暴力行為調査 「キレる子ども」をなくすには

毎日新聞 2009年12月06日

荒れる子供たち 学校・地域連携で対策を

子供の暴力に先生たちが困惑している。文部科学省の08年度全国小中高校「問題行動」調査で、暴力行為が6万件近くに上り、前年度より13%増の過去最多になった。うち約4万3000件を中学校が占める。

現在は従来軽いと思った例も報告するよう求めているため、数字だけで単純比較できないが、80年前後の「荒れる学校」時代と比べ、今の特徴的な傾向を学校現場は指摘する。「自分の感情を制御できない」「規範意識やコミュニケーション能力が下がってきている」などだ。

また、暴力を振るわれた教員たちの2割以上が病院の治療を受けているなど、行為に抑制がきかないこともうかがわせる。80年代は「番長」型のリーダーがグループを形成したが、今は目立たないおとなしい子供が突然感情を爆発させるともいう。

少子化、大学全入時代、経済格差など、子供の環境も変わった。個別の問題発生に対処し、子供に向かい合うとともに全体の傾向を読み取る必要がある。中でもコミュニケーション能力の陰りは深刻だ。これは今日の教育全体のテーマでもある。

それは小中高生に限らず、大学生や社会人にも指摘されている。例えば、大学で就職面接指導をすると、想定外の質問に混乱し、臨機応変な自己紹介や論理立てた説明を苦手とするなどの傾向が見られるという。

こうした状況から、新学習指導要領は初めて全教科で「言語力」育成を前面に打ち出した。国語や日常生活にとどめず、全教科で自分の考えをまとめ、表現し、相手の考えを理解し、思いやり、意見を交わし、判断する力をつけることを目指す。

このような背景や根本対策を考えなければ、年ごとの数値の上下のみに一喜一憂することになりかねない。データだけで判断してはならないのは、今回の調査で認知件数が減ったいじめの問題にもいえる。

件数からみた都道府県別発生割合は最大40倍も開きがある。積極的に取り組む学校ほど察知して件数が増え、そうでないところは表面上「問題のない学校」になりかねない。文科省もネットいじめなどはかなりチェックから漏れ、潜在化しているのではないかとみる。

教員や学校が深刻な問題を抱え込まず、教育委員会が支援をする。必要なら警察と連携する。過去の苦い体験はそう教えるが、必ずしも生かされていない。

学校・地域が必要な情報を共有し校内外で取り組むことも提言したい。背景に学力の課題があるなら、教員OBらボランティアによる学習指導支援も有効だろう。

そして学校と地域がそれぞれ工夫し、数値ではなかなか浮かんでこない各地の試みや成果を共有したい。

読売新聞 2009年12月06日

暴力行為調査 「キレる子ども」をなくすには

文部科学省の2008年度調査で、学校内外での小中学生の暴力行為が過去最多となった。教師と親が連携を図ると同時に、原因を究明し、対策を立てなければならない。

調査結果によると、小中学生、高校生が教師や仲間に暴力を振るったり、物を壊したりした暴力行為は約6万件に上った。07年度より約7000件も多い。暴力行為が低年齢化し、中学生だけで初めて4万件を突破した。

学校がいじめを認知した件数は減っている。だが、沖縄県で11月に起きた中2男子の集団暴行死事件では、いじめが暴力行為、犯罪へ発展したとみられている。いじめ件数が減ったからと言って、決して安心はできない。

最近は、おとなしそうな子が突然、キレる例が目立つという。

文科省は、暴力行為増加の背景として、感情を抑える力や他人と意思疎通を図る能力の不足、規範意識の低下などを挙げる。「問題を起こすのは、自分を大切にせず自信を持てない子に多い」という専門家の指摘もある。

昨今の子どもたちは、少子化や都市化、塾通いのために、遊ぶ仲間や場所、時間が減っている。インターネットなどの発達で、他人と直接触れ合う体験も少ない。

仲間との野外キャンプ、学校行事などを子ども自身に企画・実行させる。部活動に積極的に参加させる。具体的な目標を持たせ、さまざまな体験を通じて自信をつけさせることが大切だ。

家庭でのしつけも、おろそかにしてはならない。幼い頃から親子で過ごす時間を作り、基本的な生活習慣を身につけさせたい。

教師は、新しい学級の担任になった時には、早期に親との面談の機会を持ち、子どもの性格や家庭内での生活ぶりを把握する。

大事なのは、遅刻や早退、服装の乱れ、校内の落書きなど、小さな兆候を見逃さないことだ。

親や地域の住民に協力してもらい、校内の見回りなどを手伝ってもらうのも一つの手だろう。

問題が起きた時には、教師が一人で抱え込まないよう、校長が指導力を発揮し、学校全体で情報を共有してあたるべきだ。学校の手に余る場合には、警察や児童相談所など外部と速やかに連携し、毅然(きぜん)と対応しなければならない。

文科省の調査では、暴力行為増加の原因がはっきりしない。携帯電話やパソコンでの有害サイト、テレビゲームの利用状況と、暴力行為との因果関係などを調査し、分析していく必要がある。

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