日本と台湾がきのう、沖縄県・尖閣諸島周辺での漁業協定に署名した。
台湾が求める周辺海域での漁船の操業を認める一方、尖閣を含む日本領海への立ち入りは認めない――。
対立する尖閣問題を回避しつつ、双方の顔を立てた「大人の知恵」といえよう。
協定は、八重山諸島や尖閣周辺の海域に台湾の漁船も入れることとし、乱獲対策などを話し合う漁業委員会をつくる。
日本側は、尖閣から12カイリの領海に台湾漁船が入ることは認めないものの、協定ではこの点を必ずしも明確にせず、「領海」という言葉遣いを避けている。うまい工夫だ。
これにより、日台のトラブルが解消され、尖閣周辺での不測の事態を避けることにつながることを期待する。
日本は、ロシア、中国、韓国とはすでに漁業協定を結んでいる。一方、台湾との間では96年から16回も交渉したが、合意に至らなかった。
72年に日本が台湾と断交して中国と国交を結んだ歴史的な経緯に加え、台湾に漁業権を認めるメリットを日本側が見いだせなかったという事情がある。
それが、昨年9月に日本政府が尖閣を国有化したことで変わった。
中国同様、かねて尖閣の領有権を主張していた台湾も国有化に猛反発したが、逆に、これをきっかけに中断していた漁業協定交渉が動き出した。
尖閣問題で中台双方と対立することを避けたいという日本側の思惑だけではない。
台湾にとっても、中国の動きは気がかりだった。
中国は、「漁民の権益を守るのは両岸(中台)双方の責任」として、台湾側に連携を呼びかけている。
もとより台湾には、中国と手を組む考えはない。だが、もし尖閣周辺の台湾漁船を中国の公船が守り、日本の巡視船と対抗したら苦しい対応を強いられる。実際、1月に台湾の活動家の船が尖閣周辺海域に出た際は、中国の海洋監視船も接近してきた。
こうした事情も、双方の背中を押したようだ。
もともと、日台は良好な関係にある。台湾の最大の輸入元は日本であり、全体の2割近くを占める。東日本大震災の際は、台湾からの義援金が約200億円に達した。
今回の協定を機に、さらに交流が活発になることを望む。
中国との関係改善も、こうした大人の知恵で乗り切りたい。
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