原発汚染水漏れ 場当たり対応は限界だ

朝日新聞 2013年04月09日

汚染水漏れ 福島原発の態勢見直せ

福島第一原発で、放射能汚染水が地下貯水槽から漏れていたことがわかった。

同原発では、急造の設備で原子炉に水を注ぎ、冷やし続けている。汚染された水は海に流せず保管するしかない。その汚染水の一部が漏れた。

先月起きた長時間の停電を含め、原発事故がなお継続していることを物語る。

核燃料を取り出すまで、抜本的な解決策は見あたらない。電源確保や汚染水タンクの増設など、リスクに先手を打つしかないが、後手に回っている。

今回も3月中旬から水漏れをうかがわせるデータがありながら、対応が遅れた。

現状は、東京電力の管理能力を超えているのではないか。

汚染水について、そもそもの誤算は冷却水をループ状に使い回して原子炉を冷やす「循環冷却」ができなかったことだ。

地震や水素爆発で原子炉建屋にひび割れができたらしく、1~4号機の建屋内には1日400トンもの地下水が流れ込む。炉心を冷やした水は一部を再び冷却用に循環させるものの、流入分だけ汚染水が増える。

福島第一は、いわば原子炉冷却を通じた「汚染水生産工場」と化している。

地下水をくみ上げて流入量を減らしたり、放射性物質をできるだけ除去した汚染水を海に流したりする計画はあるが、実効性や早期の実現性は疑問だ。

東電は当面、大量の漏れが見つかった2号地下貯水槽からだけ汚染水を移し、ほかは水位を少し下げて使い続ける。不足する分は、地上タンクの増設を前倒しし乗り切る考えだ。

しかし、地上タンクも盤石ではない。接合部が経年劣化して水漏れを起こす危険が指摘されているうえ、原発敷地内にはタンクを設置する場所もなくなりつつある。

遅まきながら東電は「福島第一信頼度向上緊急対策本部」を設けた。汚染水、機械設備、電気設備、土木・建築設備の四つの対策チームをつくり、リスクを洗い出す。外部に助言を求める方針も明記した。

国はもっと積極的に関わる必要がある。海外を含め、様々な分野から知恵や人材を集めるため、原子力規制委員会とともに指導力を発揮すべきだ。

茂木敏充経済産業相は東電の社長に「会社一丸となって取り組んでほしい」と求めたが、汚染水タンクの設置場所がなくなった場合の対応ひとつとっても、東電任せでは限界がある。政府と東電が一丸となった態勢をつくらなければならない。

毎日新聞 2013年04月09日

原発汚染水漏れ 場当たり対応は限界だ

放射性汚染水が東京電力福島第1原発の地下貯水槽から漏れ出た。放射能の漏えい量は、政府が11年12月に「冷温停止状態」を宣言して以来最多になるという。原発事故はいまだ収束していないことが、改めて浮き彫りになった。

この間、東電は漏れの兆候を見逃し、情報の公開も遅れるなど、その対応はお粗末な限りだ。第1原発の廃炉作業を東電任せにしておいて良いのか、疑問を持たざるを得ない。原子力規制委員会や原子力規制庁の監視体制も改めて問われよう。

地下貯水槽は7カ所あり、計5万8000トンの容量がある。いずれも地面を掘り下げ、その上を3層の防水シートで覆った仮設の設備で、タンクに比べコストがかからない。このうち2カ所で漏えいが判明した。

約800メートル離れた海へ流出する可能性はないと東電は言うが、原因究明と再発防止対策は急務だ。漁業など風評被害への対応も欠かせない。

貯水槽の水位は3月中旬から下がり始め、その後、シートの外側で放射性物質も検出したのに、東電は漏えいと判断せず、速やかな公表もしなかった。先月起きた使用済み核燃料プールの冷却停止で情報公開の遅れが批判されたにもかかわらず、その危機管理意識の低さ、相変わらずの隠蔽(いんぺい)体質にはあきれるほかない。

第1原発では、増え続ける放射性汚染水の保管対策が喫緊の課題となっている。地下水の流入で汚染水は毎日約400トンも増える。東電は貯水槽やタンクの増設で対処する計画だが、貯水槽の漏れが他にも見つかれば、ほころびかねない。汚染水を蒸発させて容量を減らす減容化なども検討する必要が出てくるだろう。

廃炉作業は40年間も続く。仮設の設備でしのぐ場当たり的対応は限界に近い。国会事故調査委員会の委員を務めた野村修也弁護士は8日の衆院原子力問題調査特別委員会で、汚染水処理などについて「国民の代表が専門的知見をもって、国民目線で関与すべきだ」と指摘した。国や東電は、実施体制を含め廃炉計画の抜本的な見直しに取り組むべきだ。

今回のトラブルでは、規制委の監視機能もうまく働かなかった。規制委は昨年11月、第1原発を改正原子炉等規制法に基づく特定原子力施設に指定し、廃炉完了まで作業を監視する体制を整えた。問題の貯水槽については、法的な使用前検査などはせず、東電が作成した建設計画を事実上追認していたという。

規制委の出先機関である第1原発原子力規制事務所の職員は8人しかいない。事故の収束にはほど遠い、不安定な現場に対応するには、不十分ではないか。実践能力の高いスタッフを拡充すべきである。

産経新聞 2013年04月09日

汚染水漏れ 「現場の疲弊」を解消せよ

廃炉まで続く「水との戦い」に向けて、汚染水処理対策を立て直す必要がある。

東京電力福島第1原発の地下貯水槽から、放射性物質を含む汚染水が漏れた問題で、原子力規制委員会は東電に対し、原因究明と対策の徹底などを指導した。

第1原発の敷地内には7つの地下貯水槽があり、ほぼ満杯状態の2号貯水槽と3号貯水槽で汚染水漏れが確認された。流出した汚染水は2号から最大120トン、3号からはごく少量(0・3~3リットル)と推定される。

ただちに、敷地外への拡散が懸念される事態ではない。規制委の更田豊志委員は、今後も地下貯水槽を使用せざるを得ないとの見方を示した。

今回の汚染水漏れで7つの地下貯水槽(容量計5万8千トン)の信頼性は大きく揺らいだ。地下水の流入などで、汚染水は1日に400トンずつ増える。東電は、広瀬直己社長をトップとする緊急対策本部を設置した。原因究明と再発防止策の確立により、住民の不安払拭に努めなければならない。

ただ、東電だけで汚染水処理計画をはじめとする廃炉への工程を安定的に進めることは不可能だ。政府が積極的に関わって廃炉工程を支えていく必要がある。

福島第1原発は先月から、トラブル続きである。3月の大規模停電では、燃料貯蔵プールの冷却が約29時間停止した。原因は配電盤に侵入したネズミだった。

今月5日、今度は、その小動物侵入を防ぐ対策を配電盤に施している間に、作業ミスで3号機燃料貯蔵プールの冷却が止まった。汚染水を浄化するために試運転を始めたばかりの「多核種除去設備(ALPS)」が作業員の誤作動で一時停止する事態も起きた。

こうしたトラブルの背景には、「現場の疲弊」があるとみるべきだろう。東電の負担が限界を超え、作業員らの士気が低下すると、大きな事故にもつながりかねない。

40年かかるとされる廃炉への道のりは、始まったばかりだ。その工程を持続可能なものとするためには、「現場の疲弊」を解消するしかない。

例えば、長期的な電源確保や汚染水処理計画などでは、あらゆる技術を結集する「オール・ジャパン体制」を築くことで、現場の負担は軽減できるのではないか。

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