連に加盟する約1300社のうち830社にとどまる。外資系をはじめ、憲章に縛られない企業が、解禁前から人材の囲い込みに走る懸念は拭えない。

かつての就職協定も、こうした「青田買い」で骨抜きになり、廃止された。同じ(てつ)を踏まぬよう、経団連は憲章を周知し、賛同会社を増やす努力が要る。企業も学生の学力低下を嘆くばかりでなく、進んで憲章を守るべきだ。

国家公務員総合職の試験は4~6月に実施されている。国が人材を先取りしないよう、日程を見直さなければならない。

学生は短期決戦で内定を取りにくくならないか不安視している。中小企業は、大企業に人気が集中し、人材獲得が一段と難しくなることを心配している。

好業績の中小企業が採用を増やそうとしても志望者は少ない。この「ミスマッチ」を解消するため、政府と企業、大学などが連携を強化する必要がある。

学生にも意識改革を求めたい。インターネットで簡単に志望書を提出できるようになったためか、手当たり次第に大企業に挑むケースが目立つのが気がかりだ。

有名企業への入社を目指す「就社活動」ではなく、働きたい仕事にこだわる本来の「就職活動」で適職を見つけてほしい。

産経新聞 2013年04月20日

就活解禁繰り下げ 採用形態見直しの一歩に

安倍晋三首相の要請を受け、経団連などが就職活動(就活)の解禁時期の繰り下げを受け入れた。長期化する就活は学生の負担が大きい。

企業や大学は連携して学生が学業に専念し、海外留学など自己研鑽(けんさん)を積む環境づくりを進めなければならない。

産業界は、これを契機に現行の新卒一括採用を改め、通年採用や既卒者採用などを積極的に行うべきだ。多様な人材の受け入れが企業の活性化と成長につながることを銘記すべきだ。

現行では、大学生の就活は3年生の12月に解禁される会社説明会に始まる。4年生の4月から選考を受けて10月に内定を得る仕組みだ。経団連は採用活動の指針である倫理憲章を見直し、説明会の解禁を3年の3月に遅らせる方向だ。学生が学業に打ち込む時間が確保されることを歓迎したい。

海外留学を目指す学生にも朗報だ。大学3年で1年の留学を経験しても就活で不利な扱いを受けにくくなる。日本人の海外留学は、10年前に比べて3割も減少している。国際感覚を身につけた人材を育成するため、就活の解禁時期の繰り下げを留学生の増加にもつなげてほしい。

倫理憲章はあくまで紳士協定だ。経団連に加盟していない外資系企業などは指針見直しを無視する恐れがある。憲章が有名無実化すれば、優秀な学生を早期採用する動きが再び横行しかねない。

これを回避するには、より長期間、学業に励んでもらうことの意義を産業界全体で共有しなければならない。採用形態の多様化を含めて意識改革が問われている。

就活の解禁が遅れると、大手企業に続いて始まる中小企業の採用活動への影響も懸念される。大学生の就職内定率を高めるには、企業全体の99%を占める中小企業への就職促進が鍵を握る。政府はこれらの求人情報を大学に提供する仕組みを充実させてほしい。

安倍首相は産業界に対し、働く女性の育児支援のため、育児休業期間を3年に延長することも求めた。企業の活性化には女性や高齢者の活用が不可欠であり、首相の要請を評価したい。

ただ、育休が長期化すれば、円滑な復職に向けた研修などの支援が不可欠だ。女性の活用には子供を預ける保育所などの整備も急がねばならない。政府は総合的な対策を講じる必要がある。

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