ネット選挙解禁へ 政治変える大きな一歩

朝日新聞 2013年04月12日

ネット選挙 双方向の回路を生かす

インターネットを使った選挙運動が、7月の参院選からいよいよ解禁される。

そのための公職選挙法改正案がきょう、衆院を通過する。参院の審議をへて、月内に成立する見通しだ。

選挙期間中は禁じられていた政党や候補者のホームページとブログの更新ができるようになるほか、ツイッター、フェイスブックといった「ソーシャルメディア」を利用した選挙運動が可能になる。

欧米や韓国では、政治と民意をつなぐ重要なチャンネルとして、ネットの選挙利用はすっかり定着している。

遅きに失した感はあるが、後援会や支持団体に寄りかかった閉鎖的な日本の政治文化を変えるきっかけにしたい。

ネット選挙の最大のメリットは、候補者と有権者の双方向性だろう。

従来の選挙公報やテレビの政見放送、街頭演説は、候補者が一方的に意見を発信するだけだった。それに接触できる有権者も時間も限られていた。

ツイッターやフェイスブックを使えば、有権者が候補者に直接質問をぶつけ、回答を聞くことができる。やり取りはネット上で公開され、他の有権者が議論に加わることも可能だ。

支持者以外の幅広い意見を聞くことで、政党や候補者が政策を肉づけしたり見直したりする機会にもなる。

有権者同士の議論や、ネットに慣れ親しんだ若い世代の政治参加を促す契機にもしたい。

もちろん、いいことずくめではない。

米国や韓国の大統領選を見ると、候補者への悪質な中傷がしばしばネット上に流れる。

改正案では、電子メールによる選挙運動を政党と候補者に限った。メールは他の利用者からやり取りが見えず、他人の「なりすまし」や中傷の温床になりやすいという理由からだ。

ただ、同じ内容を書いてもツイッターなら認められ、メールは駄目というのは、わかりにくい。改正案では、将来のメール解禁に含みを残す修正が施された。必要な対策を講じつつ、全面解禁をめざすべきだろう。

海外の先例をみると、ネットは良かれあしかれ、選挙の風景を大きく変えてきた。

ネット空間の大量の情報を政策に反映させる手法が広がる一方、候補者の一瞬の失言が動画で配信され、敗北を決定づけた例もある。

有権者の生の声が届き、政治に緊張をもたらすなら、ネット解禁の意味は大きい。

毎日新聞 2013年04月12日

ネット選挙解禁へ 政治変える大きな一歩

意義ある全会一致である。インターネットを使った選挙運動を解禁する公職選挙法改正案が衆院の特別委員会で可決され、今国会成立が確実となった。夏の参院選から実施され、ウェブサイトなどによる運動は全面解禁、政党や候補はメールによる運動も認められる。

若い世代を中心に広く普及するネットによる運動の解禁は選挙と有権者の距離を縮め、政治のあり方を大きく変える可能性がある。法整備の進展を歓迎したい。

改正案はツイッター(短文投稿サイト)やフェイスブックのような交流サイトも含めたウェブサイトで公示、告示後の政党や候補に対する支持の訴えなど、選挙運動を行うことを認める。政党や候補のみならず一般有権者による運動も可能だ。これまでこうした情報の発信は「文書図画」の頒布として禁止されていた。遅きに失した措置だが、ウェブ分野の全面解禁は評価できる。

一方、政党間で最後まで調整が難航したのはメールによる運動の扱いだ。自民、公明両党などは「なりすまし」や誹謗(ひぼう)中傷などの懸念から運動主体を政党や候補に限定するよう主張、一般有権者による運動も認めるべきだとする民主党やみんなの党と対立してきた。

結局、メールの全面解禁は見送られ、参院選の次の国政選挙で「実施状況の検討を踏まえ、解禁について適切な措置を講じる」ことを付則に盛り込むことで歩み寄った。メール送信は原則として事前に同意を得た相手が対象となる。

民主党などが主張するように国民本位という観点からメールも有権者に解禁すべきだという議論にも一理ある。だが、ネット選挙を着実に定着させるためにも、最初はある程度慎重を期すことはやむを得まい。

解禁は時の流れだが、多くの課題があることも事実だ。メールによる氏名の虚偽表示や一般有権者による不特定多数相手のメールによる運動には罰則など制裁が科される。ウェブサイトとの扱いの違いが周知されないと混乱を生むおそれがある。

いったん不適切な情報が拡大した際のダメージを危ぶむ声は政界に根強い。政党や候補がプロバイダーに「名誉を侵害された情報」の削除を求めるシステムにしても、有効に機能するかどうかは未知数の部分が多い。運用の目安として、各会派はガイドライン作成を目指している。責任ある運用に努めるのは当然だ。

解禁に伴い予期せぬ課題が発生したり、ある程度の混乱が生じたりすることは避けられまい。だからといって過剰に反応せず、課題に冷静に対処すべきだ。目指すのは政策論争の向上である。

読売新聞 2013年04月19日

ネット選挙へ 「悪意」の発信をどう防ぐか

日本でもようやくインターネットを利用した選挙運動が解禁される。若者に政治参加を促す効果が期待できよう。

公職選挙法改正案が参院の特別委員会で全会一致で可決された。きょう成立し、夏の参院選から適用される。

法案は、ホームページやブログのほか、ツイッター、フェイスブックなどによる公示・告示後の選挙運動を可能にする。

多くの先進国がネット選挙を認めている。2008年米大統領選で、オバマ氏は情報発信や有権者との対話に駆使して若者に支持され、「選挙革命」と呼ばれた。

日本は、周回遅れではあるが、有権者に適切な判断材料を提供し、投票率を向上させる手段として新制度を活用すべきである。

政党や候補者は、従来のように選挙カーで名前を連呼し、ビラを配るだけでは済まされない。短時間の街頭演説では伝えにくい経済や安全保障政策についてもネットで丁寧に訴える必要がある。

有権者のメリットは、政党や候補者の主張を詳しく知ることができる点だ。候補者とネット上で対話することや、候補への支持をツイッターなどで広く呼び掛けることも可能になる。

ただし、電子メールを使った選挙運動は悪用されやすいため、政党と候補者に限定された。慎重を期して、全面的な解禁を避けたのは、妥当な判断である。

与野党は具体的な運用指針を作成中だ。候補者と有権者双方に混乱が生じないよう、制度の周知徹底を図ってもらいたい。

課題は、特定候補の落選を狙った誹謗(ひぼう)中傷や、候補者本人を装ってウソの主張をする「なりすまし」をどう防ぐかである。

悪質なケースは名誉毀損(きそん)罪や公選法の虚偽表示罪に問われるとはいえ、ネット情報は急速に拡散し、完全に消去するのは難しい。

法案は、ウェブサイトやメールによる選挙運動を行う際にメールアドレスなど連絡先の表示を義務づけた。表示がなければ、プロバイダー(接続業者)は削除することができる。悪質な情報の発信に一定の歯止めにはなる。

ネットでの情報を監視し、反論、差し止めをする責任は政党と候補者が担う。公的な監視機関を置くかどうかは検討課題である。

昨年の韓国大統領選では、中央選挙管理委員会の「サイバー選挙不正監視団」が7000件超の不適切なネット投稿を削除したという。日本でも、こうした機関が必要になるかもしれない。

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