ボストンの惨事 無差別テロを断固許すな

朝日新聞 2013年04月20日

米国のテロ 市民の連帯で備える

米国では大リーグの観戦に、かばんは持ちこめない。化粧ポーチなどを除き、球場は手ぶらが原則だ。場外の預かり所は試合後ごったがえすが、野球ファンは神妙にルールを守る。

多くのテロ事件をくぐった米国は長い年月をかけ、公共の場での保安対策を強めてきた。空港や政府機関の検査場の長い列も、日常の見なれた光景だ。

自由を何より尊ぶ国でありながら、生活の利便を少しずつ削ってでも安全の向上をめざす。そんな国民意識は、9・11同時多発テロ以降、いっそう強く米国社会に根づいてきた。

あれから12年。それでもなお惨劇を防げなかった衝撃は大きい。3人が死亡し、170人以上が負傷したボストン・マラソンの爆弾テロは、警戒の網の目をくぐる無差別暴力の脅威を改めて世界に知らしめた。

この事件は重苦しい難題を突きつけている。圧力鍋を使った簡素なつくりの爆弾は、インターネットで得られる知識でだれにでも作れる。

しかもマラソンのような広い市街地で行われる行事では、沿道すべてで持ち物の検査をすることはむずかしい。

自由に立ち入れる場所を限ったり、多くの人々が楽しむ催しを縮小したりすれば、それだけ社会が安全と引きかえに払う代償を高めることを意味する。テロリストの思惑通りだろう。

米国も世界も、市民の自由をできるだけ狭めずに、少数の人間が犯す暴力を防ぐ工夫を尽くさねばならない。

これまでインターネットはテロ組織のネットワーク強化に利用されたとの指摘もあったが、今回はその逆を印象づけた。

事件後、多くの現場映像が捜査当局にもたらされ、有力な情報になっている。だれもが記録の目と情報発信能力を持つ携帯ネット社会の効能だ。

米国のような多文化社会であれ、日本のような比較的均質な社会であれ、無差別暴力を防ぐためのカギは、市民一人一人の意識にある。

日々の暮らしの中で不審な物や異常に気づけば声を上げる。いったん混乱がおきれば助けあう。自然災害への取りくみと同じように、テロ対策を高めるうえでも、市民と市民の連帯感が果たす役割は大きい。

オバマ大統領は追悼集会で、「来年もボストン・マラソンのために、世界はこのすばらしい都市に戻り、より強く走り、より大きな声援を送るだろう」と語り、不屈を誓った。

街の安全をめざす米国市民の模索を日本もともにしたい。

読売新聞 2013年04月18日

ボストン・テロ 市街地イベント警備の点検を

日本人にもなじみの深い伝統ある米国のボストンマラソンを狙った無差別テロだ。多数の人々を死傷させた卑劣な凶悪犯罪は断じて許せない。

スタートから約4時間後、ランナーが続々到着するゴール近くの沿道で2発の爆弾が連続して炸裂(さくれつ)した。8歳の少年ら少なくとも3人が死亡、170人以上が重軽傷を負う惨事となった。

レースには、200人を超す日本人ランナーら約2万3000人が参加し、家族や友人、市民ら大勢の人々が応援していた。

オバマ米大統領は、「罪のない市民を標的にしたテロ行為だ」と非難し、犯人の逮捕と全容解明に全力を挙げる決意を表明した。

米国では、2001年9月11日の同時テロ事件後、初めての爆破テロの発生だ。

米国は同時テロ後、テロ対策の強化を最優先し、多くの事件を未然に防いできた。同時テロの首謀者も潜伏先を突き止め、殺害した。それだけに衝撃は大きい。

テロがなお、現実の脅威として身近に存在していることを痛感させられたからだ。

テロ組織による犯行なのか、単独犯なのか、犯人像は明らかになっていない。米当局は、物証や情報を手がかりに徹底的な捜査を行ってもらいたい。

連邦捜査局(FBI)は、圧力鍋の中に爆薬を詰めた仕掛け爆弾が使用され、黒いナイロン製バックパックに入れられていたとの見方を強めている。

同種の爆弾は、アフガニスタンやインド、パキスタンなどでテロ攻撃によく使われている。製造方法は簡単でも、クギなどの金属を混入するため殺傷力は高い。

ボストンマラソンでは警備に万全を期していたとされる。だが、屋外の市街地イベントでは、手荷物検査や金属探知機での取り締まりを徹底するのは難しい。その警備態勢の脆弱(ぜいじゃく)さが突かれた。

今回のテロは、大規模市民マラソンが定着した日本にとっても人ごとではない。2月の東京マラソンは、3万7000人が走る巨大イベントだった。沿道には170万人が詰めかけた。

