日米協議決着 TPP交渉の勝負はこれから

朝日新聞 2013年04月13日

TPP交渉 意義と原則を見失うな

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で、交渉を主導する米国との事前協議が終わり、米政府は日本の参加を支援すると表明した。

日本政府は、豪州などからの同意取り付けを急ぐ。それを待って米政府は国内手続きを進める。日本が加わればTPPの交渉参加国は12カ国となり、国内総生産(GDP)の合計は世界の約4割を占める。

日本にとって、なぜTPP交渉への参加が必要か。

世界経済の先導役となっているのが、アジア太平洋地域だからだ。そこにしっかりとした自由貿易圏を築き、活力を取り込んでいくことは、日本経済の立て直しに欠かせない。

将来の「アジア太平洋自由貿易圏」へのルートは、3月に交渉が始まった日中韓の自由貿易協定や、5月にもスタートする東アジア全体の枠組みもある。カギを握るのは、世界2位の経済大国になった中国だ。

貿易や投資をめぐって不透明さが色濃く残る中国に、どう改革を促し、さらなる自由化へと巻き込んでいくか。

中国が、日米がそろうTPPに神経をとがらせ、東アジアでの交渉に積極的になったことも考えれば、TPPを核に他の交渉を動かしていくことが有力な解になる。その意義と効果は経済面にとどまらず、政治・外交面にも及ぶ。

米国とは、日本の交渉参加が決まった後、全体会合と並行して2国間で協議を重ねる。規制の透明性や基準、税制を中心とする自動車分野と、保険や知的財産権など9分野の非関税障壁のあり方がテーマだ。

日本政府には、不透明で理不尽な合意をしないよう、クギをさしておきたい。

米国とはすでに、米国が日本車にかける関税の撤廃を「最大限後ろ倒しする」ことなどで合意した。日本がコメなど高関税で守っている農産品への配慮を求めたことの裏返しだが、「聖域」にこだわるあまり、早くも米国ペースになっている。

「高い水準の自由化」というTPPの旗印に背くような合意をしたり、国民の安全にかかわる規制をいたずらに緩和したりしては、TPPへの疑念を広げる。大事なのは、国民全体にとっての利益である。

通商交渉の意義と原則を踏まえ、個々の問題で柔軟に対応する。そうして日本のメリットを大きくしつつ、影響を受ける国内の各分野では競争力を高める改革に取り組む。

いよいよ、政府の力量が問われる局面を迎える。

読売新聞 2013年04月13日

日米協議決着 TPP交渉の勝負はこれから

出遅れによる不利な立場をいかに巻き返すか。政府は総力を挙げて交渉に臨まねばならない。

日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に向け、最大のハードルだった米国との事前協議が決着した。

米国政府は議会に日本の参加を通知し、90日間の手続きを経て今夏に承認が得られそうだ。

11か国が進めているTPP交渉に日本が参加するには、すべての国の同意が必要である。

態度を保留していたカナダ、豪州、ニュージーランドも近く、同意するとみられ、日本が参加できる条件がようやく整う。7月にも日本が交渉のテーブルに着くめどがついたことを歓迎したい。

日米合意は、米国が日本から輸入する乗用車とトラックにかけている関税率の引き下げと撤廃時期を「最大限に後ろ倒しする」ことがポイントだ。輸入増を警戒する米自動車業界に配慮した。

日本郵政グループ傘下のかんぽ生命保険による新規事業は凍結する。政府出資が残る日本郵政の業務拡大は「公正な競争を阻害する」という、米保険業界の主張に沿った決着と言える。

米議会では、自動車や保険業界などと連携して日本参加を牽制(けんせい)する動きが出ていた。日本政府が早期参加の実現を最優先し、米側に譲歩したのはやむを得ない。

11か国はTPP交渉の年内妥結を目指している。残された時間は少なく、日本の参加が遅れれば遅れるほど、通商ルール作りに関与できる余地が狭まるからだ。

一方、事前協議で「日本には一定の農産品といった慎重に扱うべき事柄がある」とも確認した。

自民党はコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の例外扱いとするよう政府に求めている。各国からの自由化圧力は強く、米国との合意をテコに日本の主張がどこまで認められるかが焦点となろう。

自動車の関税引き下げ先送りを日本に求める動きが豪州などに広がり、輸出拡大にマイナスとなることにも要注意である。

安倍首相は12日の関係閣僚会議で、「国益を実現する本当の勝負はこれからだ。一日も早く交渉に参加し、交渉を主導していきたい」との決意を明らかにした。

政府は、したたかな戦略で交渉に当たってもらいたい。なにより大事なのは、自由貿易の拡大でアジアなどの活力を取り込み、日本の成長に弾みを付けることだ。

交渉と並行して、一段の市場開放による国際競争に備え、農業強化策を急ぐ必要がある。

産経新聞 2013年04月13日

TPP日米合意 攻めの姿勢で国益広げよ

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けた日米の事前協議が最終決着した。

米側の事後手続きの関係で日本の交渉への正式参加は早くても7月となる。政府は最大限の国益を確保するため、しっかりと「攻めの交渉姿勢」を貫いてほしい。

安倍晋三首相は「一日も早く参加し、交渉を主導していきたい」と意欲を示した。

関税撤廃の例外品目の獲得などが日本にとっては重要な課題だ。海外市場の活力を取り込むTPPへの参加は、国内の規制緩和の契機になる。

成長戦略の柱として農業の国際競争力の強化は不可欠で、交渉とあわせ、国内対策も強化していく必要がある。

日米協議では、日本側が政府の間接出資する、かんぽ生命保険の新事業を凍結するほか、簡単な手続きで海外から輸入できる自動車台数の拡大でも合意した。農産物などの関税撤廃には慎重な品目があることも盛り込まれた。

年内妥結を目指すTPPの日程は窮屈だ。日本が交渉に参加する最大のハードルは越えたが、米側は議会への通告期間が90日かかる。交渉日数は限られており、厳しいスケジュールの中で交渉をこなさなければならない。

交渉過程では、日本の農産品の関税撤廃や引き下げも浮上し、TPP交渉への批判が高まる事態なども予想される。だが、「守る」ばかりが国益ではない。

政府の試算ではTPP参加で農林水産業の生産額は3兆円減る一方、工業製品の輸出増や消費の拡大なども見込め、日本全体では国内総生産(GDP)を3兆円以上増やすとされている。

これは関税撤廃だけの試算だ。TPPはサービスや投資の自由化なども交渉対象で、もっと大きな経済効果が期待できる。

今後の農業対策にしても、農地の集約化と経営規模の拡大などを通じ、実効性のある農業の強化を図らなければならない。

1993年にウルグアイ・ラウンドでコメ市場の部分開放が決まった際、6兆円の農業対策を講じながら、多くは農村整備などの公共事業に充てた愚は繰り返してはなるまい。

日本経済の活性化につなげるためにも政府は国内対策とともに交渉を牽引(けんいん)し、実のある妥結を目指してほしい。

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