日本でも、マラソンに限らず大型イベントの警備でテロに特化した対策を講じる必要があろう。

安倍首相は、「警察が重要施設の警戒警備や、人が多数集まる場所の警備対策の徹底にあたっている」と、安全の確保に最善を尽くす方針を示した。

保安検査が厳しくなっても、テロ防止への協力は欠かせない。

産経新聞 2013年04月23日

ボストンのテロ 総力戦の決着に学びたい

米東部のボストンで3人が死亡した連続爆弾テロ事件が発生から5日目に急転決着した。

実行犯のロシア・チェチェン系の兄弟のうち、兄は逃走中に警官に射殺され、弟も見つかって身柄を拘束された。

追跡の過程で、警官1人が銃撃で死亡したのは極めて残念だ。実行犯によるさらなるテロを防いだ米政府と捜査当局の対応を米国民とともに評価したい。

多数の観衆が集まるボストン・マラソンを標的にした今回のテロは、実行犯に対し、民主主義社会がいかに立ち向かうべきかという観点で、多くの教訓を残した。

オバマ大統領は「米国は悪に対処する」と国民に捜査への協力と情報提供を呼びかけた。米連邦捜査局(FBI)が事件発生の3日後、容疑者の男2人の写真と監視カメラのビデオ映像の公開に踏み切った対応が容疑者の特定につながったのは明らかだ。

追い詰められた兄弟はテロ現場近くで強盗事件を起こし、逃走してからは身柄確保も時間の問題となった。ボストン市当局は地下鉄や鉄道、バスなどすべての公共交通機関の運行を停止した。住民の安全を守るためには必要な強制措置である。

さらに警察当局は、銃撃戦を逃れた弟容疑者が潜伏した人口約40万の街全域を封鎖し、住民に外出を禁じる一方、重武装警官を大量動員し捜索にあたった。一方で、赤外線センサーで弟容疑者の居場所を突き止め、捜査ロボットや特殊閃光(せんこう)弾などハイテク武器を駆使して身柄を拘束した。

犠牲者を最小限にとどめるためには銃撃戦もためらわない。住民の自由を一時的にせよ束縛する。「非常事態令」も躊躇(ちゅうちょ)しない果断さが状況打開につながった。

また、米メディアによれば、FBIは弟容疑者に黙秘権の告知をしなかった。「公共の安全に差し迫った危険のある例外的事例」とする姿勢にも注目したい。

テロは日本でも起こりうる。日本国民にその心構えができているだろうか。捜査のためには、交通機関ストップによる不便も受け入れなければならない。

国民保護法では、緊急事態における私権の制限などに必要な「国民の協力」は「自発的意思に委ねられる」と極めてあいまいだ。

ボストンを教訓に学ぶべき課題は多い。

産経新聞 2013年04月17日

ボストンの惨事 無差別テロを断固許すな

無防備なランナーや観衆を狙ったテロ行為を断固として許すべきではない。ボストン・マラソンを標的にした爆弾テロには、こみ上がる怒りを禁じ得ない。テロを封じ込めるため日本も国際連携に協力し、摘発に向けた態勢強化も急ぎたい。

2回の爆発は優勝ランナーがゴールした約2時間後、そのゴール付近で起きた。まだ多くの市民ランナーが走っており、地元の病院によると負傷者は170人以上で、17人が重体という。犠牲者のなかには、8歳の男児もいた。

米連邦捜査局(FBI)は計画的な爆弾テロ事件とみており、オバマ米大統領は「犯人を突き止め裁きにかける」と述べた。

ボストン・マラソンは現在も続く世界最古のマラソン大会として知られ、日本との縁も深い。君原健二選手ら7人が優勝し、瀬古利彦選手は2度制した。約2万3千人が走った今大会にも200人以上の日本人が参加し、車いすの部では山本浩之選手が優勝した。

世界のマラソンシーズンはいまが佳境だ。21日にはロンドン・マラソンがある。ロンドン警視庁は警備態勢の見直しを始めた。

毎月のように各地でマラソン大会が開かれ、東京都が2020年の夏季五輪を招致している日本にとってもひとごとではない。警察庁も国内の警備を強化するよう全国の警察に指示した。

警備に万全を期すことは当然だが、広範囲の公道を多くのランナーが走り、沿道を観衆が埋めるマラソン大会を完全に守りきることなど、現実には極めて難しい。

まずできることは何か。

テロを憎み、摘発に全力を傾けることだ。海外の関係機関と情報を共有し、テロリストの生息を許さない社会を広げることだ。

法相の諮問機関、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」は、一部の犯罪に限っている「通信傍受」の範囲拡大や、犯罪拠点に機器を設置する「会話傍受」、捜査に協力した場合に刑を軽くするなどの「司法取引」の導入を検討している。

卑劣な無差別テロを未然に防ぐためには、捜査側にも新たな手段が必要だ。

それで十分というわけではないが、ないよりは、ずっといい。考え得るあらゆる手段で、テロから社会を守りたい。ボストンの悲劇を繰り返してはならない。

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